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子猫になった気弱魔導士は猫嫌いの氷の宰相に愛される  作者: はんぺん


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55/200

55話

新たな生活が始まりました

「今日はお日様がぽかぽかで、気持ちがいいわね」


 えんじ色の屋根の館の裏手にある、大きな木のそばにできた木漏れ日の下で、黒い子猫姿のアイカは寝転がったまま思いっきり伸びをした。


 温室での暮らしは予想以上に快適だった。日に二度ほど年配の庭師が水やりに訪れる以外は誰も立ち入らないため、彼女は毎日を心穏やかに過ごす事ができた。


 ここに来たばかりの頃は、庭師以外の人に会うのを警戒して温室にこもりきりだったが、それから数日後からは精霊たちに勧められて外へ出るようになり、今では館の周辺にまで足を延ばして探索に勤しむようになっている。


 いざというときに隠れられる茂みや、美味しい果実がなる木、かわいい小鳥たちが集まってよくおしゃべりしている植え込みなど、彼女のお気に入りの場所はたくさんあるが、いつも人の気配がなく安心して日向ぼっこができるこの木の下は、その中でも特に気に入っている場所の一つだった。


 静かな昼下がり。あたたかな陽気の中でうとうとしかけていたアイカは、遠くで何かが割れたような音を聞いて、ぱちりと目を開けた。


(なにかしら?お屋敷のほうから聞こえたような――?)


 ゆっくりと身を起こした彼女は、辺りに人の気配がない事を精霊たちに確認したのち、音の出所を探ろうと耳をそばだてた。


(誰かの話し声がするわ。このお屋敷の人かしら?)


 人がいる場所へ近づくのは恐ろしかったが、先程聞いた物音がどうしても気になった彼女は、立ち上がってしばらく悩んだ末に、意を決して声のする方へと足を向けた。


 植え込みを抜けて屋敷の裏手に出ると、さらにはっきりと声が聞こえてくる。どうやら声の主は若い女性のようだ。


 クリーム色をした屋敷の外壁に沿って進み、角を曲がってしばらく行くと、庭に面した一階の部屋の窓が開いているのが見えた。先程聞いた物音と女性の声はこの窓から漏れてきたようだ。


『こっそり中の様子を見たいのだけれど、私の体を持ち上げてもらってもいいかしら?』

『いいよー!』


 精霊の助けを借りて窓の高さまで体を浮かせてもらい、そっと部屋の中を伺うと、ベッドに横たわっている初老の女性と、床に無残に散らばった料理を片付けている若い侍女が見えた。


(これは一体――)


 何があったのだろうと、アイカが小首をかしげていると、


「マリーナ様、いったいどうなさいました?!」


 ばたばたと足音をたてながら、使用人と思しき男性が数名、部屋に駆けつけて来た。その中の一人である執事の恰好をした年配の男性が、室内の惨状に眉をひそめつつ侍女に問いかける。


「ドロレス、何があったのですか?」

「申し訳ありませんクラウス様。マリーナ様にお食事を差し上げていたら、また癇癪を起こしてしまわれて、お料理を床に――」


 ドロレスと呼ばれた若い侍女が目じりに涙をためながら説明する。


「マリーナ様、どこかお怪我はございませんか?」


 クラウスと呼ばれた男性が、心配そうな顔でベッドの上の女性に声をかける。だが、女性はわずかに口を開けたものの、彼に白濁した目を向けて震えるばかりで何も答えなかった。どうやら満足に言葉も発せられないほど体が弱っているらしい。

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