書架の隙間に差し込む光
いつもの教室。
窓から差し込む午前の光は柔らかく、机の木目を淡く照らしていた。
周囲は変わらない。生徒たちのざわめき、紙をめくる音、インクの匂い。
けれど――
隣に座るベルンハルトだけが、違っていた。
横顔は静かなまま。
姿勢も、表情も、いつもと同じ。
それなのに、ふと視線が重なった瞬間、空気が張り詰める。
カレンは、思わず息を飲んだ。
瞳に宿る熱。
逃がさないと告げるような、深い色。
(……ベルン?)
ベルが鳴り、授業が始まる。
教師の声が教壇から流れ、皆が前を向く。
そのとき。
ベルンハルトの手が、そっとカレンの太ももに添えられた。
驚いて身を強張らせるが、力は込められていない。
ただ、そこに在るという主張だけが、確かだった。
(え……?)
今までは、指先が触れるだけだった。
手の甲、指、ほんの一瞬の接触。
それが――今日は、違う。
ベルンハルトは前を向いたまま。
けれど、その意識がこちらにあることは、疑いようがなかった。
胸が早鐘を打つ。
声を出せない。
周囲は授業に集中している。
ベルが鳴り、休憩時間になる。
その直後。
教室の入り口に、レオンの姿が現れた。
空気が、冷える。
カレンの呼吸が浅くなった、その瞬間だった。
ベルンハルトは立ち上がり、何の躊躇もなくカレンの腕を取る。
腰に手を添え、迷いなく歩き出した。
レオンの存在を、まるで視界に入れないまま。
「……ベルン?」
返事はない。
ただ、導く力だけが確かだった。
辿り着いたのは、図書室の一角。
高い書架に囲まれ、外の気配が遮られる場所。
足を止め、ベルンハルトは振り返った。
一拍。
それから、カレンの唇に口付ける。
静かに。
深くならないように、けれど確かめるように。
一度。
二度。
何度も、重ねる。
離れては、また触れる。
拒まれていないか、逃げないか。
そのすべてを、唇で問いかけるように。
カレンは、目を閉じた。
逃げなかった。
押し返さなかった。
ただ、そこに立って、受け止めていた。
ベルンハルトの額が、そっと触れる。
「……カレン」
低い声。
押さえた声音。
それだけで、胸がいっぱいになる。
書架の隙間に差し込む光が、二人を包んでいた。
外では、何事もなかったように、時間が流れている。
けれど、この小さな空間だけが、
確かに、変わり始めていた。




