10話
冒険者ギルドから、アイカの元に伝令鳥が舞い込んだのは、〔虎のしっぽ亭〕の閉店後、アイカが後片付けの手伝いを終えて二階の自室で勉強していた時の事だった。
(伝令鳥の色が赤ということは緊急の依頼だわ。一体何があったのかしら)
魔法で作られた伝令鳥を一撫ですると、ギルド職員のシーラの声で要件が再生された。
『王都に突然魔物が現れ負傷者多数。手持ちの回復薬があれば至急で持参されたし』
「大変だわ!早く行かないと!」
薬師ギルドに納品する予定だった回復薬をまとめて愛用の鞄に詰め込んだアイカは、伝令鳥を二回撫でして承知した事を吹き込むと、すぐさまシーラの元に飛ばした。
大急ぎで階段を駆け下りてきたアイカを見て、明日の料理の仕込みをしていたミルパが目を丸くする。
「アイカ?こんな夜遅くに一体どうしたんだい?」
「それが、突然王都に魔物が出たらしいのです」
「なんだって?!じゃあ討伐の手伝いに行くのかい?」
「いえ、冒険者や王国騎士団によって既に討伐は終わっているそうなのですが、負傷者が大勢出てしまったらしくて。だから手元に回復薬があったら急いで持ってきて欲しいと連絡がありました」
「そうかい。それなら急がなきゃね。あんたが帰ってくるまで明かりは落とさずに待っているから、気を付けて行っておいで!」
「ありがとうございます。念のためおかみさんも気を付けてくださいね」
「あははは。大丈夫だよ。これでも元・銀級冒険者だからね。この店と子供たちはしっかり守るさ」
シーラから指示された場所にアイカが辿り着くと、そこは多くの人々でごったがえしていた。負傷者はみな毛布の上に寝かされており、医者や薬師が忙しそうに行き来している。その周りでは魔道具ギルドの職員たちが、魔物避けや簡易結界の魔道具を設置するために立ち働いていた。
辺りに漂う血の匂いに身が竦みそうになるのをぐっとこらえ、アイカは人ごみに近づいた。
(ええと、回復薬の受付場所はどこかしら?)
邪魔にならないようにと、少し離れた場所から辺りを見回していると、ビンデルが手を振りながら駆け寄ってきた。
「おお!やっぱり嬢ちゃんも呼ばれたのか」
見知った顔を見たアイカは、ほっとして胸を撫で下ろす。
「冒険者ギルドから回復薬を届けてほしいと要請があったのですが、どこで受付すればいいのかわかりますか?」
「おう。それなら俺が案内するぜ。だが先にやばい状態の奴に、薬を分けてもらってもいいか?」
「もちろん構いませんが、先に冒険者ギルドの許可をもらわないと」
「大丈夫だ。もうギルド職員に許可は貰っているから問題はねえ。そいつには一番に回復薬を使ったんだが、なにぶん傷が酷くてな。さっきまで治癒魔法を使える奴らが魔力回復薬を飲みながら頑張ってくれてたんだが、今はみな疲労でへばっちまって使い物にならねえ状態なんだ。けどナイルっていう飲み仲間が、もしかしたら嬢ちゃんの薬なら、望みがあるかもしれねえって教えてくれたんでな」
「ナイルさんと言うと、もしかして、薬師ギルドのナイルさんでしょうか?」
「おう、そのナイルだ!嬢ちゃんの薬は、他の奴が作った物に比べて倍以上の効果があるってベタ褒めしてたぜ」
ナイルは、アイカに関する中傷を信じる事なく公正に接してくれる数少ない薬師ギルド職員で、納品の際もきちんと薬の出来具合に応じた報酬を出してくれる。そんな彼が自分を高く評価してくれていると知り、アイカは嬉しくなる。
ビンデルに手を引かれるまま、人の波をかき分けていくと、重傷者が寝かされている天幕の前に出た。
「〈雑草〉の奴、なんでここに?」
「泥棒魔導士がこんな所に何の用だ」
「ちょっと!ここはあんたみないな出来損ないが来る場所じゃないわよ」
ナイルとは反対に、噂を信じきっている冒険者や薬師たちから次々と酷い言葉を投げつけられたアイカが体を強張らせていると、腹の底まで響くような大声で、ビンデルが一喝した。
「うるせえ!くだらねえ中傷を丸ごと信じ込んでる馬鹿どもは黙ってろ!」
途端にビクついて黙り込んだ彼らを一瞥し、フンと鼻を鳴らすと、彼はアイカを天幕の中へ入るように促した。
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