67話
『まりーな、全部食べたー』
『食べたねー』
『作戦大成功ー』
『ぼくらが作った料理、喜んでたー』
『そうね、本当に良かったわ!』
アイカはマリーナが料理を完食してくれた事を、精霊たちと共に喜び合った。
『この屋敷の料理人さんたちには申し訳ないけれど、昼食と夕食もこの調子で私たちが作ったお料理を食べてもらいましょう』
『おー!』
『まりーな、喜ぶといいなー』
『楽しみだねー』
アイカが精霊たちと共に無邪気に喜んでいたその頃、屋敷の厨房は大騒ぎになっていた。
「おいシェリー、そりゃあ一体どういうことだ!?」
「だーかーらー、マリーナ様が今日の朝食を完食なさったんですってば!」
「なっ‥‥‥!」
料理長のバルデムが絶句するのと同時に、しんと厨房が静まり返る。料理人たちは何故か困ったように顔を見合わせている。
だが、マリーナが料理を完食した事に浮かれているシェリーは、その異様な雰囲気に全く気がついていない。
「毒見したとき、塩味だけのお料理なんて変わってるなーって、一瞬思いましたけど、薄味なのに旨みがしっかりあって、すごく美味しかったですよ。マリーナ様も、とてもお気に召したようだったので、昼食と夕食も同じような味付けの料理でお願いできますか?」
腕を組んだまま黙って聞いていたバルデムが、シェリーが運んできた皿に目を向ける。
「それが、下げてきた皿だな?」
「え?はい、そうですけど」
バルデムは、おもむろに皿を手にして、わずかにくっついていた料理の残りを指ですくって口に入れると――
次の瞬間、驚きのあまり絶叫した。
「うめええええ!なんだ、このうまさはっっ?!」
「そうなんです!ほんの一口食べただけでも叫びたくなるほどおいしくて――って、あれ?なんで作った本人が驚いているのです?」
「いや、これを作ったのは俺らじゃねえ。そもそも、ミルユ草なんて稀少な食材は、どんなに金を積んだってこの国じゃ手に入らねえよ」
「ええっ?!」
驚いて固まったシェリーに構わず、バルデムは次々に皿を検分していった。
「悔しいが、こいつは俺らなんかじゃ作れねえシロモノだ。香辛料を使わずともこんなに滋味深い料理ができるなんてな‥‥‥。まるでハンマーで頭を殴られたような気分だぜ」
「じゃあこの料理は、いったい誰が作ったんです?」
「誰って、そりゃあ、お前――」
「精霊だろうなあ」
「トマス爺さん!」
振り向くと、庭師のトマスが真っ白なあごひげをしごきながら穏やかに笑っていた。
「ドロレスの件にしたって、あんなことができるのは精霊ぐらいだろうと、皆も言っていただろう?」
「まあ、確かに私もそう言ってましたけど。でも、お料理する精霊なんて聞いた事がないですよ?」
「ちくしょう!俺にも精霊が見えて話をすることができたらなあ!もしそうなら、この料理を作った精霊に速攻で弟子入りするのによう!」
「はは!相変わらず料理長は研究熱心だの。でも、それは少し難しいかもしれないぞ?なにしろ、新しくこの屋敷にやってきた精霊は随分と人を警戒しているようだしなあ」
トマスの言葉を聞いて、シェリーと料理長は目を見合わせた。
「トマス爺さん、あんたこの料理を作った精霊を見たのか?!」
「マリーナ様を助けてくれたのも、きっとこのお料理を作ったのと同じ精霊ですよね?どんな姿をしていたんですか?」
興味津々な二人が思わず身を乗り出した。
「ワシがその精霊を見たのは庭園を手入れしていた時だったが、移植ごてを取ろうとして振り返ったら偶然、視界の端に姿が映ってなあ。こちらに驚いてきょとんとしていたよ。もちろん次の瞬間には走ってどこかに行ってしまったが」
トマスはさも愉快そうに笑っている。
「なんとも可愛らしい黒い子猫の姿をした精霊だったよ。思うに、精霊眼を失ったワシにも見えたという事は、見た目はか弱い子猫でも相当に強い力をもった高位精霊なのだろうなあ」
その話を聞いたバルデムとシェリーは、再び顔を見合わせると瞳を輝かせた。
誤字脱字チェックしていたらお腹がすいてきました(>_<)




