彼の正体はなに?
ところで、彼はいったい何者なんだろうか??
幽霊であることに間違いはないのだが、地縛霊?それとも浮遊霊?……このアパートが事故物件であったとするなら、そもそも大家さんに話を聞くべきなのだろうか?
アパートに帰ってきた。彼は、リビングのソファーでラノベを読んでいるようだった。
俺は、買ってきた首輪を猫に装着しようと奮闘する。
「むむむ…」
猫が動いて上手く首輪をつけることができない。
「(嫌なのかな………」
『猫が嫌がるから、鈴のタイプにしなかったんだと思うよ』
たしかに、猫というと鈴がついた首輪というイメージは確かにある。
気配を消せる猫がどこにいるか飼い主が分かりやすくするために、昔の人は鈴をつける事が多かったらしいが…
「彼女がそう言っていたの?」
『いや?元カノさんは、見た目だけで選んだんじゃない?』
彼女が選んだ首輪をようやく付け終えた。首輪には、水色のビー玉みたいなガラス玉がオシャレに付いている。
俺はビー玉が好きだし、これにしてよかったかも。彼女と選べた記念になって余計に嬉しい。
「ところで、何を読んでるの?」
俺は、めずらしくソファーにいる彼の隣に腰かけた。
彼の手には、ラノベとそれ用の栞が握られている。その栞の絵を見てみると…どこかで見たことがあるようなキャラクターのような気がした。
『………君がくれたんだよ?』
「え?」
また、まだ何も聞いていないはずの質問の答えを返答された。
栞には、ゆるーい顔をした犬の絵が描かれている。
『ちなみに、ネコの栞もあるよ』
「へ?そうなんですか?」
彼がポケットから、もう1つの栞を取り出す。これまたゆるーいネコの絵の栞だった。
『だから、君がくれんだってば「また、会おうね」って君が言ったから、ボクはココに来たんだよ』
え、なにそれ、そんなの知らない。
「じゃー俺が『お前なんて、もういらない』って言ったら、出ていってくれるって事ですか?」
『そうだね』
彼は、寂しそうな顔をすると思いきや、少しだけ笑っていた。それが、当然で当たり前だということを分かっているとでも言いたげな顔をしている。
『それじゃ、ラノベも栞も返すね』
彼が、サイドテーブルに本を置くと立ち上がった。
幽霊のくせに、この家を出ていくときには、まるで人間みたいにアパートのドアを開いて退室していった…。
いったいなんだというんだ…。彼が読んでいた本を手に取る。そこに挟まれている栞は、小学生時代の自分が考えたゆるキャラだ。
「なんで、コレを持っていたんだ?」
静まり返ったアパートには、もう返事を返してくれる人は存在しなかった。
その後、俺の家の猫の目が変わってしまったような気がするのは気のせいだろうか??
そして、気がつくと勝手に404号室に変わっていた部屋のナンバーもいつのまにか、自分が成約した403号室に戻っていた。
「アナタは、幽霊だったのですか?」
『こんな綺麗な幽霊がいてたまるかよ』
「じゃー何なんですか?」
『良いことが続いてたんでしょ?座敷わらしって知ってる?』
「座敷わらしだったんですか?!」
『だから、こんな綺麗な座敷わらしがいてたまるかっての…』
「いったいなんなんですか……」
君が、ボクの正体をつきとめることを諦めてしまったから、正体はわからないままだ。残念だったね。