恋人。
図書室の一角は、午後の光が薄く差し込む静かな場所だった。
高い書架が視線を遮り、外の喧騒は遠い。
紙の匂いと古い木の気配が、二人の呼吸を包み込む。
カレンは、ベルンハルトと唇を重ねながら、胸の奥が満ちていくのを感じていた。
拒まなければならない――頭ではそう理解している。
それでも、迷いが言葉になる前に、彼の視線が確かめるように落ちてくる。
問いではない。
確認だ。
逃げ道を残さない、静かな確信。
触れ合うたび、息が絡み、
耳元に落ちる吐息が甘く震えた。彼は急がない。
重ねては離し、また重ねる。
そのたびに、カレンの反応を確かめるように、
ほんの一瞬、距離を置く。
離れるたびに心が引き戻され、
戻るたびに、安堵が広がった。
「俺だけの傍にいろ」
低く、揺るがない声。
命令ではないはずなのに、断定があった。
「レオンのもとへ行くな」
その言葉に、胸がきゅっと縮む。
けれど、同時に、守られているという感覚が広がるのを、否定できなかった。
「他の男たちにも近寄らせない」
ベルンハルトの瞳は、逸らさない。
支配ではなく、選択を迫る視線だった。
カレンは瞬きを一度だけして、息を整える。
答えを急がせない沈黙が、二人の間に落ちる。
やがて、彼はそっと距離を戻し、額を軽く触れ合わせた。
温度が伝わる。
そこにあるのは、確かな存在感だけだ。
「帰りは、俺の馬車で送る」
静かな宣言。
カレンは小さく息を吐き、頷いた。
胸の鼓動はまだ速い。
それでも、足元は不思議と安定していた。
恋人――その言葉が、
初めて現実味を帯びて、心に落ちた。




