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溺愛ハッピーエンドが欲しくて頑張ったのに、なぜか彼氏はヤンデレ化した  作者: ChaCha


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呪いではないと確かめるために

教室の空気は、静かに整えられていた。


黒板に描かれる魔法陣。

教師の声は一定で、理論を順序立てて説明している。

周囲の生徒たちは羽ペンを走らせ、魔力の流れをノートに写し取る。


――いつも通りの授業。


ベルンハルトは、前を向いたまま、板書を目で追っていた。

視線は正確で、要点も理解している。


それでも。


(……今は)


授業内容よりも、別のところに意識が向いていた。


隣の席。

ほんのわずかな距離。


カレンが、そこにいる。


朝のやり取り。

歩幅。

上着を渡した時の、あの一瞬。


(……見てたな)


はっきりと覚えている。

上衣を脱いだ、その刹那。

彼女の視線が、迷わず自分の身体に吸い寄せられたことを。


(……気づかないわけがない)


ベルンハルトは、内心で小さく息を吐いた。


不快ではない。

むしろ、健全だ。


彼女は、恋人だ。


(……身体を、気に入ってくれたか)


そう思った瞬間、

胸の奥に、じんわりと温度が広がった。


(悪くない)


むしろ、嬉しい。


自分が彼女の視線を惹いたという事実。

それが、前提として崩れていない証拠でもある。


(……少なくとも、拒絶ではない)


ベルンハルトは、そこで一度、思考を区切った。


大切なのは、ここからだ。


――検証。


今朝から、頭の中で組み立てている仮説は三つ。


ひとつ。

外部からの魔術的干渉。

呪い、精神操作、記憶改変。


ふたつ。

内部要因。

疲労、精神的負荷、記憶の再構築。


みっつ。

関係性の変化による、心理的混乱。


(……一番、現実的なのは三つ目だ)


だが、結論を急ぐつもりはない。


教師が魔法陣の一部を指し示す。

難易度は高いが、解説は明快だ。


(呪いなら、兆候が出る)


魔力の乱れ。

反応の遅れ。

視線の焦点のズレ。


ベルンハルトは、さりげなく横目でカレンを見た。


彼女は、真剣に板書を写している。

……ように見えて、ペン先が少し迷っている。


(集中力が落ちている)


だが、魔力は安定している。

乱れはない。


(……呪いじゃない)


それだけで、胸の奥が少し軽くなる。


教師が問題を出す。

数式の応用。


「ベルンハルト、答えは?」


「第三項を反転させ、魔力循環を閉じます」


即答。


教室が一瞬、静まる。

教師は満足そうに頷いた。


「正解だ」


その間にも、思考は止まらない。


(精神操作なら、感情の方向が歪む)


恐怖。

嫌悪。

過剰な依存。


今朝のカレンには、どれも当てはまらない。


戸惑いはある。

迷いもある。


だが、彼女は――

自分を見ている。


距離を取りつつも、離れきれず。

触れられた場所を、無意識に気にしていた。


(……それは、恋人の反応だ)


少なくとも、

“俺を避けるための変化”ではない。


ベルンハルトは、ペンを置き、手を組んだ。


(触れない)


今は、それが最適解だ。


確かめるために触れるのは、簡単だ。

抱き寄せれば、反応はもっと明確になる。


だが――

彼女が混乱している今、それは“検証”ではなく“圧”になる。


(……急がない)


余地を、残す。

彼女自身が、自分の感情を見極められるように。


それが、恋人としての配慮であり、

理性的な判断でもある。


ベルンハルトは、視線を前に戻した。


授業は続く。

時間は、流れる。


隣から、ふと小さな動きが伝わった。

カレンが、ペンを持ち替える音。


(……いる)


彼女は、ここにいる。

今も、隣に。


その事実が、何よりの確認だった。


(……大丈夫だ)


呪いではない。

誰かに奪われたわけでもない。


ただ――

彼女の中で、“何か”が、まだ噛み合っていないだけ。


ならば。


(俺は、待てる)


触れない優しさを選び、

言葉を抑え、

日常を整える。


その間に、彼女は必ず、自分の答えに辿り着く。


ベルンハルトは、そう信じていた。


――この時点では、まだ。



ベルンハルト視点

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