2話
この世界で魔法を使う方法は二種類ある。
一つは精霊言語で直接精霊に助力を請い、自分の魔力を対価にする方法で、精霊との交渉次第では、少ない魔力で威力の高い魔法を使う事も可能だ。
一般的に、この方法で魔法を使う者は、魔導士と呼ばれている。
もう一つは、あらかじめ精霊言語が刻まれている物品に魔力を通す事で魔法を使う方法である。例えば小規模な火魔法を使いたい場合は「低い威力で火を出してほしい」と精霊言語が刻まれた物品に魔力を通す、といった具合だ。
この方法には、精霊言語が話せなくても魔力さえあれば誰にでも魔法が使えるという利点があるが、その反面、魔法の威力は調整できず、物品に刻まれた精霊言語が欠損すると魔法が使えなくなるという欠点がある。
こちらの方法で魔法を使う者は、魔導士と区別するために、魔法使いと呼ばれている。
「精霊言語を使えるなら試験を受ける資格は十分だ。魔導士は高級取りだから、もし受かればこの国で不自由なく暮らしていけると思うがな」
「そうなのですね。お気遣いいただき、どうもありがとうございます」
自分が精霊と話す場面を見られていた事に内心どきりとしながらも、アイカは丁寧に礼を言うと、出願書類を受け取った。
(なるほど。エーベル王国では、この試験に受かった人だけが正式な魔導士として認められるのね)
部屋に戻って書類に目を通すと、受験資格を示す欄には、「精霊言語を話す事ができ、魔法を行使できる者」とだけ書かれている。
「ええと、合格して魔導士資格を得た場合、その者は原則としてエーベル王国に帰属するものとする、か。帰国する時は資格を失う事になるのかしら?でも受験者の国籍は問わないみたいね。受験料も手持ちのお金でも十分おつりがくるわ」
合格後についての説明を読むと、試験に合格して魔導士になっても、二年の間は国立魔導学院で学ぶよう義務付けられている。だが、成績優秀者に限ってはその間の学費が免除され、希望すれば無料で学院寮に住む事ができるらしい。
「それに、魔導士の仕事の斡旋もしてくれるだなんて、至れり尽くせりなのね」
難があるとすれば、願書の締め切りが明日で、試験までたったの一週間しかないという事だろう。
「でも、諦めるにはもったいない位の好条件だわ。どうしようかしら」
『あいかなら、大丈夫ー!』
『私たちがついてるー!』
悩んでいると、すぐそばで様子を見守っていた精霊たちが、彼女を励まそうと声をかけてきた。
「みんながそう言ってくれるのなら、挑戦してみようかしら」
『あいか、がんばってー!』
精霊たちからの熱烈な声援を受け、思い切って試験を受けてみようと決意した彼女は、翌日さっそく魔導学院まで願書を提出しに行った。
受付の女性に試験について尋ねてみると、試験には筆記と実技があって、その二つとも規定以上の点数を取らなければ合格できないらしい。しかも受験倍率はかなり高いため、毎年受かるのはほんの僅かな人数なのだという。
「そんなにも狭き門なのね。いきなり試験に挑むのは無謀だったかしら?」
早くも不安になりかけたが、既に願書は出してしまったのだから思い悩んでいても仕方がない。すぐに気を取り直すと、まずは受付の女性に勧められた通り、受験時に必要となる身分証を手に入れるため、冒険者ギルドに登録してギルドカードを手に入れた。
(私でも出来そうな薬草採取の依頼が結構あるわ。お仕事が見つかるまで、ここでの依頼を受けて日銭を稼ぐ事にしましょう)
その後、アイカは試験の日まで、ひたすら冒険者ギルドの依頼をこなすのと、職探しをするのとにひたすら精を出した。
「嬢ちゃん、試験勉強はしなくてもいいのかい?」
「試験は明後日ですし、勉強といっても、そもそも試験内容がどんなものかもわからないので‥‥‥」
「そ、そうか」
問いかけてきた宿の亭主は、申し訳なさそうな目でアイカを見た。どうやら、安易に試験を勧めてしまった事を後悔しているらしい。
「あの、あまりお気になさらないで下さい。もし受からなくても、帰国した時にこの国で一番難しい試験を受けたっていう土産話になりますから」
「そうかい?それならいいんだが。まあ、とにかく、俺も家内も応援してるからな。がんばれよ、嬢ちゃん!」
「はい。ありがとうございます」