偶然が、重なりすぎている
ベルンハルトは、食堂の一角で足を止めた。
昼休み。
人の声と食器の音が混じる、いつも通りの光景。
――そのはずだった。
視線の先。
カレンが、エルンストと向かい合って座っている。
談笑。
ほんの短い時間。
笑顔は控えめで、身を乗り出すほどでもない。
(……談笑、だな)
事実だけを切り取れば、そうなる。
騎士科と魔術科。
学園では珍しくもない組み合わせ。
助けられた礼を言う程度なら、問題はない。
(……一つなら)
ベルンハルトは、視線を外した。
それ以上、見なかった。
だが。
廊下を曲がった先で、また起きる。
「おはよう、エルンスト君」
名前を呼ぶ声。
自然で、躊躇いがない。
エルンストが足を止め、軽く手を上げて応える。
「おはよう」
ただの挨拶。
誰にでも起きる、朝のやり取り。
(……二つ目)
胸の奥で、数える。
偶然は、重なることがある。
一度や二度なら、そういう日だ。
ベルンハルトは、そう判断する人間だ。
だが、その日の放課後。
「ねえ、ベルンハルト」
カレンが、ふと思い出したように言った。
「プレゼントって、何がいいと思う?」
(……?)
問いかけは、軽い。
誰にでも聞くような調子。
「……誰に」
一拍置いて、そう返す。
「えっと……騎士科の人で……」
名前は、出なかった。
だが、浮かぶ顔は一つしかない。
(……三つ目)
ベルンハルトは、黙って考えた。
――事象は、関連していない。
――因果は、証明できない。
――感情で繋げるのは、危険だ。
理論派として、彼は自分に言い聞かせる。
それでも。
“多すぎる”。
食堂。
廊下。
相談。
それぞれは軽い。
だが、同じ人物が、同じ人物と、同じ日で起きている。
(……踏んでいるな)
心の中で、そう表現した。
カレンは、悪意なく。
選択したつもりもなく。
ただ、予定に近づいただけ。
(……知らずに)
それが、いちばん厄介だ。
ベルンハルトは、カレンを見る。
彼女は、こちらに気づくと、手を振った。
いつも通りの笑顔。
(……信じている)
それは、今も変わらない。
だが同時に、
“信じる”と“見逃す”は、違う。
(……現実として)
何かが、発生している。
カレンが変わった、あの日から。
否定できない頻度で。
自分の胸の奥が、
静かに、だが確実に重くなっていること。
(……偶然、か)
ベルンハルトは、息を整えた。
感情で動く気はない。
問い詰める気もない。
だが――
“距離”と“場”の管理は、必要だ。
それは独占ではない。
守るための調整だ。
(……もう少し、近くで)
彼は、そう決めた。
カレンが無意識に踏んでいく“予定”を、
これ以上、放置しないために。




