予定に近づいているだけ
エルンストと、少し仲良くなれた気がしている。
それだけで、胸の奥がふわっと軽くなった。
(……うん、嬉しい)
騎士科の中でも有名な人。
強くて、真面目で、誰に対しても誠実。
前世の私が“最推し”だった理由を、今さら実感している。
だからこそ。
「女の子に渡すプレゼントで、悩んでてさ」
そう言われた時は、正直、びっくりした。
「えっ」
思わず声が出たのを、慌てて誤魔化す。
(……そ、そっか)
考えてみれば、当たり前だ。
ここは乙女ゲームの世界。
でも、私はもう“ヒロインの軌道”から外れている。
だって――
私は、ベルンハルトと恋人だ。
しかも、かなり早い段階で。
本来なら三年間かけて、
好感度を上げて、イベントを踏んで、
やっとエンディングに辿り着くはずだったのに。
私は、二年目に入る前に、確定ルートに入ってしまった。
(……そりゃあ、世界も調整するよね)
前世の記憶が、すっと整理される。
イベントは起きる。
条件を満たせば、予定通りに。
でもそれは、
“ヒロインが攻略するため”だけのものじゃない。
この世界では、
攻略対象たちも、ちゃんと生きている。
選んで、悩んで、恋をする。
ヒロインじゃない、誰かを。
(……あ)
エルンストが、誰かを想ってプレゼントを選ぶ。
それは、ゲームでは見られなかった光景だ。
でも、現実としては、すごく自然。
(……そうだよね)
私がベルンハルトを選んだから。
私が、もう“その役割”を担っていないから。
イベントは起きても、
行き先は、変わる。
(……なんだ)
胸の奥にあった違和感が、少し溶ける。
エルンスト推しのカレンとしては――
正直、嬉しい。
(推しの恋、応援したいよね!)
誰かに大切にされて、
誰かのために悩んで、
幸せになる推し。
最高じゃない?
「どんなのがいいと思う?」
真剣な顔で聞かれて、
私は少しだけ考えた。
(……アイナ、だよね)
名前は出さない。
でも、あの控えめで一生懸命な子。
「その人のこと、よく見てるって伝わるものがいいと思う」
無難だけど、嘘じゃない答え。
エルンストは、少し驚いたあと、笑った。
「……なるほど」
その笑顔に、胸がきゅっとする。
(尊い……)
でも、それは“推し愛”。
恋とは、違う。
(……ちゃんと、分かってる)
私は、ベルンハルトが好きだ。
彼に触れられると、心臓が跳ねる。
彼の声で、安心する。
エルンストにときめくのは、
過去の延長線。
記憶の名残。
(……危なくない、はず)
イベントは、予定に近づいているだけ。
私は、踏んでいるわけじゃない。
選んでいるわけでも、奪っているわけでもない。
ただ、
世界が用意した“出来事”のそばを、歩いているだけ。
(……うん、大丈夫)
そう思いながら、私は歩く。
自分の足元を、
ちゃんと見ているつもりで。
けれど。
その“軽さ”こそが、
誰かの目には、少し危うく映っていることを――
私は、まだ知らない。




