解放
序盤の盛り上がりポイントです^^
「次はあの村でいいんだよな?お頭。」
「ああ。作戦は3日後。祝龍祭の時に決行する。準備を怠るな」
大柄の男と、極度に猫背な長身の男。暗闇の中蠢く彼らは何者なのか。
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「作戦の決行は3日後だ!」
そう勢いよくマイに向かって指を三本立てて言葉を発するのはユウ
「この日は、年に一度の村の行事。祝龍祭がある!そこが一番ダストの目を欺ける。正直真っ向から向かって勝てる気はしないし。何よりこの奴隷の紋章がある限り満に一つ勝ち目もない。」
「奴隷の紋章」これは奴隷契約をした相手に植え付けられる。これがついている限り奴隷は主人を傷つけたりする事はできない。
「取れる方法は隠れて逃げ出し、ダストに見つからない場所に逃げるしかない。」
そう言うユウにマイは少し困り顔で問いかける
「でも、村の人にバレたらすぐに捕まってしまいます・・・。いくら祝龍祭で村の人が出払っているとはいえ、誰にもバレずに逃げるなんて可能なんでしょうか・・・。」
「可能・・・だと思う。マイは祝龍祭の時家にいたから見てないと思うけど、僕は一度だけ連れて行かれたことがある。龍神様にお祈りを捧げる儀式が5分間だけあるんだ。その時は村の人はみんな中央の石像のところに集まって祈りを捧げてた。」
昔母が死んだ年のこと。奴隷だろうとこの村で身近な人が不幸にあった場合次の祝龍祭で、祈りを捧げなければ大いなる厄災が降りかかるという伝承がある。ダストは僕に降りかかる大いなる厄災に巻き込まれたくないから、一緒に連れていき僕にお祈りさせた。
「なるほどです。兄様!すごいです!」
妹の素直でキラキラと見つめてくる瞳に少し照れながら話を続ける。
「とにかく。ダストに気づかれたら終わりだ。僕は森に行く時に、見つかりにくそうな脱走ルートを探しておくよ。マイはダストに違和感を持たれないように過ごしていてくれ。」
マイは目を輝かせ、首を勢いよく縦に二回振った。決行日までの3日間。おそらく僕は祝龍祭で使う薪を集めるため、毎日森に行ける。そこでしっかりと作戦を練ろう!そう考えていたユウの思惑はすぐに打ち砕かれる。
「お前、今日から祝龍祭まで準備の方に行くからな」
次の日、ダストからそう告げられる。祝龍祭の準備が少し遅れているらしく奴隷の手も借りたいのだそうだ。
「は、はい。わかりました。」
(やばいやばい!なんでこのタイミングでなんだ!)
心の中で焦るユウ。その焦りを顔に出さないようその日の作業を終えボロい倉庫に戻る。とりあえず落ち着こうと一冊の本を取り出す。
「兄様。その本が好きですよね」
熱中して本を読んでいると、いつの間にかマイも倉庫に戻ってきていた。
「この本を読んでいるときは現実を忘れられるんだ。それに、この本は僕の夢だから・・・。」
この本は母さんが持っていた本だ。「冒険記録」作者の名前はG・Gと書いてある。作者が実際に冒険者として世界を回り自分の感じた事やこの世界の美しさを書き収めた本だ。この本に出会った時僕は言い表せないほどの感動した。そしていつか僕も冒険者になりたいと夢見る様になった。
「マイ、森でのルートの確保が難しくなった。正直脱走が成功する確率はかなり低くなったと思う。逃げる覚悟は揺らいでないか?」
そうマイに問いかけるユウだが一切の迷いが無い目をしたマイは自分の胸の内を語りだす。
「正直、私は兄様に逃げようと言って貰えるまでは死んだ同然。兄様やダスト様に生かされる人形のように生きてきました。いつ死んでもいい。私なんていてもいなくても同じだって。でも楽しそうに話す兄様を見て、自分の胸にもまだ笑うって感情があるんだなって。こんな楽しそうな兄様をもっと見てたいな。兄様と生きたいなって思ったんです。だから迷いなんてありません。ここで何もせず生きるくらいなら、兄様と一緒に逃げて、悔いなく最後を迎えたいです。」
ユウは、マイの覚悟を聞き少しの間言葉が何も出てこなかった。マイは弱く僕が助けてあげないと、ずっとそう思っていた。だが目の前には僕の知るマイはいなかった。
「ごめん。マイはもう強くなったんだな。」
「いえ!マイはまだ弱いので兄様に守ってもらわないとです!」
何故か得意そうにそう言うマイ。ユウとマイお互いの目が合い同時に笑い出す。少しして笑い声が収まり、ユウが口を開く。
「ありがとうマイ。覚悟が足りなかったのは僕の方だった。もう時間はないけど、できるだけ考えてみるよ!」
そこからはあっという間だった。僕もマイもダストに勘付かれないよういつも通りを演じ、その日の朝に目が覚める。横にはすでに起き、母さんの形見のネックレスに祈りを捧げるマイがいた。
「おはようマイ。寝れなかったのか?」
「おはようございます兄様。緊張とワクワクで寝れませんでした。」
そうニコニコしながらも寝不足な顔をしているマイの手は、少しだけ震えていた。程なくして今日の動きを確認する二人。
「猶予時間は、ダストが家を開ける昼頃からこの祝龍祭の最後の儀式であるお祈りが終わるまでの間だ。色々考えたけどやっぱり何もせずバレないように村を抜け出した方が一番見つかるまでの時間を稼げると思う。」
「そうですね。でも兄様。逃げた後の行き先は決めているのですか?脱走が成功しても森で迷ってしまっては、のたれ死んでしまいます。」
ユウは自信ありげにある物を取り出す。
「大丈夫。この本があれば!」
そうしてユウが取り出したのは「冒険記録」だった。
「?私も読んだことがありますが地図のページなんてどこにもなかったですよ?」
「表向きはね。昨日からこの不思議な現象が起き始めたんだけど、僕がこの本を持つと最初のページに地図が浮かんでくるんだ。」
そう言ってユウはマイの前でやってみせた。
「兄様これって。噂でしか聞いたことがないですが、魔法・・・ですか!?」
「僕にもわからないんだ。特に何かしてるわけでもないし・・・。」
正直わからないことだらけだったが、この地図のおかげでユウ達の脱走の成功率が確実に高まったことだけは確かだ。
「とにかく!この地図で言えば一番近いのは・・・ゲルトの町かな。まずはここを目指そう。」
目的地を決め、ユウとマイは不安と緊張。恐怖。だがそれを覆い尽くすほどの好奇心とこれから始まるであろう冒険に胸を躍らせていた。
あっという間に夜はきた。ユウ達はダストの家から食料と必要な道具を持ち、家を出た。しかし夢はすぐに覚めた。
「おいおい。何してんだよお前ら。」
祝龍祭で最後の儀式に参加しているはずのダストの姿がそこにはあった。
「なんで・・!あなたは祝龍祭で中央にいるはずだろ!」
ユウは絶望し、その場に膝をつく。
「ああ、本来はな。お前ら最近変すぎたんだよ。それでバレない様に倉庫に行ってみたら案の定面白そうなこと企んでんじゃん。」
ダストは気付いていたんだ。ユウは感情のままに言い返す。
「ならなんでその時に僕らを殺さなかった!」
そんなことは聞かなくても本当はわかっていた。何故なら奴は「ダスト」なのだから。
「そんなの!泳がせといて、本当にできるかも!脱走して自由になれるかも!って勘違いさせて、お前らのその絶望した表情が見たかったからに決まってんだろうが!はっはっはっは!」
ダストのゲスい笑い声が、僕たち以外誰もいないこの場所に響き渡る。
「まあでも流石に今回のことは許せないなぁ。お前ら二人とも、もういらねぇや。」
ダストは腰の剣を抜く。ああ。最初っからやっぱり夢を見るなんて間違っていたんだ。ギョウさんも言っていたのに。何かをすればそれが最悪の結果になるかもしれないって。
そんなことばかり頭を回るユウの体を、小さい体が包み込む。
「兄様。私は後悔していません。兄様と少しでも夢を見れたこと。マイは幸せに思います。それに兄様と一緒なら後悔はありません。」
マイは優しい声で僕に語りかけた。ユウはニコッと少しだけ微笑み覚悟を決めた。
「ユウ、君の選択は間違ってなんかいなかったさ!」
聞き覚えのある声がした。覚悟を決め目を瞑っていたユウとマイの前に大柄の獣人が立っていた。
「ギョウ・・・さん?」
「おう!無事でいてくれてよかった!」
振り返り笑顔でそう言った獣人は紛れもなくあの日出会ったギョウさんだった。
「なんでギョウさんがここに?僕たちを助けにきたってわけじゃないんだよね?」
ユウは内心驚きと困惑でいっぱいだったが、その全てを押し殺し冷静に問いかける。
「助けにきた!!ってカッコよく言いたいところではあるが。実は元々この村には別の事をしにきたんだ。」
そう語るギョウさんの背後から斬りかかろうとするダスト。それをいとも簡単に受け止めるギョウさん。
「なんなんだテメェ!そいつらは俺の奴隷だ!勝手に救おうとしてんじゃねえよ!」
「生憎、この子は僕の友人でね。助けないわけにはいかないのだよ。」
ダストも普通の人より2回りぐらい大きくパワーもとんでもないはずだが、ギョウさんはダストの胸ぐらを掴むと、軽々投げ飛ばす。
「二人ともこっちだ!着いてきなさい!」
そう言うギョウさんの後ろをユウとマイはついて行こうとした。その時奴隷の紋章がある背中に激痛が走る。二人は悶え苦しむ。
「おいおい。奴隷がご主人様の言うこと聞けねぇなんて。ダメじゃねぇかぁ!」
吹き飛ばされたダストが立ち上がり、雄叫びの様な大声で怒鳴る。
「奴隷ごときがぁ!ご主人である俺から逃げて良いわけがねぇだろうがよぉ!」
怒り狂うダスト、苦しむユウとマイを見てギョウさんは一息付き言葉を発する。
「ご主人とやら。奴隷契約をしていると言うことは、もちろんあれもご存じなんでしょうな。」
「なんだよあれって!奴隷は奴隷!俺が手放すか死なない限り、一生俺の従順な下僕なんだよ!」
ギョウさんは、ニヤリと笑った気がした。
「そうか。知らないのか。じゃあ冥土の土産に教えてやろうじゃあないか!」
その瞬間、ユウとマイの下に魔法陣が現れる。
「ユウ、妹の名はなんという。」
「・・・マイ!」
「そうか!良い名前だな!」
そう言うとギョウさんはその魔法陣に血を垂らす。
『ユウ。マイ。我の奴隷となれ』
赤い光と共に、ギョウさんとダストをちょうど包み込む程度の大きさの結界が現れる。ユウとマイの激痛も治っていた。怒り狂っていたダストはその光景を見て困惑する。
「お、おい獣野郎!何しやがった!!」
ダストはその結界を殴る。しかし全く壊れる気配はない。
「奴隷契約の上書きだ。まあ色々難しい条件があるが、奇跡的に全て整っていた。この結界を消すにはただ一つ。契約主のどちらかが契約を破棄するか、どちらかの死のみだ」
こんなこと聞いたこともない!と言わんばかりに混乱するダストに追い打ちをかけるようにギョウさんは言う。
「さあ、説明はしたぞ。契約を解いてくれれば殺したりはしない。」
「ふざけるな!お前を殺せばいいだけの話だろうが!」
諦める気のないダストに、ギョウさんは大きなため息をつき腰の剣を抜き構えをとる。
「本当は無駄な犠牲は出したくないんだが。仕方ない。」
決着は一瞬だった。地面を踏み込んだギョウさんはとんでもないスピードでダストに突撃し首を斬り捨てた。ユウはその残酷なはずの美しい光景に、その強さに見惚れていた。
決着後結界は消え去り、ギョウさんは剣についた血を拭き取りながらユウの元へ戻ってきた。
「すまない。君達を救うためとはいえ、残酷な光景を見せてしまったね。あ、それに俺が結んだ奴隷契約はもう破棄しておいたから!」
ユウとマイはすぐさまお互いに紋章を確認しあった。
「兄様・・・!本当に紋章が消えてます!」
「本当に・・・解放されたんだ・・・。」
確認し合い、色々な感情が渦巻く二人に対しギョウさんは目線を低くして僕たちに語りかける。
「良かったな。ユウ、マイ、これで君たちは・・・自由だ!」
僕とマイはその言葉と同時に感情が溢れ出しお互い抱きしめ合って泣き叫んだ。そんな僕たちをギョウさんはふかふかで大きな体で包み込む。
祝龍祭とは、今から70年前。この村をお救いになったとされている龍神様を祀る行事です。
ちなみにダストは、村長の息子です。
ユウとマイは本当の兄弟ではないです。
ここからファンタジー感マシマシになっていくのでお楽しみあれ!
ちなみにこの世界には5種族いるよ(ボソッ