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13話

「終わりました。これで大丈夫なので、皆さんに配ってもらえますか?」

「え?もう?」


 驚いて呆然としているシーラの横では、ビンデルがあごひげをしごきながら納得顔で頷いている。


「そうか!さっき嬢ちゃんがあいつに使った回復薬にも、今と同じように治癒と浄化の効果を上乗せしてたんだな?」

「ええ。でもあの冒険者さんの場合は、かなり失血していたので、血の量を増やすために体内の活性効果も加えました」

「ちょ、ちょっとまって。アイカさんはあの短時間で光属性の魔法を重ね掛けしていたの?一体どうやって?」


 数ある属性魔法の中で光魔法は最も難しく、発動するまでに時間がかかる。それというのも、特に気難しいと言われている光の精霊と交渉して助力を引き出すのは、極めて困難な事だからだ。


「え?普通に光の精霊たちにお願いしただけですが」

「普通にって‥‥‥」


 戸惑ったように小首をかしげるアイカの言葉を聞いて、シーラが目を丸くする。


「さっき嬢ちゃんが、流暢な精霊言語で精霊に話しかけていたのを聞いただろ?まあつまり、嬢ちゃんは、確かに魔導士試験を最年少で首席合格するだけの実力を持ってるって事だよ!」


 いまだに唖然(あぜん)としたままのシーラの肩をぽんと叩くと、ビンデルは愉快そうに笑った。





 この夜、アイカが作った回復薬のおかげで、多くの重傷者が出たのにも関わらず命を落とした者は一人もいなかった。


 実際に死にかけていた者が救われる様子を見た人々や、回復薬を配ったシーラやビンデルの説明によって、現場にいた多くの者は、巷で流れるアイカの噂は、全く根拠のない作り話である事を知った。



「今年の試験を首席合格した女魔導士は、聖女様に匹敵するほどの光魔法の使い手らしい」



 この事件以降、王都で(ささや)かれるようになったこの新しい噂は、結界で守られているはずの王都内に突然魔物が現れた事で不安を抱えていた王都民にとって、一条の希望の光となった。


 だがその一方で、この事を面白く思わない者たちもいた。それは、アイカを妬む魔導士たちと、精霊教会の面々である。






「おお!長年ずっと動かなかった右腕が治った!聖女様、ありがとうございます!」

「お礼ならわたくしではなく、どうか精霊様に。あなたに精霊様のご加護がありますように」


 仕立ての良い服に身を包んだ中年男性から、聖女と呼ばれた女性は、白い杖とローブを身にまとい、美しい顔に穏やかな微笑みを浮かべて彼に祝福を与える。すると、彼は感極まったようにその場に(ひざまず)いた。


「ああ、なんと慈悲深く美しい‥‥‥。エリアナ様、あなたこそ真の聖女様だ。これからは一層教会のために献金いたしますぞ!」


 美食によってでっぷりと肥えた商人の姿が扉の外へ消えると、エリアナは笑みを消して礼拝堂の椅子に座り込み、深い息を吐いた。


「聖女エリアナ様、本日のお勤め、大変お疲れ様でした」

「ええ、本当に疲れたわ。すぐに湯あみしたいから、お風呂の用意をして頂戴。香油は赤い瓶のものを使うようにね」


 男を治癒し終えたのを見計らってやってきた修道女にそう申しつけると、エリアナは先程とは打って変わって不機嫌そうな顔で、教会の長い回廊を通り抜けて自室に戻った。


 そこは、清貧を重んじる精霊教会の一室とは思えぬほど、豪奢な部屋だった。調度品は全て、一流の職人の手によって(あつら)えらえた高級品で、床には高価な絨毯が敷き詰められている。


「エリアナ様、お帰りなさいませ。随分とお疲れのようですね」

「あたたかいお茶をご用意しております」

「入浴の準備が整うまで、どうかお寛ぎください」


 自室に戻ったエリアナを、彼女付きの侍女たちが笑顔で出迎える。部屋の主が不機嫌なのは疲れのせいだろう、と勘違いしている彼女たちを無視して無言のままで椅子に座ると、エリアナは湯気が立つカップを手に取った。

 

 苛立った様子でいてもその所作は非常に美しい。それというのも、以前の彼女は裕福な侯爵家の一人娘であったからだ。


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