26話
(特定の女と関わりを持つような事は避けたいが、彼女が事件の鍵になっている以上、そうも言っていられないか)
レイザックは内心で深いため息をつくと、頭を切り替えて〈氷の宰相〉の顔に戻る。
「ところでリーラ、その子猫――アイカ嬢にかけられた禁忌魔法の件についてだが、お前の話を聞いていて、少し気になった事がある」
リーラは全く気に留めていないようだったが、彼は説明を聞いている時からずっと、襲撃犯が魔法を放つ時に叫んだ言葉が頭に引っかかっていた。
「何よ?気になる事って」
「襲撃犯が禁忌魔法を放った時に何と言っていたか、もう一度教えてくれないか?」
「なんだ、そんな事?ええと確か、「化け物になれ」だったかしら?」
「化け物になれ、か‥‥‥」
返事を聞いたレイザックのまなざしが鋭くなる。
「ならば、アイカ嬢に放たれた禁忌魔法は、対象を別の生き物にするのではなく、化け物――つまり魔物に変えるものだったとは考えられないか?」
リーラが驚いたようにぱちぱちと瞬きした。
「魔物って、一体なんでそう思うの?」
「お前はつい最近、突然王都内に魔物が出現した事は知っているか?」
「ええ。かなり強力な個体だった上に瘴気持ちだったんでしょ?騎士団と冒険者が協力してやっと倒したって聞いたけど」
深刻そうな顔でレイザックが頷く。
「ああ。かなり強力な炎系の魔物だった。俺も騎士団から氷魔法での加勢を請われて討伐に参加したが、かなり苦戦した上に深手を負わされた。目撃者によると、魔物は何の前触れもなく突然裏通りの角から現れたそうだ。当時王都に張られていた結界が破られていなかった事からも、目撃者の証言通り、魔物は結界の外からではなく内側から現れたのだろう」
「じゃあ、誰かが密かに王都内に魔物を引き入れていたとでもいうの?」
「いや、そんな事をしようとすれば必ず結界に弾かれる。それに、瘴気持ちの強力な魔物を誰にも気づかれずに王都内で囲う事など到底不可能だ」
「じゃあ一体どこから魔物はやって来たのよ?」
「‥‥‥もし相手を魔物に変えられる禁忌魔法があるのなら、場所を選ばずどこにでも魔物を出現させる事ができる」
リーラがさっと顔色を変えた。
「つまり、王都に現れた魔物は、禁忌魔法で魔物に変えられた人間だった――あんたはそう言いたいの?」
「ああ。突拍子もない話に思えるだろうが、そう考えると王都での魔物騒ぎや俺がずっと追っている失踪事件に関して辻褄が合う」




