待ち望んだ夜
扉が閉まる音が、静かに夜を区切った。
新居の寝室は、祝宴の喧騒から切り離されたように静まり返り、淡い灯りが壁を柔らかく撫でている。
白を基調とした室内に、花の香りがかすかに残っていた。
隣にいる彼女が、少しだけ息を整しているのがわかる。
その呼吸の間合いさえ、愛おしい。
視線を向けると、花嫁衣装を脱いだカレンが、薄布越しに立っていた。
肩の線はなだらかで、鎖骨に灯りが影を落とす。
髪はほどかれ、絹糸のように背へ流れ、わずかな動きに合わせて揺れた。
――美しい。
言葉にすると軽くなる気がして、胸の奥にしまい込む。
代わりに、そっと近づいた。
距離が縮まると、彼女の体温が伝わる。
暖かく、確かで、逃げ場のない現実。
それだけで、胸が満ちる。
手を伸ばし、指先で頬に、額に、髪に触れた。
触れる前に、彼女のまつげが揺れ、息がわずかに詰まる。
拒まれないと知っていても、慎重になる。
この夜は、奪うためのものではない。
「……やっとだ」
額に、ひとつ、口付けを落とした。
次に、こめかみ。
彼女の吐息が、熱を帯びて耳元にかかる。
唇を重ねる前に、目が合った。
不安も期待も、全部抱えた瞳。
それを見た瞬間、胸が締め付けられる。
――俺の妻だ。
重ねた唇は、軽く
確かめるように、ゆっくりと。
少しづつ深く…深く…吐息がまざる
彼女の呼吸に合わせ、同じ速さで息を吸う。
腕の中に引き寄せると、細い背中が腕に収まった。
肩甲骨の位置、背骨のライン。
その一つ一つが、今はすべて俺のものだという実感が、静かに広がる。
彼女の指が、遠慮がちに胸元に触れる。
布越しに伝わる、かすかな圧。
それだけで、鼓動が強くなるのを抑えられなかった。
息が近い。
音が、熱を持つ。
夜は、まだ長い。
急ぐ理由はどこにもない。
俺は彼女を抱き締め、囁く。
「大丈夫だ。ここにいる」
その言葉に、彼女の肩の力が抜けた。
それを感じて、ようやく自分も息をつく。
月灯りの下で、二人の影が重なる。
熱に浮かされ潤んだ瞳が絡みあい
深く深く…
俺は、愛しい妻に溺れていく…
静かな幸福が、ゆっくりと夜を濃くしていった。




