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51話

 既に二人の心に巣食っていたアイカへの疑念や不信感はすっかり霧散していた。その代わりに、今彼らの心に浮かんでいるのは、いつも心細そうに背をまるめて小さくなっている子猫の姿だった。


 いきなり知らない場所に連れて来られて、親しい者も頼れる者もいないまま、世話人である自分たちからもよそよそしくされていた彼女は、どんなに心細かった事だろう。


 最初から小食だった彼女は、日を追うにつれてさらに食事を残すようになり、だんだんと痩せて元気をなくしていった。それは慣れない環境に置かれたせいではなく、自分たちのつれない態度が原因だったのではないだろうか。


 挙句の果てに、彼女はこの屋敷の者たちから、身に覚えのない罪を糾弾されて殺されかけたのだ。


「アイカ様は、さぞかし恐ろしかったことでしょうな‥‥‥」

「私たちは、彼女になんて酷いことを‥‥‥!」


 自責の念にかられる二人を見て、レイザックが苦い笑みを浮かべた。


「お前たちは、でたらめな噂を妄信して失態を犯したようだが、それを責めるつもりはない。お前たちの判断を狂わせて、そんな愚かな行為に走らせたのは、主であるこの俺だからな」

「旦那様、そのようなことは――」

「いや。主であるこの俺が、本来大切に保護するべきアイカ嬢をないがしろにしたせいで、お前たちにいらない誤解を植え付けてしまったんだ。もし俺自らが命の恩人である彼女にきちんと敬意を払い、大切な客人として手厚くもてなしてさえいれば、お前たちがあんな噂を信じる事などなかったろう」

「アイカ様が、旦那様の命の恩人?」

「ああ。この間の夜、懇意にしている新聞記者から、俺がずっと調べている失踪事件について情報提供者が現れた、と屋敷に連絡が来たのを覚えているか?」

「ええ。そのあと旦那様はその記者に会うために、いつものように冒険者に扮してお忍びでお出かけになられました。ですが、運悪く魔物騒ぎに巻き込まれて命に関わるような大怪我を――」

「実は、その怪我を治して助けてくれたのが彼女だったんだ」

「では、アイカ様が重傷者を救ったというのは、ただの噂ではなく本当の事だったのですか?」


 驚いて目を(みは)る二人に、レイザックが頷いた。


「ああ、そうだ。報奨金の授与に俺が名乗りを上げたのは、命の恩人である彼女がどんな人物なのかを見極めるのと、直接会って礼を伝えるためだった。最初の頃、俺は彼女が今までの女どもと同じように、後から恩を着せてすり寄って来るのではないかと疑っていたんだ」

「旦那様‥‥‥」

「それは、さすがに――」


 彼らの主が、女性嫌いをこれほどまでに(こじら)らせていたと知らなかった二人は、思わず困惑して顔を見合わせる。


「だが結局、アイカ嬢は俺が危惧していたような人物ではなかった。それなのに俺は、命を助けられた礼を伝えるどころか、女や猫に対する忌避感から、なんの落ち度もない彼女に酷い態度をとってしまった」


 そう語るレイザックの顔は、明らかに後悔の色で染まっていた。


「彼女に対する悪評を信じたつもりはなかったが、そんな噂を立てられるくらいなら人間性に問題がある女なのだろうと、俺は心のどこかで決めつけていたのだろう。たとえ彼女が噂通りの悪人であっても命を救われた事は事実で、それを感謝しない理由にはならないのにな」


 そう言うと、レイザックは自嘲の笑みを浮かべた。

 

この数日、部下たちからの報告でアイカの人となりを知るにつれ、彼の心には罪悪感と後悔とが降り積もって胸の奥に重く沈み込んでいた。

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