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子猫になった気弱魔導士は猫嫌いの氷の宰相に愛される  作者: はんぺん


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88/200

88話

 アイカが公爵邸から姿を消した後も、レイザックは彼女の襲撃を指示した黒幕を追って、毎日精力的に働いていた。


 リーラと共に、この五年の間に失踪した者のうち、魔物化されて殺された可能性が高い者を割り出したところ、そのほとんどが魔導学院や精霊教会の関係者だという事がわかった。また、彼らが揃って精霊教会や聖女と何かしらの関わりを持っていた事も判明している。


 禁忌魔法を使うのに必要な稀少魔石の取引記録についても、巧妙に偽装されてはいたが、いずれも最後は精霊教会の関連施設に納品されていた事がわかり、この一連の失踪事件や禁忌魔法の件に精霊教会が関わっている事は、もはや疑いようがなかった。


 なお、アイカを襲った魔導士たちが使用していた禁忌魔法については、もともとは特別な石板に刻まれた状態で、東大陸のツベルナ王国で厳重に封印されていたのを、研究欲に駆られた魔導士が違法に持ち出したものだという事が分かっている。


 犯人の魔導士は、盗み出した禁忌魔法を同僚の魔導士にかけて試した際、魔物化したその同僚によって殺害されており、禁忌魔法が刻まれた石板はその時のどさくさにまぎれて外部に持ち出されてしまったらしい。


「モルド殿が、禁忌魔法が使われた事を知らせてくれなかったら、この先も石板が盗まれた事に気づく事はなかっただろう」


 ツベルナ王国で魔導士長の職に就いているモルドの親友は、彼の伝令鳥で知らせを受けた時、「まさか我が国で保管している禁忌魔法のはずがない」と、笑い飛ばしていたそうだが、念のために確認しに行った際に封印が破られて石板が無くなっているのを見つけた時は、思わずその場で卒倒しそうになったそうだ。


 だが、彼はすぐにこの事をツベルナ王に知らせると、国の総力を挙げて石板の行方を追ってくれた。


 その結果、問題の石板は魔物化した魔導士を討伐した冒険者の一人が拾って商人に売り払っていた事や、その商人を経由してエーベル王国に持ち込まれたあと、秘密裡に精霊教会と親しくしている魔導士に買い取られていた事が分かった。


 モルドからこの知らせを受けて、ツベルナ王国に急行したリーラは、王国の協力を得て石板を売った商人の身柄を抑える事に成功し、今は石板を買い取って精霊教会に持ち込んだ魔導士の行方を追っている。


(まあ、あいつなら近いうちに魔導士の身柄も確保してくれるだろう。それよりも、問題はアイカ嬢のほうだ)


 最近になって、精霊教会から聖女襲撃犯として名指しされた彼女を、一方的に敵視して探し出そうとする者が後を絶たない事に、彼は頭を痛めていた。


 彼女の身の安全のためにも、一刻も早く居所を突き止めて保護したいところなのだが、アイカの元に差し向けたキールが彼女を守る精霊たちに追い返されて戻って来てからは、彼女の居場所や安否を確かめる術が無くなってしまった。


(こうなってしまったのも、元はといえば俺が彼女に酷い態度をとって信頼を失ったせいだ──)


 そんな後悔に苛まれながら忙しい日々を過ごしているうちに、幸いにもアイカの行方を捜そうと躍起になる輩は少しずつ減っていき、今ではほとんどいなくなっている。だが、王都中を調べさせても彼女の居場所は依然として掴めなかった。


 彼の父であるオルトランから突然、公爵邸に戻れという知らせが届いたのは、捜索状況に進展がない事に、彼が焦りと苛立ちを覚え始めた時だった。


 



 旅先から帰って来たという父親から、急いで屋敷に戻るように命じられたレイザックは、思いがけない知らせに驚きながらも王城から馬車を飛ばし、久しぶりに公爵邸に帰宅した。


(まさか母上の身に何かあったのか?)


 オルトランからの伝令鳥が伝えたのは「至急公爵邸本館に戻れ」というひと言のみだったが、至急の要件といえば、それしか思い当たらなかった。


「いま戻った。父上はどこだ?母上は無事なのか?」

「大奥様は無事でございます。今は大旦那様とお二人で、応接室でお待ちです」


 迎えに出た家令のベイリーに尋ねると、予想もしなかった答えが返って来た。


「お二人ともだと?まさか、病で寝たきりの母上をこちらに運んで来たのか?!」


 母の容体が急変したわけではないと知って安堵したが、重病人を動かした事に怒りを覚えて、自然と口調が荒くなる。


 そんな怒りと苛立ちのせいで、すれ違う使用人たちが顔色を青くしていた事にも気づかぬまま、レイザックは応接室の扉を開けた。

お読みくださりありがとうございます!

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