學校と公苑と 2
『佐保姫!』
そこにいたみんなが、揃えて声を上げた。
それでも、カタカタとパソコンのキーボードをブラインドタッチで打ち込み、マウスでパッドの上を滑らかに滑らすその姿は、ドラマで見る、バリキャリの会社員の姿そのものだった。
ただ、感じる違和感は平安時代の着物を着ている女の人が、ディスプレイを睨んでいることだった。
そんな僕たちの様子を気にすることなく、眉間に皺を寄せてディスプレイを睨んでいる。
『佐保姫』
と、声を掛けようとした時。
『これこれ、みんな。この場面、この写真を、画像をみて。』
と佐保姫が声を上げた。
モニターには古い写真がアップされていた。
それは、この町の歴史と、昔の風景の画像だった。
そこには、古い郷土写真が白黒やセピア色で、アップされている。
何だろう、ほとんど茶色がかっていて、その写真の縁はほとんど何も映っていない。
しかも、真四角じゃない写真だ。
これに似た写真を見た事がある。
僕の田舎で確か、おじいちゃんのおじいちゃん位の人が、飾られていた写真だったと思う。
壁に掲げられているのを見た事がある。
歴史の教科書に載っていた、日本が近代国家の仲間入りした、明治時代の風景の写真のそれによく似ていた。
そのモニターに映っている画像を指して佐保姫は。
『写真をみて、ここ。』
と指を指した先にはたくさんの人が集まっている集合写真があった。
みんな笑顔が印象的で、みんなこっちを向いて、手に何やらスコップみたいなものを、持っている。
園芸部の倉庫にあった鍬とか、いろんな道具を持ってニッコリ笑っている、よく見ると髪型が丁髷の人が混じっている。
その集合写真の中心には木があって、みんなで囲んでいる。
記念植樹の様だ。
そして、その背景は建物を建設中のようだった。
写真の説明文には【明治参拾年我賀田尋常小學校建設ノ模様】と何とか読むことが出来た。
印象的なのは、みんなの笑顔が本当にうれしそうで、なんだかこっちもうれしくなるような写真だった。
そして、もう一つの画像を見ると、遠くから映した、山を切り開いた写真があった、この写真には人が映っていなかったが、同じくこの説明文には【明治参拾年頃蝶ノ池公苑準備ノ写真】とあった。
僕は『これって、どういうこと?』と、聞くと。
佐保姫は。
『わらわはずっと調べていたんだが、ようやくその関係性を見つけることが出来た。』
そして言葉を続けた。
『同じ時期にこの学校と公園は同時期に作られた。そう、まるで兄弟、姉妹の様に。』
佐保姫は、皆の方を向いて。
『んーそうねえ、例えば、公園も学校も日中は人が出入りしてとっても賑やかで明るい。
でも、日が陰り、人が居なくなって真っ暗な学校も公園も怖いくらい寂しいでしょう?
なぜだと思う?』
みんなを見ながら。
『それは、プラスのパワーから、マイナスのパワーになってしまうから。』
『プラスからマイナス』
モモちゃん先生は繰り返した。
『学校は小学校に限らず中学校や高校。公園は大小関係なく、昼と夜は全くと言っていいほどその様相が違っているでしょう?
お昼のざわめき、みんなの声、それに比べて夜の学校や公園の静けさは、怖いくらい。
学校は運動会や、学習発表会、遠足や、プールなんか楽しかったり、時に仲良しだった友達と喧嘩したりして悲しかったり、テストで悔しかったり。
それはそれは長い時間をかけてたくさんの人々が集い、そしてたくさんの人の想いが集まるパワースポットなの。
公園もいろんな人々が集い、くつろぐ思いが集まる場所。
公園もパワースポット。
両方とも人々が想いを集わすパワースポット。
二つはそういう共通点があるの。
特に同時期に建てられたこの学校と公園は、兄弟のようにつながっている。
確か、百合川さん、そなたは前にダンス大会とやらが急遽中止となったと言っていたが理由は聞いたの?』
と、百合川さんの方に振り向いて、佐保姫は尋ねた。
『いえ、詳しくは聞いていませんでした。
係りの人が、何でも公園自体が使えなくなったと言っていて。
公園に入れなくなったとか言っていました。
お母さんに車で送ってもらったんだけど、駐車場にも入ることが出来なかった。』
佐保姫は続けて言った。
『何年か前に、世界を震撼させる出来事があったわ。
そう、新種のウイルスのパンデミックで世界の町の灯が消え、世界の動きが止まり、同時に学校や、公園から人が消えた時期があったわね、今は平常を取り戻したけど。
その時に、人々が集わなくなり、人々の想いが集まらなくなってしまった。
だからパワーが集まらなくなり、パワースポットとしての力が崩れてしまった。
夜の学校のように、夜の後援のように。
マイナスのパワースポットになってしまった。
一旦崩れた、パワーバランスはすぐには元通りにはならない。
そして、人が集い季節を感じることをしなくなった公園が、人を拒否し始めた。
ゆくゆくは兄弟であるこの学校もそうなってしまう。』
その時、
モモちゃん先生の携帯端末が鳴った。
画面を見ると顔色が変わって。
『学校から連絡が来たわ、学校が臨時休校になったって。』
スワイプして『エッ学校に入れなくなった?』
百合川さんが、『どういう事なんですか?』と聞いても。
先生は、『分からないわ、いずれにしても職員、先生みんな呼び出しがかかったから、このミーティングは中止。先生、学校に行って来るわ。』
その時、お母さんが慌てて僕の部屋に入って来て、
『ねえ、コーちゃん。ニュース見た?なんだか、学校とか、公園が大変な事になってるみたい。』
それを聞いた女子みんなが、僕を見て『コーちゃん、って呼ばれてるの?』
とクスクス笑っている。
僕は、顔が真っ赤になるのが自分でも分かる位になっていた。
まるで、誤魔化すように。
『じゃあモモちゃん先生、僕たちも行きます。連れて行ってください』
と僕は、先生に向かって言った。
誰かが。
『コーちゃん、張り切ってるー。』
とか、
『コーちゃん。』
って何の意味も無く僕を呼ぶ。
こんな学校とかが大変な時に。
だから、女子って。大人数になると苦手なんだ。
と思いながら、モモちゃん先生のトラックみたいな車に乗って、学校に向かうことにした。
拙作を読んで、目を通して下さり誠にありがとうございます。




