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12話

「ん?おい、ちょっと待て。傷が治ってきてねえか?」

「え?」


 傍にいた騎士が(いぶか)し気な顔で横たわったままの青年に目を向けると、確かに少しずつ傷口が塞がってきていた。


「ほ、ホントだ!それに顔に赤みがさしてきてるぞ!」

「え、嘘でしょ‥‥‥?」

「〈雑草〉なんかの薬で本当に傷が?」


 アイカに罵声を浴びせていた者たちが驚いている間にも、傷口はどんどん塞がっていく。それから数分も経たないうちに、あんなにも酷かった傷口は、目を凝らしても跡が見つからないほど綺麗に完治してしまった。


 苦悶の表情が消えた青年は、今は呼吸も落ち着き、安らかな顔で眠っている。


「とりあえず、これでもう大丈夫だと思います。でも出血量が多いので、薬の効果が切れるまで、あと半刻ほどは絶対に動かさずにこのまま寝かせておいてください。それと体が冷えないように気を付けて」

「わ、わかった!誰か毛布を持ってきてくれ!」

「よし、今すぐもらってくる!」


 騎士の一人が急いで天幕を飛び出すと、残った騎士たちが、喜びでむせび泣きながらアイカに向かって頭を下げた。


「先程は怒鳴ってすまなかった!心から感謝する!」

「い、いえ、どういたしまして。無事に助けられてよかったです」


 (ひざまず)いて感謝され、動揺したアイカは、顔を隠しているローブを更に引き下げた。天幕の隙間から、周りにいた騎士たちが次々とこちらに集まって来ているのを見て、慌ててビンデルに声をかける。


「あの、ビンデルさん、回復薬の提出場所を案内してもらってもいいですか?きっとシーラさんが待っていると思いますので!」

「お、おう、そうだな!」


 アイカに袖をひかれて驚きからようやく我に返ったビンデルは、集まってきた騎士や物問いたげな様子の人々を強引に掻き分けながら、彼女をシーラの元へと連れて行った。


「シーラさん、遅くなってすみません!」

「ああ、アイカさん!急な呼び出しに応じていただき、ありがとうございます!」


 果たしてシーラは回復薬を待ちわびていたらしく、アイカの姿を見るなり急いで駆け寄って来た。


「そちらの鞄に回復薬が?」

「ええ。今すぐ出しますね」


 アイカが薬瓶を取り出して、用意された机の上にどんどん並べていくと、シーラの目が驚きで丸くなる。


「まあ!こんなに!?」

「とりあえず手持ちの回復薬を全部持ってきました。足りないようでしたら、持参した薬草で急いで作ります」

「まあ、初級や中級だけでなく、作るのが難しい上級回復薬まであるの?しかも、こんなに沢山‥‥‥!本当にありがとう、これだけあれば十分だわ。すぐに医療班に分配する準備をしなくちゃ!」

「あ、ちょっと待ってください!」


 シーラが慌ただしく薬瓶をかき集めようとしたところを、アイカが呼び止める。


「さっき重症の冒険者さんを治療した時、傷口から入った瘴気で体内が汚染されていたんです。もし薬があまり効かない負傷者がいるのなら、彼らも瘴気で汚染されているのかもしれません」

「それは本当なの?瘴気汚染については何も報告されていないけれど」

「シーラ、嬢ちゃんの言う事は本当だ。さっき死にかけてた俺の知り合いと一緒に居た騎士たちに確認した」


 瘴気と聞いて顔色を曇らせたシーラに、ビンデルが先程聞きとった内容を補足する。


「まさかそんなことが‥‥‥。でもこれで納得したわ。実は治療班の人たちから、いつもに比べて薬や魔法の効き目が悪いという報告がいくつも上がっていたの。きっと討伐に同行した魔導士の浄化魔法が不完全で、負傷者に瘴気汚染が残っていたのね」


 シーラが頬に手をあてて、ため息をついた。


「だけど困ったわね。それだと浄化魔法が必要になるけれど、討伐に同行した魔導士たちは救助を手伝わずにさっさと帰ってしまったし」

「ええ。だからここにある回復薬に治癒効果を重ね掛けした上で、さらに浄化効果も付与します。ですので、すみませんが、もう少しだけお時間をいただけますか?」

「わかりました。って、え?治癒効果の重ね掛けに浄化効果の付与?」


 思わず聞き返したシーラの目の前で、アイカは光の精霊に呼びかける。先程と同じように、呼びかけに応じて集まった光の精霊たちが、机に並べられた薬にアイカが望む効果を次々に付与していく。


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