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第2話 子爵令嬢の答え

白金色の王宮が静寂に包まれる。王はその静けさを破ってアミリアに問いを投げかけた。


「その言葉に嘘偽りはないな?魔王に嫁ぐことは簡単なことではない。なにゆえ候補に名乗り上げた?」


彼女は真剣な面持ちで顔を上げ王を見つめ返す。彼女の口が皆の視線を集めた。


「神に誓い正直に申し上げます。私は人外もとい魔族が好きだからでございます。」


王を除く一堂にどよめきが走った。ヒトではない人外が好きだからだという理由で妃に立候補したという大人たちにとっては頓珍漢ともいえる返答が返ってきたのだ。

すかさず側近の大臣の一人が彼女に詰問した。


「貴様!化け物が好きだと?そんな感性普通ではない!どうせ家の名を上げるために化け物との婚姻をやらされたに違いない。そうだろう?」


「いいえ、違います。感性の問題といえばそれまでですが、私は魔族が好きで立候補したのです。私自身で決めました。」


「好きだからと理由で国を挙げた政略結婚ができるわけないだろう!魔王に嫁ぐということは魔族のいる国にずっと住み続けねばならず、さらに両国との橋渡しもせねばならんのだ。一時の感情でできるものではない!私は認めんぞ!」


大臣の意見にうなずくものが現れ始めた。父親の子爵は娘の顔をちらちら見ながら俯いていた。


「ではなぜ聖女とよばれる方々や公爵家のご令嬢方、はたまた異世界から転移してきた娘たちはなぜ嫁ぐことをしないのでしょう。家のためとはいえひいては国家のために嫁ぐとなっても魔族の地、文化いや文明が違うところでくらすのは彼女たちには荷が重いと感じているからでしょう。」


「そんなの仕事と一緒だ。知らぬ土地でも妃として恥ずかしくない娘を送り出すのが我々の仕事だ。」


「魔族の方々はそこを見抜いてきます。無理やりやらせても病んで国へ帰らさるはずです。私は王立の学院で外交学を修め、レディーとしてふさわしい振る舞いも身に着けてまいりました。」


「だからこそだ。本来ならばお前のような貧乏貴族ではなくもっとふさわしい女をあてがうべきなのだ!どうせ野蛮な人外どもにそこまでの機微はわかるまい!」


大臣がいきおい余ってアミリアの肩をつかもうとした瞬間、彼女は大臣の腕をつかみ、大臣を投げ飛ばした。


アミリアは投げ飛ばした後魔方陣を出し紙の束を召喚しだした。


「おい、小娘。わしを投げ飛ばすなど言語道断。無礼にもほどがあるぞ!ん…それはなんだ?」


「あら、投げ飛ばしてしまい失礼しました。上級貴族とは違い私は不躾なので身を守る体術をしてしまいました。ごめんあそばせ。」


アミリアは片手で紙束を抱え、もう片方でドレスの裾を持ち上げた。


「こちらは私が集めた魔族ひいては異国の地について記したものです。国家の集めたものとはくらべものにはならないですが。」


起き上がった大臣が彼女から紙をもぎ取ってその内容をまじまじと見た。


「これは…お前が一人で集めた物なのか?」


「いえ、私一人だけでは作り上げられませんでしたわ。」


「それで…内容は魔族についての生活か…レポートの内容としては悪くない」


大臣はそのまま紙束を王に渡した。王は目の前の喧騒に我関せずという態度のまま、彼女のレポートに目を通した。


先ほどの騒がしさから一転、王宮は再び静寂に包まれていった。レポートのめくれる音だけが響いていた。レポートを読み終わったであろう王はアミリアを見つめる。

アミリアはさっきの大臣とは違う優しい威圧感なのかオーラとも呼べるような圧に少したじろいでしまった。


「アミリアよ」


「はっ…はい!」


「此度の結婚、大臣が言ったように両国を挙げての外交となる。向こうに嫁いだら向こうの習慣に従わなければならない。そのうえ魔族がお前にどう関わっていくのかはたまた無関心な態度をとられるお飾りとなるのか未知数である。それでもよいなら余が後ろ盾に回ろう。」


衝撃の発言だった。


まさか王から後ろ盾の発言が聞けてアミリアは小さくこぶしを握った。王は言葉を続ける。


「魔族もバカではない。むしろ身分にとらわれずに我々人を見てくることがある。無理矢理我々が選んだ娘を嫁がせて問題になるよりお前のような娘が適任なのだろうと思う。」


大臣が王に進言した。


「お言葉ですがわが王、この娘は魔族が好きすぎるあまり役目を放棄して魔族に与する可能性だってあります。」


「お前の言いたいことはわかる。だが我々もそして向こうも“賭け”に出たのだ。」


「賭けですか…」


「そう魔族との正式な婚姻はわが国でも魔族のほうでも初の試みとなる。こっちでは通用する常識も向こうでは通用しないこともある。この娘は向こうに行っても適応できると考えたのだ。それにこのレポートダンジョンからの情報も載っているな?」


王の問いかけに自信満々だったアミリアはバツの悪そうな顔をした。


「令嬢がダンジョンに?」「正気か?」「どうかしている」周りからそんな声が出始め、父親は初めて聞いたのか顔が白くなって今にも倒れそうであった。


「魔族に対して情報収集を怠らず、学問にも精を出し身を守る体術をも身に着け魔族との交友に積極的にかかわろうとする姿勢、尊敬に値する。アミリアよ、余はそんな勇気ある行動こそシルベルスとの和解に一役買って出れると見たいのだ。者どもなにか意見はないか?」


この国では王の発言は絶対である。さっきまで威勢の良かった大臣でさえしおれつつある。


「アミリアよ、明日から三か月間王宮で妃教育を受けるがいい。嫁入り道具もこちらでそろえよう。いろいろ準備せねばならないから忙しくなるぞ。それでもいいか?」


先ほどの威圧感は消え優しげな老紳士のような雰囲気で彼女に語り掛けてきた。


「はいっ!精一杯頑張ります!」


その後王都家臣たちの間で会議が開かれアミリアが妃候補となったのだ。


 その夜、ベティン子爵領ではアミリアが大臣に対して無礼なことを働いたこと、

勝手にダンジョンに行っていたことなどが明るみになり父と母がそろって彼女の頭に雷が落ちたということは言うまでもない。


 翌朝、子爵の城の前に豪華な馬車が止まった。王の言ったとおりに今日から妃教育が始まるんだとアミリアは心をワクワクさせながら、おしとやかに馬車へ乗り込んでいった。そんな娘を父と母、そしてアミリアの弟は幸先不安そうな面持ちで首都へ行く娘を見送ることしかできなかった。


結婚まであと三か月

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