クラスメイト 03
「サチはもう行ってしまうのですね。」
「はい、明日には出発するつもりです。
姫殿下には本当によくしてもらい感謝しています。」
「もう、2人の時は堅い話し方はやめてと言ったでしょ?」
「そうだったわね。セシル。ちょっと初めて会った頃を思い出してしまったのよ。」
「そういえばサチはここに来てすぐ気を失ったわね。」
「もう!!忘れてよ。」
そう言って2人の女性は笑い合った。
気がついた時はお城の様な所の階段の側で座り込んでいた。
学校のお昼休み、友達と部活の事で話している時だった。
急に音が消えた。友達は口をパクパクして何か喋っている様だったが聞こえなかった。
次は視界が白く染まり意識が遠のく感覚がした。
そして気がつけばここに居た。
直ぐに綺麗な、私より少し年上だろう女性が話しかけて来た。
ここはミスト王国で私は勇者だそうだ。
何を言っているか理解出来なかった。ゲームの話だろうか。クラスの男子がその様な勇者がどうとか話していたゲームか漫画の。
でも女性は明らかに日本人では無いのに流暢な日本語で話している。
ああ夢だ。私は夢を見ている。目が覚めたら教室だろう。午後は古典の授業だったな。想像して寝てしまったのだろう。
目が覚めた。見慣れない高い天井を見た時に頭が理解するのを拒絶した。現実だと。
私は気を失ってしまったらしい。目が覚めた時、メイドさんが居てすぐに人を呼びに行った。
そして来たのは先程の女性とお爺さんだった。女性はセシルと名乗った。お姫様で間違いないようだ。男性は医師で気を失った私を心配して姫様が呼んでくれたそうだ。
気を失っただけと判断され医師が退室すると、姫様が今日はこのまま眠り明日改めて説明すると言って出て行った。
次の日はメイドさんに朝食を用意してもらい、食べ終わって少し30分くらいだろうか、そのぐらいに謁見の間に通された。
優しそうな中年の王様が居た。その隣の宰相と呼ばれた気難しそうな初老の男性に説明を受けた。
なんでも魔王という存在がいて、魔王は人間にとって脅威なんだとか。魔王を倒すのに勇者の力が必要で私を召喚したのだと。
私は戦うなんて無理だ。喧嘩もした事がない。だから返してくれと頼んだが無理だと言われ、呆然としてしまった。
唯一帰る手段は魔王を倒し役目を終える事だという。
私は急にこんな所に連れてこられ戦いを強要されたからか疑心暗鬼になっていた。
だからだろうか。何も言わない王様を見た時不信感が出て来た。王様が困惑していたのだ。何がなんだか分からない。そんな顔を。
ここでスラスラ説明しているのは宰相だけで、王様が宰相を見ても宰相は無視をしていた。
おかしい。何故王様が私と同じ様な反応をしているのか。姫様も居たが首を傾げていた。
説明が終わり明日から訓練をすると言われた。私にはスキルと呼ばれるものがあるそうだ。身体強化と瞬足、投擲、怪力、槍術。
多分陸上をやっていたからだろう。短距離走選手だったけどスランプになった時に気分転換に砲丸や槍投げをしていたからだろう。
そのスキルがどのくらい使えるかの確認をしたいそうだ。
体を動かす事は好きだ。それはあくまでスポーツの範囲の話で戦闘訓練となると話は違う。人と槍で打ち合うなんてあり得ない。
しかしスキルのせいなのだろうか。どう動けばいいかなんとなく分かる。
訓練はどんどん過酷になり初めて生き物を自分の手で殺した時震えてが止まらなくなった。私に訓練をつけてくれていた騎士は当面は休めと言ってくれた。
しかし宰相はダメだと言い訓練の続行を命じたが、王様が止めてくれて訓練はなくなった。
空いた時間何をすればいいか分からなく部屋で呆けていたら姫様が訪ねて来た。
姫様がおかしい、勇者が来る事は聞いていたがそれが異世界からで、魔王を倒すという話は聞いていないと。
それは王様もだったらしく、王様が宰相に説明を求めると、教会が言っていたと。
強大な力を持った魔王が現れて世界は深刻な被害を受ける。と。
その為に異世界から勇者が召喚された。勇者は数十人召喚されたから各国で訓練、そしてそしてゆくゆくは勇者達を集める連合を組み国の支援の元、魔王を倒すのだと言う。
友達も居るかもしれないと期待が持てたが不安もあった。クラスには虐めの様な事をする人が居たからだ。あの2人と腰巾着の1人。
姫様は勇者が魔王を倒したと言う物語があり、それは実際にあった事で勇者は異世界から来たのだと。だから調べてみないかと言って来た。魔王を倒す以外にも帰る方が見つかるかもと。
そうして姫様と姫様のお付き合いのメイドさんと城にある書庫に籠った。
しかし帰る方法は分からなかった。分かったのは魔王が勇者に倒された。それだけだった。ただ分からなくなった。突然魔王が現れて突然勇者が現れたのだ。
魔王が突然現れたのいい。勇者が召喚されたとはないのに突然現れたのだ。召喚について調べると本は無く教会の秘伝で見つけたら焚書にされるという。
行き詰まり気分転換に読んだ本に賢者の話があった。賢者は異世界から来た漂流者だと。その本には稀に異世界から来る存在が居る、それが漂流者、召喚者と呼ばれていると書いていた。
漂流者や召喚者について調べると本は無かった。偶々呼んだ本は数行だったからか焚書をまぬがれたのかもしれない。
姫様は賢者について知っている事を話してくれた。曰く丸い球体を投げ山を消し飛ばした。曰く森を砂漠にした。曰く・・曰くスキルを研究しスキル鑑定を可能にした。そして学術都市を作り晩年は教育に従事したと。
学術都市に行けば何か分かるかもしれないと姫様に言われた。中立自治区で教会も手出ししないから焚書をまぬがるた本がまだあるかも。と
そこからは早かった。姫様が王様に話をつけてくれて宰相も黙らせてくれた。
そうして明日、学術都市に行く。近くの街まで転移魔法陣を使いそこから2日で着くそうだ。護衛もつけてもらい、学術都市では姫様の妹が留学しているらしく私も姫様の妹のクラスに留学をして手伝って貰えるように手紙も書いてくれた。
姫様も王様も本当に良くして貰った。いつか恩返しが出来ればいいのだけど・・
「恩返しなんて考えなくてもいいのよ?こちらが迷惑をかけたのだから。」
「でもそれはセシルが悪い訳ではないわ。」
「ううん。宰相が勝手にやったとしても国が迷惑をかけたのだからこのぐらいはさせて。妹クリスにもそう書いたから、ね?」
「ありがとうセシル。」
「うん。私は政務があるから見送りには行けないけど元気でね。落ち着いたら手紙を書いて。」
「分かったわ。手紙をちゃんと書くわ。」
「お願いね。名残惜しいけどそろそろお別れね。明日も早いでしょうし、おやすみなさい。」
「おやすみ、またね、セシル。」
そう言ってセシルは部屋を出て行った。明日は早くから出発だ。もう寝よう。
いつか友達に会い一緒に帰ることを願い眠りについた。