最善の選択
最後の稽古を終え、カラバリの町は目の前のところまで来ていた。でも何かがおかしい。そんなに過疎化が進んでいなく、ギャルド城下町に着くまでの休憩地としてむしろ栄えている方の町のはずが、道中一度も他の行商人とすれ違わない。明らかに不可解。そして不気味さを感じていた。そんなことを知る由もないユウとマイ。組織のピリついた空気に、なぜだろうかと気になるが、聞けないままでいた。
ユウ「もうすぐみんなともお別れなんだね・・・。近づいてきて実感してきたな。」
マイ「私もです・・・。泣いたらいけないのに・・・」
しっかりしないとと堪えながらも涙が溢れてしまうマイ。そんなマイを抱きしめるユウ。守っていかないといけない。たとえマイの方が僕より何倍も才能があるとしても。僕はマイの兄だから。才能なんてものは言い訳にできない。そんな二人を優しい目でギョウさんは見つめていた。
ーーービリッ!!!
死を纏った圧倒的な気配が組織を襲う。間違いない。カラバリの町からだ。
いや、組織の人はこの気配をずっと前から感じていたからピリついた空気だったのだと、ユウは気付く。
ユウ「ギョウさん!!何なんですかこの気配・・・。体の震えが止まらない・・・。」
ギョウ「君達もとうとう感じたか。今から言うことを落ち着いて。よく聞いてくれ。俺たちの次の目的地は、龍神側に筒抜けだったようだ。そしてこの気配。間違いなく相手の最高戦力が集結している。そんな死地に君たちを連れて行くわけにはいかない。ここで君達とはお別れだ。馬車を一台渡そう。ギャルドに引き返すんだ。」
ユウ「でも!・・・・でもっ!」
ギョウ「大丈夫さ!俺がいる限り組織は必ず勝つ!そしてここで別れと言ったが、勝って必ずギャルドに一旦帰還することを約束しよう!だから安心して冒険者としての依頼をこなしながらでも待っていてくれ。」
ギョウさんだけじゃない。組織のみんな僕達に笑って「安心しろ!」「大丈夫だ!」「また会おうな!」と言ってくれる。
ーーーわかってる。みんな僕達のために恐怖を見せない様にしてくれていることなんて。その気持ちを無駄にするほど分からずやな子供ではいたくなかった。
マイ「いやです!私もついていきたい・・・。みんなからママが死んでしまった時と同じ魔力が漂ってる・・・。誰かの為に自分を犠牲になんて。その誰かの中に私がいることが。私はもうイヤなんです・・・。」
泣き崩れるマイ。僕だってイヤだ。でも兄として。
ーーー僕は最善の行動を選ばなくてはならない。
そっとマイの後ろに行き、首元に一撃を加える。マイは泣きながら意識を失くした。あとでどれだけだって僕が責められればいい。それでも僕はマイを守る。
ギョウ「ユウ。辛い選択だったはずなのに・・・。ありがとう。だがさっきの本気さ。龍神を倒すまで俺たちは負けない。負けてはいけないんだ。・・・生きてまた稽古をつけてやるからな!」
ユウの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
ユウ「約束・・・ですがぁらねぇ・・・!」
声を振り絞る。そしてマイを馬車に乗せ、ユウはギャルドに引き返した。
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あれから1ヶ月が経った。ギャルドに着くまでの一週間、マイは何度も引き返そうとした。でも僕は引き返さなかった。ここで引き返してしまったら、ギョウさん達の思いが無駄になってしまう様な気がして・・・。
少しずつマイも諦め、ギャルドに無事帰還することに成功した。最初は一週間もすればギョウさん達がきっと帰ってくると言い聞かせ、簡単な依頼をこなしては宿に泊まって暮らした。帰ってきた時に冒険の土産話ができるように、少し難しそうな依頼もたまにこなしてみた。
ーーーでも二週間してもギョウさん達は帰ってこなかった。
先に限界が来たのは、マイだった。
マイ「兄様。ギョウさんたちを見に行きましょう。少しは腕を上げましたし、お金も馬車を少し借りるくらいにはあります。」
ユウ「だめだ。それにギョウさん達は待ってろって。絶対戻るって約束したんだ。」
マイ「じゃあ何で戻ってこないんですか!それに約束だって・・・。私達を安心させる為の嘘に決まってるじゃないですか・・・。」
ユウ「そうだとしても。僕はマイを最優先に考えてる。この前ナイアスに会った時に感じた気配よりも、死を感じさせたあの場所に。マイを連れてはいけない。」
マイ「そうやって全部私のためだって!・・・わかっています・・・。きっと兄様が正しいことなんて・・・。」
静まった部屋にマイの鼻を啜る音だけが響く。僕が正しいのかなんて分からない。でもいつまでも真実から目を背けているのは僕の方かもしれない。
ーーー行こう。
僕の口は勝手に声を出していた。驚いた顔をするマイ。さっきまでと全く逆のことを言っている僕に僕は驚いた。
ユウ「で!でも!しっかりと準備をした後にだ!それに手前でまたあの気配がしたらすぐに引き返す!これは絶対だ!」
マイ「兄様・・・・。兄様ぁ・・・。」
これでよかったんだ。いつまでも目を背けていてはいけない。真実をこの目で確認するんだ。
そして一週間が経ち僕達の準備は万全。そして今に至ると言うわけだ。
マイ「兄様。行きましょう!」
ユウ「ああ。行こうか!」
強い信念の灯った二人の目。その胸元にはシルバーに輝くプレートがぶら下がっていた。