祝福を授かった子
産声は、澄んだ鈴の音のようだった。
夜明け前の静かな部屋に、ふわりと光が満ちる。
それは灯りでも魔術陣でもなく、祝福そのものが呼吸するような――
あまりにも自然で、あまりにも圧倒的な輝きだった。
「……産まれました」
その声に、張りつめていた空気が一斉にほどける。
小さな体。
柔らかな指。
まだ閉じた瞳。
男の子だった。
カレンは汗に濡れた額のまま、腕に抱かれたその温もりを見つめていた。
自分の中から生まれてきたとは思えないほど、確かな存在感。
「……あったかい……」
震える声でそう言って、そっと頬を寄せる。
胸の奥に、涙とも安堵ともつかない感情が込み上げてきた。
その瞬間だった。
治癒術師が息を呑み、
魔術師が顔色を変え、
神官が思わず数歩下がる。
「……これは……」
誰かが、言葉を失ったように呟いた。
赤子の周囲に、淡い魔力の揺らぎが広がっている。
暴れることも、荒れることもなく、ただ静かに、深く。
まるで呼吸のように、一定の律動で満ちては収束していく。
「……魔力量が……多すぎる」
それは驚きではなく、確認だった。
否定の余地がない事実を、口に出しただけの声。
ベルンハルトは、その光景を一歩引いた場所から見ていた。
カレンと、腕の中の小さな命。
そして、その命から自然に溢れ出す“濃度”。
喉が、無意識に鳴る。
(……これは)
祖父の横顔が、脳裏をよぎる。
祖母の、あの穏やかな微笑み。
そして、語られることのなかった最期。
――愛に耐えきれなかった。
――祝福に溺れすぎた。
アイゼン家では、昔から語られてきた言葉がある。
「執着は、力と同時に生まれる」
この子は、疑いようもなく“それ”を持っている。
しかも、祝福の純度が高すぎる。
覚悟がいる。
育てる覚悟も、守る覚悟も。
そして、愛される側の覚悟も。
だが。
ベルンハルトは、視線をカレンに戻した。
涙を浮かべながら、必死に微笑む彼女。
何も知らず、ただ我が子を「可愛い」と思っている、その表情。
(……この人だけは)
知らなくていい。
少なくとも、今は。
神官が、深く息を吸い、声を整えた。
「祝福は、安定しています。
二柱の加護は、確かにこの子に宿っています」
治癒術師が続く。
「母体にも問題はありません。
むしろ……守られている、と言うべきか」
重かった空気が、ゆっくりと明るさを取り戻していく。
「おめでとうございます」
その言葉が、ようやく本当の意味で響いた。
カレンはその声に気づき、顔を上げる。
「……ありがとうございます」
そして、胸いっぱいの笑顔で言った。
「ね。元気な子だね」
ベルンハルトは一歩近づき、
そっと、カレンと子どもを包むように手を添えた。
「……ああ」
その声は低く、静かだった。
(守る)
誰よりも深く。
誰よりも強く。
この祝福が、いつか“重さ”になるとしても。
そのすべてを引き受けるのは、自分だ。
カレンは何も知らず、
腕の中の命に、ただ優しく微笑んでいた。
――それでいい。
それが、この家の選択だった。
さりげなくლ(˘ω˘ ლ)サリゲナク…
二柱はヤンデレの種を祝福しました。




