鍵と白い影 3
あの、白い影の事がどうしても気になって、もう一度空を見上げたり、落ちてきた地面を見たり。
何度も林の奥を覗いたり。
物置の裏側を覗いたり。
色々見てみたけど何も怪しいものは見つからなくって、白い影と鍵がその時、落ちてきたことを知ってもらいたいと思って、もう一度みんなに、聞いてみた。
けれど誰も知らないって。
おかしいな、と思っていたら、先に物置の中に入っている女子から「男子ー、そんなことはいいから、早く手伝ってー。」と先生と三人が声をそろえて、言ってきた。
心の中で、「オレの名前は男子じゃねーし、後藤だし、コージだし。」と言いながら、中に入っていった。
薄暗い物置の中、奥の方で先生と二人の女子。
入り口付近に一人。
入り口付近には、レーキとかクワとかが、左側の壁に渡している、鉄の棒に二本と三本それぞれ引っ掛けていた。
右側には、一段棚を作っていて、棚の上には、なんだか小さい袋に入った何か、何だろう三つほど重なっていた。
あと、錆と埃で汚れている昔、お菓子の入っていた古い缶、クッキーの缶かな、その他、箱が、一杯置いてある、中になにが入っているんだろう。
棚の下にはホースリールが一つ、先にはホースノズルがついていて、ホースリールの横には、長いホースを、何重にも巻いている状態で、地面に直接置かれていた。
じょうろも三つほど、重ねて巻いているホースの上に置かれていて、巻いているホースが燕の巣のみたいで、じょうろがまるで巣から顔を出した、燕の雛の様でなんだかおかしかった。
女子が一人入り口付近に掛けているクワかレーキを取ろうとして、柄を一生けん命、引っ張っている、たしか・・・。
えっと、あ、松根さんだったけ、強く引っ張るだけじゃダメ、一度上に持ち上げて、引っ掛けから外さなきゃ、と少し緊張しながら、近づくと。
彼女はすごくびっくりしたように固まった。
ボクも女の子に近付くのは苦手なので、固まってしまった。
彼女は、上目遣いでボクを見て、松根さんはそのままスススとすり足で、パソコンのポインターが画面を移動するように、何メーターもバックして行ってしまった。
奥にいる二人と先生にドンってぶつかって、どうしたの松根さん、っていわれていた。
で、僕の方に、たぶん百合川さんだと思う。
ボクは、あまり女子の顔をマジマジみないので、人の顔と名前が一致するまで、すごく時間がかかる。
たぶん百合川さんだ。
ツカツカと僕の方に来て、彼女が、松根さんを自分自身の後ろに庇い、キッとこっちを睨みこう言った。
「男子!松根さんに何か変な事したの?松根さんをいじめたら承知しないわよ!この子、自己紹介でも、男子が苦手って言ってたの、覚えてないの。おとなしい子なんだから。気を付けなさいよ。」と腰に手を当てて仁王立ち。
松根さんは、その背中からチラチラ見えるけど、背中を向けているのか、どんな表情か見えない。
ボクは「エー!」と思って、「いじめるなんてしてねーシ、鍬かレーキを取りづらそうとしていたから、手伝っただけだし。」と心の中で、叫んだけど、言葉がうまく出てこない。
男の友達なら、大声で、ワーワー言えるけど。
女の子の怒られるなんて、女の人に怒られるなんて、先生かお母さんしかいないから、なんだかとっても変な感じ。
だから、うまく喋れないのかな。
「えっと、えっと、」って言っている間に、百合川さんは。
「この子はすっごくおとなしいから、よく男子にいじめられるって、だから、私が、言ってあげてるの。」
で、ボクは、「えっと、えっと、」と二回目の「えっと、」を言ったところで、「ゴトー君は、サッカー部に入れなかったから、腹いせにいじめてるんじゃないでしょうねー。」
そこで、三回目の「えっと」を言うところで、松根さんが百合川さんの腕を引っ張り、百合川さんの耳元に顔を近づけ何か、「ごにょごにょ」喋っていた。
「エッ」といって、百合川さんは俺の顔を見直し、「クワか、レーキが取りづらい所を手伝ってたの?なら早く言ってよ。でもね、ゴトー君も急に近づくから、びっくりするの、ゆっくり分かるようにちかづいてよね、本当に!」ってまるで、ボクが、手伝ったことが、悪いように言われてしまって、なんだか意味不明なんですが。
それに松根さんも、早く言ってよーとやっぱりオレは、心の中でさけんだ。
目を通していただき、読んでいただき本当に有難うございます。




