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溺愛ハッピーエンドが欲しくて頑張ったのに、なぜか彼氏はヤンデレ化した  作者: ChaCha


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別れ際の口付け

ベルンハルトは、カレンに唇を重ねた。

確かめるように、逃がさないように。

一度、二度、三度――上書きするように、深く。


けれど、ほんの一瞬。

カレンの身体が、強ばった。


両手が胸に当てられ、静かに押し返される。


「……ご、ごめんなさい」


声は小さく、震えていた。

拒絶ではない。けれど、受け止めきれないという、悲しい合図。


ベルンハルトは、言葉を探したが見つからなかった。

喉の奥に何かが詰まり、息が浅くなる。


「……」


「明日は……学園には……」


続きを言い切れず、カレンは視線を伏せた。


「迎えは……要らないです」


その一言で、すべてが決まった気がした。


 


アイゼン家へ向かう馬車の中、

ベルンハルトは一言も発さなかった。


自室へ戻り、ローブを脱ぐ。

いつものように湯殿へ向かうが、湯気の温度すら遠い。


湯に浸かりながら、

――カレンを失う未来を、具体的に想像してしまった。


胸の奥が締めつけられ、吐き気が込み上げる。

息が苦しい。

心が、引き裂かれる。


本来なら。

彼女は、俺の妻になるはずだった。


将来を語り、手を取り、

互いに疑いもしなかった未来。


これは、間違っている。


湯殿を出たあと、ベルンハルトは机に手をついたまま動かなかった。

窓の外では夕暮れが進み、橙色の光が部屋を満たしていく。

だが、その温度は、彼の内側には届かない。


――許可証は覆らない。

――彼女は、奪われた。


理性は、そう告げていた。


それでも、胸の奥で別の声が囁く。


(……違う)


奪われたのではない。

追い込まれたのだ。

選ばされたのだ。


ベルンハルトの指先が、わずかに震える。


「俺が……遅かった」


零れた言葉は、悔恨ではない。

怒りだった。


底知れない感情が、静かに、しかし確実に広がっていく。


思い出す。

避暑地での笑顔。

湖畔での囁き。

自分だけに向けられていた、あの無防備な眼差し。


(……あれは、俺のものだ)


他の誰にも向けられるべきではない。

向けさせてはいけなかった。


ベルンハルトは、ゆっくりと立ち上がる。

その歩みに、迷いはなかった。


彼女が怯えた夜。

踏み込めなかった自分。

抱き締めて、上書きすべきだった瞬間。


それらすべてが、胸の内で歪み、結び直されていく。


――次は、間違えない。


その決意だけが、

沈みゆく夕暮れの中で、確かな輪郭を持っていた。


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