稽古
ギョウさんから放たれた圧倒的威圧感。僕達は気圧される。そんな空気はハッと我に戻ったギョウさんの言葉で緩和された。
「すまない!俺としたことが・・・。ヴァイスト。君の責任じゃない。龍神という存在を軽くみていた俺の責任だ。そして何があったか教えてくれ。」
ヴァイストは再び深く頭を下げると、何が起きたのかを語り出す。
「前回と同じように、村人が祈りを捧げた瞬間に睡眠粉をばら撒く所まではお頭もいたので知っていると思います。その後お頭がさってから、少しして村人は徐々に眠り始めました。そして眠りについた瞬間祈りのおかげで無くなった不壊効果が戻る前に破壊する所まではいつも通り成功しました。しかし破壊をトリガーに何か仕掛けていたのでしょう。魔法陣と透明な結界が現れその結界内で巨大な爆破が起こりました。ガーディの防壁魔法に入れたものはほぼ無傷ですみましたが、入れなかったもの達は大怪我を負い。そしてミルとファディマは・・・。」
ギョウさんは悔しそうな、悲しそうな顔をしたヴァイストの肩をガシッと掴む
「そうか。君は最善の行動をしてくれた。そして俺たちが必ずやり遂げないといけない理由がまた増えた。次は必ず犠牲を出さず。皆で無事にやり遂げよう。」
想定外の仲間の喪失に、組織の皆は悲しみながらも後ろを向いてはいられないと、強い目をしていた。皆覚悟を決めた人ばかりであった。そうでもしないと龍神と敵対するなんてできないのだろう。ギョウさんが僕達に足手まといになると言った理由がわかった気がした。
「みんな!申し訳ないが俺たちには休む暇はない!コーラスに回復魔法をかけてもらったら出発の準備をしてくれ!」
ギョウさんがそう言うと、皆動きだし各自やるべきことをし出す。
「ヴァイスト!君はこちらにきてくれ。紹介したい人がいる。」
僕達の方に向かってくるギョウさんとヴァイスト。
「こちらは俺の友人のユウとマイだ!これから次の目的地まで旅を共にする。気にかけてやってくれ!」
ヴァイストは極悪人みたいな見た目をしていたが、思っていた人物像とはかけ離れていた。
「お頭のお友達!そうかぁ!俺はヴァイストってんだ!よろしくな〜!」
「よろしくお願いします!ヴァイストさん!」
そのフニャッとした話し方は、本当にさっきと同じ人なんだろうかと困惑した。
「んで!ヴァイスト。この少女に魔法を教えてやってほしいんだ。」
「お頭の命令とあらば喜んで!っと少年の方はいいのか?」
「ああ。ユウは俺が剣を教える。魔法は二の次だ。」
ユウはギョウさんに「剣を教えてもらえる!」と喜ぶ一方、「マイもギョウさんと一緒が良かったです・・・」と落ち込むマイ。
「安心しろマイ!攻撃的な魔法ならヴァイストは俺より遥かに実力者だ!本気を出したら小さい村なんて一瞬で吹き飛ばせるレベルだからな!」
そんなそんなと謙遜するヴァイストと凄過ぎてちょっと引いていたマイ。
「ということで。君たち二人はこれから一週間。実際に実技練習をできる時間は限られているが、しっかりとモノにしてもらう!強さはこの世界で生きる為に、最も重要だからな。」
モノにできなければ、冒険者は愚か、生きていくことも難しい。そう言われている気がして息をごくりと飲み込む。だが同時に鼓動は高く飛び跳ね、ワクワクしていた。
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皆が次々にコーラスの元へ回復を受けている時間に僕達はやっと一息ついた。冒険の始まりを前に、奴隷から解放されたという事実に再度実感が湧いていた。
「マイ。僕達は本当に解放されたんだな。」
「はい!あの時助けてくださったのはギョウさんですが、行動を起こしたのは紛れもなく兄様です。マイは兄様を誇りに思います!」
素直な目で一切の濁りもなくそう言ってくれるマイにうるうるしてしまう。
「いや、僕はマイのおかげで行動できたんだ。だから僕達二人が起こした奇跡なんだよきっと。・・・でも今までは逆に奴隷だからこそいうことさえ聞いていれば生きていられた。ここから先は常に命の危険が伴ってくる。それでも僕がマイを守るから!」
ユウの言葉にマイは不安を感じつつも、必死で覚悟の決まったその目にニコッする。
「兄様・・・。何言ってるんですか!私が兄様をお守りして差し上げます!」
「いや僕が!」「いや私が!」と謎の守り合い合戦をしているところに、メントゥスが間に割って入り止めた。
「二人とももう出発の時だ。森を抜けるまでは必ずはぐれないようにしろよ!」
基本的には経由地の街に着くまでは徒歩での移動となるそうだ。ここから僕達の冒険は幕を開ける。ユウとマイ。二人の冒険譚の始まりだ!
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この森はエルマイヤ大森林という場所らしい。広大な土地に幾つかの湖があり、魔獣がいない。しかし魔獣がいない森などここだけらしい。
「ギョウさん。何故この森にだけ魔獣が生息していないんでしょうか?」
「詳しいことはわかっていないが。俺個人としてはこのエルマイヤ大森林の何処かにある未踏破の大迷宮。これが関係しているんではないかと予想している。」
薪集めといえどいつも決まった場所しか行っていなかったユウは、そんなものがあったのかと目を丸くしていた。
「ギョウさんでも迷宮の踏破が難しいんですか?」
「俺は挑んだことはないが、おそらく不可能だろう!迷宮っていうのは攻略に、平均一週間程度かかる。自分一人が強くても食料問題、色々な罠、精神を抉るような仕掛けや構造。そして疲労困憊なところに強靭な魔獣やら魔法生物が襲いかかる。3つほど普通の迷宮を攻略したことはあるが、大迷宮はまだ攻略したことはない!」
あのギョウさんがここまで不可能と断言する姿や理由を聞いて迷宮にいかなくてもその恐ろしさが容易に想像できた。それと共に一つ新しい目標もできる。
「じゃあ、いつか凄腕の冒険者になって!ギョウさんに大迷宮攻略の土産話を持って会いに行くよ!」
そういうユウにまたまた大笑いしながら「そりゃいい!気長に待っていよう!」と言ってくれたギョウさん。
あれから半日ほど歩き、一時休息をとることになった。ギョウさんとヴァイストは僕達それぞれを呼び出し、稽古をつけてくれた。
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「ユウ。剣を持つのは初めてか?」
「脱走した時に一度持った程度です!」
「そうか!ではまず移動中は剣の素振りをしておくように!今回は近距離戦での一番大事な魔法を教えよう!」
少しぽかんとするユウ。
「魔法は二の次じゃなかったでしたっけ?それに近距離に使える魔法って・・・?」
「魔法と言っても、単に放出するものばかりではない!身体能力を向上させたり、剣に魔法を纏わせたりする事も可能さ!言っただろう?魔法はイメージなんだ!」
魔法は本当に無限大の可能性があるんだなと感心しているユウに、ギョウさんは実演してみせた。
「たとえば全力で今からあの木に向かって走る。」
普通の全力でさえ、あの時ダストを切った時と同じくらいのスピードだった。
「そして、身体能力向上に魔法をかけ戻ろう。」
一瞬右にずれたように見えたギョウさんが消えた。どこに行ったか探そうとすると背後のふかふかにぶつかる。
「は、早過ぎて見えなかったです。」
「では、私がどちらに動き出したかは見えたか?」
「右側に動き出したのは見えました。」
ギョウさんはニヤリとして僕の肩を掴む。
「そうか!やはり見込みは間違っていなかった!君には才能がある!目がとてつもなくいい!それに奴隷生活のおかげか。体もある程度がっちりしている!食事と鍛錬さえすれば身体能力はすぐにでも向上するだろう!剣の技術は一朝一夕で覚えられるものではないが、私の持てるものは伝授しよう!」
僕の体を触りながら、少し興奮気味に話すギョウさん。きっと元々師匠肌なんだろう。
「ってことで、まずは身体能力を向上させる魔法をやってみようか!全身は難しいと思うから、まずはどこか一つの部位に集中してくれ。そして魔法を具現化した時みたいに、自分の体を今より強くするイメージを持つんだ。」
今より強い自分。そう言った想像は得意だ!と自信満々にやり始めるが全く上手くいかない。
「ユウ、今何をイメージしている?」
「・・・ギョウさんです」
「そうか。そのイメージはすぐにでも捨てよう。イメージはできてもそこに至るまでの強化量と魔力量が足りていないのだろう。まずは50m走るのに8秒かかるとしたら、7秒で走れる自分をイメージするんだ。」
ユウは少し悔しいながらも理解する。イメージを変えた途端。足に赤いオーラが立ち上る。
「ギョウさん!いけました!少しだけ軽くなった程度ですけど・・・。」
「最初はそれでいいんだ!だんだん慣れたり、素の身体能力を向上させればもっと恩恵を受けられるようになる!・・・と今日はここまでにしておこうか!」
稽古を終え、休憩地に帰ろうとした時。マイが稽古している方で爆発音がする。急いでそこに向かうと。尻餅をつくマイと、目がとんでもなく開いて固まっているヴァイストがいた。目線の先を追うとそこには、30m近く先まで焼け焦げた森の光景があった。
早く大迷宮攻略編とか書きたいなぁ!
最後まで読んでくれてありがとうございます!