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46話

 勝手にアイカへの恐怖を膨らませて押し黙った彼らの中で、最初に口火を切ったのは噂好きのメイドだった。


「そんなに危険な女なら、猫の姿に変えられていたって何をするかわかんないわ!早くこの屋敷から追い出さないと!」

「まって、ご主人様の指示でイライザ様たちがお世話しているのを、私たちが勝手に追い出す事はできないわ」


 今にも食堂を出て行こうとするメイドを、侍女が慌てて止める。


「彼女の言う通りよ。ご主人様は何か理由があってその女魔導士を匿っているのかもしれないもの。それに、さっきの噂が本当に正しいかどうかもわからないわ。騎士団にいる私の友達は、彼女が魔物討伐で怪我した人たちを親身になって助けていたって話していたしね」

「そういえば、そんな噂もあったな。確かその時の功績を称えて報奨金が出たらしい。この間、ご主人様が魔導学院に出向いたのもその報奨金を渡すためだったって、俺は聞いたぜ?」


 厨房係の女性の話に、料理人も同意する。だが彼らのように噂に懐疑的な者はごく僅かだった。


「じゃあ、彼女は心を入れ替えたってこと?」

「それはないでしょう。だって、彼女は聖女様を襲ったんですよ?」


 首を傾げた侍女に、年若い執事が冷たい声でそう言い放った。


「私も、噂がすべて真実だとは思いませんが、火のないところに煙は立たぬといいます。それに普通、自分の身に覚えがない悪評をたてられたら、少なからず抗議したり否定したりするものです。ですが、彼女が噂を否定したという話は一切聞いた事がありません」

「じゃあ、やっぱり屋敷にいるのは噂通りの悪女で間違いないってこと?」

「そうだと断言することはできません。私が言えるのは、たとえご主人様のご命令でも、この屋敷の者が危険にさらされる可能性があるのなら、我々には命令を拒む権利があるはずだという事だけです」


 この執事の言葉で、主の命令は守るべきだという場の流れが一気に変わり、雲行きが怪しくなる。


「そうよ!もしかしたらご主人様は女魔導士に騙されているのかもしれないわ!だったら、あたしたちがあの女を追い出してご主人様を守らなきゃ!」

「そうだ!ご主人様や俺らの身を守るためにも、女をどうにかしないと!ご主人様には後で説明すれば、きっとわかってもらえるはずだ」


 興奮したメイドや従僕の意見を聞いて、次々に執事に賛同する者が出始めた。落ち着くようにたしなめる者もいたが、(せき)を切ったように騒ぎ出した使用人たちは、もう止まらなかった。


「一体何の騒ぎなの?」


 そのとき間が悪い事に、アイカが昼食を食べ終えた皿を下げてきたイライザが食堂にやって来た。すると、メイドが獲物を見つけた獣のように目をぎらつかせながら、すぐさま彼女に駆け寄った。


「イライザさん、ご主人様が連れ帰った猫の正体が、聖女様を襲った女魔導士だっていうのは本当ですか?!」

「えっ?どうしてあなたがそのことを――っ!」


 自分の失言に気づいたイライザが、あわてて片手で口を塞いだが時すでに遅く、メイドは勝ち誇った顔で声を張り上げた。

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