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16話

 王都での魔物騒ぎが起こってから数週間後の、ある日のこと。


 アイカは授業を終えた放課後に、学院長室に呼び出されていた。


「え?私に褒賞をいただけるのですか?」

「そうじゃ。王都に現れた魔物討伐で負傷した多くの者を救ったという功績で、君には特別に褒賞金が出る事になった」


 魔導学院長のモルドが、肩に乗せた瑠璃(るり)色の小鳥と戯れながらそう言うと、何を言われるのだろうと身構えていたアイカの体から力が抜けた。


「何故私なのでしょう?私の他にも負傷者の治療にあたっていた方は沢山いらっしゃいました。あの方たちを差し置いて私が褒美を頂くのは、おかしいのではないでしょうか?」


 アイカが戸惑う様子を見たモルドは、嬉しそうに目を細める。


(まことに噂とは当てにならんのう。この娘のどこをどう見たら悪女じゃと思えるのか。他の魔導士たちはみな、この娘の謙虚さを見習うべきじゃよ)


 後日、アイカに助けられた騎士や冒険者たちが個別にお礼の金品を渡そうとしたが、彼女は全て固辞したという。そのため、今時の魔導士にしては、珍しいほどに謙虚で清廉な人物だと、彼らの間では評判になっているらしい。


「何も心配することはないぞ。これは君の働きに対する正当な報酬なのじゃ。君の薬がなければ多くの者が命を落としていたと、現場にいた者たちがみな証言しておる。こういう時は遠慮せずにもらっておきなさい」

「わかりました。そういう事であるならば謹んで褒賞をいただきます。‥‥‥実は今月は色々と物入りだったので、臨時収入をいただけるのは、正直とてもありがたいです」

「ほっほっほ。そうかそうか!」


 ローブを目深に被った彼女の恥ずかしそうな様子を見て、モルドは声をあげて笑う。


「褒賞金は、宰相であるロイスレント公爵がこの学院を訪れて、君に渡す事になっておる。あまり格式ばった事は好まないお方じゃから、今着ている学院のローブで出席しても問題ないじゃろう」

「わかりました」


 その後、褒賞金をもらう日時や場所などに関する詳しい説明を聞き終えたアイカは、すぐに学院長室を辞そうとしたのだが、何故かモルドに呼び止められた。


「実は、君が怪我人に使った回復薬について、色々と質問したい事があってのう。少しばかり時間を貰えないじゃろうか?」


 聞けばモルドは、彼女が回復薬に施した光属性の付与魔法に関して、ずっと興味津々でいたらしい。


 学院長たっての願いを断る訳にもいかず、付与魔法や効果の重ね掛けの方法について講義する羽目になったアイカだが、モルドとの魔法談義は予想外に楽しいもので、様々な魔法について考察したり、小鳥の姿をした精霊の可愛らしい仕草に癒されているうちに、気が付くと辺りはすっかり暗くなっていた。


 慌てて腰を上げた彼女に、時間を割いてもらったお詫びにと、モルドは王都の有名店で売られている高級菓子と、学院長室がある階に立ち入る事ができる特別な許可証をくれた。


「君のおかげで、実に有意義な時間を過ごす事ができた。また精霊の事や、君の知る魔法について詳しく聞かせておくれ」


 にこにこ顔のモルドと、嬉しそうにさえずる小鳥に見送られて帰路についた彼女が、下宿先の〔虎のしっぽ亭〕に戻って報奨金の事を報告すると、ミルパはまるで我が事のように喜んでくれた。


「へえ。じゃあ褒賞金を渡しに、あの〈氷の宰相〉がわざわざ学院までやってくるのかい?」

「〈氷の宰相〉というのは、ロイスレント公爵様の事でしょうか?」

「ああ。そうだよ。お名前をレイザック・ロイスレント様と言って、氷の上位精霊と契約しているのと、いつも冷静で滅多に表情を崩さない事からそう呼ばれているんだ。まだお若くて容姿端麗だってんで、年頃の貴族令嬢たちからいつも言い寄られているって話だよ」

「そうなのですね」

「レイザック様は、宰相職を辞した御父上に代わって、王命で宰相の座に就いたんだけどね、名宰相だった御父上に負けないくらい切れ者だって評判のお方だよ」

「そんなに優秀な方が宰相様なら、皆さんも安心できますね」

「ああ。そうだねえ。貴族なのに、あたしら庶民の事も何かと気にかけて下さるから、本当に助かっているよ」


 ミルパの嬉しそうな話ぶりから見て、どうやらロイスレント公爵は国民から厚い信頼を得ている立派な人物であるようだ。


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