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4話

「あれって〈雑草〉ちゃん?また来てたんですかあ?」


 シーラが足早に立ち去っていくローブ姿の小柄な少女を見送っていると、年下の同僚が声をかけてきた。


「キャル、あなたまた遅刻よ。それと、その呼び方はやめなさい」


 〈雑草〉とは、一部の心ない冒険者がアイカにつけた蔑称である。彼らは、魔導士にもかかわらず冒険者ギルドに籍を置き、薬草採取の依頼しか受けない彼女を、馬鹿にしているのだ。


「本人がいないんだから別にいいじゃないですかあ。討伐依頼を嫌がって薬草採取ばかりやっているのは、どうせろくに能力もないくせに、金の力で魔導士資格を買ったんだろうって、みんな言ってますもん。魔導学院でも爪弾きにされているらしいのに、それでも辞めずにいるだなんて、いい根性してますよお。ホント、〈雑草〉ってピッタリのあだ名だと思いません?」

「あのね、何度も言っているけれど、それって全く根拠のない噂なんだからね?そもそも魔導士資格を買う事自体不可能だし、もし仮に資格が買えたとしても、そんなお金があるなら、冒険者になって日銭を稼ぐ必要なんてないでしょう?」

「だからあ、それってつまり、色々と不正するのにお金を使い果たしたって事じゃないですかあ?」

「‥‥‥はあ。あなたの下らないおしゃべりには付き合っていられないわ」

「えー?先輩、ひどいですう」


 何をいっても聞く耳を持たない、噂好きの後輩にうんざりして話を切り上げると、シーラは自分の仕事に戻ってカウンターの書類に目を向ける。


 最近ギルドに配属されたばかりのキャルは信じていないが、アイカは今年の魔導士試験を、王国史上最年少で首席合格した優秀な魔導士だ。そしてキャル以外のギルド職員たちは、それがまぎれもない事実である事を全く疑っていない。


 というのも、アイカが冒険者登録して間もない頃、彼女が受けた薬草採取の依頼内容に不備があり、指定された薬草の中に強力な魔物がいる遠方の森でしか採取できないものが混ざっていた際も、彼女はいつも通りに依頼を受けた翌日にギルドを訪れると、指定された薬草を何の問題もなく提出してのけたからだ。


 普通であれば最低でも往復五日はかかる遠方の地で、中級以上の冒険者が複数名で挑むような危険な森に一人で分け入り、何の過不足もなく依頼を達成してのけた彼女が、極めて優秀な魔導士である事は疑いようがない。


 では、そんなに優秀な魔導士である彼女がなぜ、冒険者になって日銭を稼いでいるのか。


「ありがたい事に授業料は免除されているのですが、寮には入れなくて。それに、お仕事を斡旋していただけないので、下宿代や生活費がまかなえないのです」


 困惑の滲む声で彼女からそう返答された時、シーラは思わず唖然とした。


 試験を合格した魔導士は、その後二年間は魔導学院に通う事が義務付けられている。そこで彼らは、精霊言語の理解を深める事で高度な魔法を学び、さまざまな研究に取り組む事で、魔導士としての研鑽を積み重ねるのだ。


 学院では、優秀な魔導士が貧しくて学院に通えないという事態を無くすべく、上位合格者には授業料の免除のほか、無料で学院寮を利用できる権利や、魔導士としての仕事の斡旋、卒業まで生活するのに十分な額の奨学金が与えられる事になっている。


(アイカさんは首席合格者でしょ?なのに入寮できなくて仕事も斡旋してもらえないって、どういう事?しかもあの様子だと、奨学金も貰えていないみたいだし)


 せっかく試験に受かったのに、身分を理由に酷い虐めや差別を受け、それに耐えきれずに学院を退学して冒険者を生業にするようになった魔導士を、シーラは何人も知っている。


 もちろん学院を卒業しなくても魔導士を名乗る事はできるが、この国では学院を卒業する事が一人前の魔導士として認められる条件であるため、卒業できなければまともな依頼や勤め先を得る事ができなくなる。貴族家のお抱え魔導士や国家魔導士になる事はおろか、一魔導士として生計をたてる事すらままならなくなってしまうのだ。


(酷い話だわ。学院も昔はあんなじゃなかったってよく聞くけど)


 昔とは違い現在の魔導学院では普段から差別や不正が横行している、というのは、公然の秘密だ。最近の魔導士はほとんどが貴族出身で、自分の優秀さを鼻にかけて威張り散らすような輩ばかりであるため、この国に限っては、魔導士の評判は極めて悪い。


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