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5話

 正直シーラも、精霊がなぜあんな輩に力を貸すのかさっぱりわからない。それでもまだ救いがあるとすれば、僅かではあるが、〈炎熱の魔女〉の異名を持つ、リーラ・バーザンディのように、優秀で信頼のおける魔導士も存在しているという事だ。


(アイカさんも将来、大魔導士リーラのような優秀な魔導士になるかもしれないのに)


 シーラは最近になってから、彼女が少なくない数の冒険者たちを密かに助けていた事を知った。魔物討伐中に負った致命傷を、通りかかった彼女に治療してもらった者や、魔物から予想外の反撃にあって全滅寸前だったところを救われた者たちの話によると、いずれの場合も、「困った時はお互い様ですから」とだけ言って彼女は名乗ろうとせず、謝礼も一切受け取らなかったらしい。


(魔導士としても冒険者としても、あんなに優秀でいい子なのだもの、なんとか無事に卒業させてあげたいわ)


 アイカの人となりを知るギルド職員は、皆シーラと同じ思いを抱いている。だからこそ、少しでも割のいい薬草採取の依頼があると、勤務時間的に彼女と顔を合わせる事が多いシーラの手元に依頼書を回してくれるのだ。


「最近は薬師ギルドの薬の納品も掛け持ちしているみたいだけど、体を壊したりしないかしら。何だか心配だわ」


 シーラは、小柄で優しい魔導士の少女に思いを馳せながら、深いため息をつくのだった。






 その頃、市場で買ったみずみずしい果実で小腹を満たしたアイカは、足早に朝の大通りを歩いていた。


「次は薬師ギルドに行って回復薬を納品しにいかないと」


 目の前の角を曲がれば、薬師ギルドはもうすぐだ。だが、建物に近づくにつれて、アイカの足取りは徐々に重くなる。


(はあ。今日は何を言われるのかしら)


 最近、彼女が薬の納品で訪れると、一部の薬師や職員たちが冷たい態度をとったり、酷い悪態をつくようになったのだ。


(きっとまた、他の魔導士が私の悪評を流しているのでしょうね)


 少しでもアイカが評価されると、学院の魔導士たちは躍起になってそれを打ち消そうと、根も葉もない悪評を捏造し、さもそれが事実であるかのように吹聴するのだ。


 もちろん、アイカもそれに対して黙っていた訳ではなく、最初の頃は必死に抗議してやめさせようとした。だが、一切聞く耳を持とうとしない彼らは、逆にこちらが抗議すればするほど行為を激化させていった。そのため、最近のアイカは彼らの嫌がらせに抵抗する事をすっかり諦めている。


(それでも見知った人たちから、やってもいない事で悪口を言われるのは辛いわ)


 アイカがに憂鬱になりながら建物に入ると、ギルドに居合わせていた薬師たちの視線が一斉に彼女に向けられた。その刺すような視線に身をすくめながら、アイカは足早に受付のカウンターに向かう。


 今日は運の悪い事に、魔導士たちの流した噂を鵜呑みにして、いつも彼女に辛く当たってくるギルド職員しかいないようだ。


「あの、依頼された回復薬の納品をお願いします」

「チッ。じゃあそこに置いて」


 男性職員は面倒そうに言って品質を確認するモノクル型の魔道具を取り出すと、彼女が提出した回復薬を検分しはじめた。


「ふん。最低限の品質は保たれているようだな」


 彼は不機嫌そうに呟くと、背後の金庫から出した硬貨をいきなりカウンターの上にぶちまけた。


「なにを‥‥‥!」

「あぁ?こっちは忙しいんだ。さっさと金を確認して出て行ってくれないか」


 あまりにも酷い対応にアイカは抗議しようとしたが、面倒くさそうにあさっての方向を向いた職員を見て口を閉じた。


(この人も魔導士たちと同じで、こちらが何を言おうと、最初から聞く気がないのだわ)


 仕方なくカウンターに散らばった硬貨を集めて金額を確認する。だが、予想していたよりもはるかに額が少ない事に気が付いた彼女は、おそるおそる職員に問いかけた。


「あの、昨日と同じ数を納品したのに、今日はかなり金額が少ないようなのですが?」

「品質が悪かったんだから仕方がないだろう。適正価格だ」

「そんなはずはありません。品質は昨日納品したものと同じはずです。ちゃんと確かめてください!」

「文句があるなら、依頼は破棄という事にしてもいいんだぞ?」

「‥‥‥わかりました。では、この金額で結構です」


 ニヤニヤと薄笑いを浮かべる職員を見て、これ以上何を言っても無駄だと悟ったアイカは、肩を落として建物を後にした。


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