アイゼン家総出。
扉が閉まった瞬間、空気が変わった。
広い私室。
普段は静謐で落ち着いたその部屋に、今日は異様な緊張が満ちている。
神官。
宮廷魔術師。
治癒術師。
医師。
そして、アイゼン家当主夫妻。
――全員が揃っていた。
ベッドに横たわるカレンは、少し青白い顔で天井を見つめている。
その手を、ベルンハルトは強く、けれど震えを隠せずに握っていた。
(頼む……奪わないでくれ)
胸の奥に、嫌な記憶がよぎる。
愛が深すぎた祖父母。
互いを想いすぎて、壊れてしまった結末。
「耐えられなかった」とだけ語られた、あの最期。
同じ血が流れている。
同じアイゼン家だ。
(俺は……守れるのか)
喉がひくりと鳴る。
セナは唇を結び、オーレンは腕を組んだまま一言も発さない。
覚悟を決めた者の沈黙だった。
長い診察が続いた。
魔力の流れ。
体調。
魂の安定。
神官の祈りが、低く静かに部屋を満たす。
そして。
「――おめでとうございます」
その言葉が落ちた瞬間。
張り詰めていた糸が、音を立ててほどけた。
「妊娠されています。母子ともに問題はありません」
一拍。
次の瞬間、部屋の空気が一変する。
セナが息を呑み、両手で口元を覆った。
オーレンは目を閉じ、深く息を吐く。
神官は穏やかに微笑み、治癒術師たちは頷き合った。
「……よかった」
ベルンハルトの声は、掠れていた。
気づけば、視界が滲んでいる。
胸の奥を締め付けていた恐怖が、熱を持って溶けていく。
「カレン……」
握っていた手を、今度は包み込むように両手で覆う。
「ありがとう。……本当に、ありがとう」
カレンは少し困ったように笑って、弱々しく指を動かした。
「……そんな顔しないで。生きてるよ、ちゃんと」
その一言で、ベルンハルトの理性は完全に崩れた。
額を彼女の手に押し当て、肩が震える。
声を出せば、きっと止まらなくなる。
セナがそっと近づき、優しく言った。
「大丈夫よ。アイゼン家は、今度こそ守るわ」
「儚くはさせない」
オーレンの低い声が続く。
「家も、国も、総出だ」
その言葉に、ベルンハルトは顔を上げた。
重い家名。
逃げ場のない血筋。
けれど今は――
それが、こんなにも心強い。
光が、差し込んでいた。
窓から射す陽光が、ベッドを、カレンを、部屋にいる全員を包み込む。
まるで祝福のように、やわらかく、温かく。
ベルンハルトは、もう一度、彼女の手を強く握った。
(奪わせない)
(誰にも)
(俺たちの未来を)
胸に満ちるのは、恐怖ではない。
確かな喜びと、
守るべきものを得た覚悟だった。




