隣りに寄り添う者。
アイナとの会話を終えて、
カレンは静かにカフェテラスを出た。
午後の光が差し込む回廊は、人の気配が薄く、
さっきまでの重たい言葉だけが胸の奥に残っている。
――ここまで来たら、戻れない。
そう理解したはずなのに、足取りは軽くならなかった。
「友人との話は終わったか?」
声がして、カレンは立ち止まる。
柱の影から現れたのは、レオンだった。
まるで最初からそこにいると分かっていたかのような、
余裕のある立ち姿。
カレンは答えられず、視線を落とす。
レオンは一歩近づき、
その仕草だけで空気が変わった。
「……元気がないな」
伸ばされた手が、そっと腰に添えられる。
拒めばいいと、頭では分かっているのに、
身体は一瞬、反応が遅れた。
「俺を見ろ」
低い声。
逃げ場を塞ぐように、顎に指がかかる。
カレンは顔を上げてしまった。
近い。
瞳が絡む。
レオンの視線は、獲物を見るものではなく、
何かを確かめるような、奇妙な執着を帯びていた。
震える睫毛。
憂いを帯びた横顔。
それを見つめるレオンの表情が、
ふっと緩む。
「君は本当に……目が離せない」
髪に、軽く口付けが落ちる。
熱を残さない、けれど逃がさない距離。
カレンの肩がわずかに揺れた。
耳元に唇が寄せられる。
「君は俺の心を捉えて離さないな」
その言葉に、胸がざわつく。
「……っ」
思わず、カレンは両手を胸元に置き、
距離を取ろうと押し返した。
レオンはそれを拒まず、
しかし離れもしない。
「大丈夫だ。ここは学園だ」
まるで安心させるような声で、
逆に縛り付ける。
短く、確かめるように、
唇が重なった。
深くはない。
けれど、はっきりとした意思のある口付け。
カレンは息を詰め、
すぐに身を引いた。
「……やめてください」
小さな声。
レオンは肩をすくめ、楽しそうに笑った。
「嫌なら、もっと強く拒めばいい」
そう言いながら、
自然な仕草で並び立ち、歩き出す。
まるで最初から隣にいるのが当たり前のように。
学園の廊下。
行き交う生徒たちの視線。
誰も異変に気づかない。
甘い空気だけが、二人の間に残る。
その少し離れた場所で――
ベルンハルトは立ち止まっていた。
拳を強く握りしめ、
爪が掌に食い込むほどに。
視線の先には、
レオンの隣を歩くカレン。
寄り添う距離。
奪われた位置。
表情を変えず、
ただ、静かに見つめながら。
胸の奥で、
何かが確実に壊れる音がしていた。




