魔法
「落ち着いたか。二人とも。そしたら場所を移そうか。ここに長居しては危ない」
さっきの騒ぎで、もしかしたら他の村人が様子を見にくるかもしれない。ユウとマイはこくりと首で頷き返事をした後、ギョウさんの後ろをついていく。
「ところでギョウさん、どこに向かうんですか?」
ギョウさんは森の方面にある、一際高い丘を指差す。
「あの高い丘を目指す。あそこに落ち着ける場所があるんだ。」
「そうですか。わかりました!・・・マイ、外にたくさんいたけど大丈夫?」
ユウは体の弱いはずのマイを心配し声を掛けるが、思っていた返事とは違った。
「はい!なぜか村を出た途端。体がフッと軽くなった気がします!」
初めてみるほど飛んだり走ったりするマイに、僕は驚いたがものすごく感動もしていた。後ろからギョウさんが僕の肩を掴みマイをじっと見ていた。
「おそらく村に張ってあった結界のせいで溜まった、あの村特有の魔力に影響を受けていたんだろうな。普通の人間なら何もないはずだが・・・。マイはもしかしたら魔力に影響を受けやすい特異体質なのかもな。」
「結界?特異体質?それに魔力って?」
分からないワードばかり出てきて困惑するユウ。逆にそんなことも知らないのか!?と少し呆けた顔をするギョウさん。その後一人で何かを察するようにふむふむと頷き、再び目的地に向かいながら、僕とマイに色々と教えてくれた。
「おそらくオルト村は意図的に魔法関連の情報を遮断していたんだろう。今から一つずつ説明していこうか。まず魔力。この世界の生物や特定の場所には魔力が流れている。それを利用し魔力から何かしらを作り出し形にするのが魔法だ。そして特異体質というのは生まれてくる際に何かしらの恩寵、加護とも言うがそれを持っている存在のことだ。そして最後に結界。媒介をもとに、一定の範囲に何かしらの効果をもたらす空間を作り出す。魔法を利用した高等技術だ。」
ギョウさんは実際に小さい炎を出す魔法を見せながら話してくれた。
ユウとマイは今までの全ての価値観や常識がひっくり返され、まるで違う世界に来てしまったんじゃないかとでも言いたそうな表情を浮かべた。そんな中でもユウは内容を噛み砕き理解し、質問を投げかける。
「魔力や魔法の原理や、特異体質はなんとなくわかりました。でもあの村はどんな結界が何の為に張ってあったんでしょうか。」
「おそらくだが。魔力の制御を狂わし、魔力を外に出さない結界。そして媒介は龍神の石像だ。目的は村人に魔法を行使させない事、魔法という存在を薄めること。何より魔力の無駄遣いをさせず、より多くの魔力を吸収する為だと考えている。」
流石のユウも、事態が読めてきた。
「では誰かしらが結界を張り、石像を媒介に魔力を吸収し何か企んでいる・・・。それはおそらく・・・龍神様って事ですか?」
「そうだ。自分を龍神だと名乗り各地の村や町に石像を立て、そこに住む人たちを洗脳状態にし信仰させ、年に一度の祝龍祭。祈りの儀式で人々の魔力と結界内に溜まった魔力を吸収している。」
そこに、ずっと話を聞いているだけだったマイが「あのぉ〜」と弱々しく手をあげ話に入る。
「なぜギョウさんは龍神様に関してそんなに詳しいのでしょうか。それに明らかに祝龍祭を狙ってこの町に来たとしか思えなくて・・・。」
ギョウさんはしばらく俯き、一息ついて険しい表情で語る。
「俺たちは反龍神組織なのさ。そして厄介なことに祝龍祭の祈りの儀式の際にしか石像は破壊できない。だから今日、オルト村の石像を破壊しに来たってわけさ。」
想像を遥かに超える。ギョウさん達は神と戦っている。その理由や真意を知りたかったが、ユウは聞けずに目的地までもう目の前のところまで来ていた。
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「と、歩き話はここで終わりだ。ついたぞ!我々の簡易拠点に!」
目の前には焚き火、その周りを複数の簡易的なテントが囲むように立っていた。よくみると焚き火の近くに、耳の長い女性と男性の二人がいた。その二人も気付いたのか、こちらに駆け寄ってくる。
「ギョウ!戻ってきたということは作戦は成功か!・・・ってその人間二人はなんだ。」
明るく生き生きとした顔をしていた耳の長い男性は、僕達を見ると険しい表情になった。
「作戦はほぼ完遂したさ!後のことはヴァイストに任せてきた。それにこの二人は俺の友達さ!」
「まあ!小さなお友達さんなのね!可愛いわぁ♡」
耳の長い女性は、マイをみると駆け寄ってきてムギュッと抱きしめてきた。耳の長い男性は、はあ、と大きなため息をつくとやれやれと言った顔でこちらを向く。
「俺はメントゥス。こっちの女はコーラス。エルフ族だ。小さきお友達の名前は?」
「ユウと言います。こっちは妹のマイです。」
自己紹介を済ませた僕達に、ギョウはニヤニヤしながら僕達の肩を掴み、言った。
「なあ、ユウとマイ。魔法・・・使ってみたくないか?」
その提案に二人はノータイムでタイミングバッチリに目を輝かせながら、勢いよく返事をする。
「使ってみたいです!!!」
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「まず基本を教える。魔法っていうのは自分の想像を具現化させる。そのイメージをまずは強く持つ。そして体の魔力でそれを練る。ただ、それだけだとイメージを具現化しただけになってしまう。具現化できたら次はそのイメージに命令を与えるんだ。まずは誰でも使える4大元素の炎をイメージしてやってみてくれ。」
実際にやってみる二人。思いのほか魔力からの具現化はうまくいったが、命令を与えるのに苦戦するユウ。その横で最も簡単に炎を動かすマイ。
「二人とも筋はいい!特にマイ!初めてでこんなに自由に魔法を扱える人を俺は初めてみた!」
マイには圧倒的魔法の才があったらしい。凄いなと思いつつもユウは少しだけ嫉妬していた。
「基本はこれだが、魔法には無限の可能性がある。イメージの数だけ魔法があるんだ。できないと思えばできないし、できると思えばできる。精神力の強さが魔法の才に直結するのさ!」
無限の可能性。その言葉にユウは惹かれていたが、それ以上にマイは魔法に魅入られていた。
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魔法講座も終わり、僕達がテントに戻ると真剣な話があると、ギョウさんのテントに呼ばれた。
「二人ともよく聞いてくれ。これからについてだ。正直今二人をずっと同行させるのは危険だし、うちの組織もそんな余裕はないんだ。だからと言って見殺しにもするつもりはない。おそらくもう間も無くヴァイスト達作戦執行の本隊が帰ってくるはずだ。そうしたら次の目的地に向かってすぐに出発する。目的地はカラバリの町と言うところなのだが着くまでに一週間程度かかる。その間のみ二人には同行してもらい、生き抜く術を教え込む。」
「そんな・・・。どうしてもダメなんですか。僕達が組織に入るのは!」
ギョウさんと離れたくない。一緒にいたいという思うのは13歳の少女と15歳の少年からすれば正常な感情だった。
「正直、今の君たちでは足手まといなのさ。それにまだ若いんだ。こんな血に塗れた組織にくるべきではない。それに自由になったらやりたいことがあったから脱走しようとしたんだろう?」
その言葉で、ユウは思い出す。僕は何になりたかったのか。無意識にあの本を取り出していた。するとギョウさんが驚いた表情で僕の持つ本に駆け寄る。
「この本!なぜ君が持っているんだ!」
「ギョウさんこの本を知っているんですか!?僕はこの本に何度も救われました。」
驚いた表情だったギョウさんは僕の言葉でなぜか嬉しそうな反応をしていた。
「そうか・・・。それは良かったよ!してユウ!君は冒険者になりたいってことだな!」
「はい!この世界はまだまだ未開の土地や発見されていない生物に満ち溢れている。それをこの本で読み知った日から、それを探求する冒険者が僕の夢になったんです!」
ギョウさんは初めて出会った時のように、大きな声でそうかそうか!と笑うと僕の頭を撫でた。
「なら!なおさらこんなとこにいちゃならない!冒険ってのは最高だが命懸けだ。俺も昔は冒険者をしていたから、できるだけ知っていることは教えてあげよう!」
その後、僕達はどれほど話しただろうか。ギョウさんの冒険者としての話を聞いて目を輝かせた僕。僕達の母の話。今までどんな仕打ちを受けたのか聞いて涙を流しながら「今まで頑張ってきたな」と言ってくれたギョウさん。あっという間に時間は過ぎた。テントを開けるメントゥスの声で、僕達は現実に戻る。
「ギョウ!ヴァイストたちが帰ってきたぞ!」
ギョウさんは頷くと、外に出た。僕達もそれについていく。そこには思っていた光景とはかけ離れた。ボロボロになった本隊がいた。
極端に猫背な長身の男。ヴァイストがギョウさんの前に跪き、頭を下げた。
「お頭、奴ら前回一つ目の石像を壊されたことによって、対策を講じてました・・・!石像の破壊はできたものの、多数の犠牲や怪我人を出してしまい申し訳ございません・・・!」
剥き出しの怒りを顔に出すギョウさん。初めてみるその顔に僕達のみでなく、組織の人ですら、動くことも話すこともできなかった。
最近ユウマイのイラストをいつか描きたくて、アプリ入れたはいいものの。うまくいかず苦戦しておりますTT
ちなみに4大元素は炎・水・風・土です!