運命
2作目はファンタジー系!
いい作品ができそうと我ながら思ってます!
<この世界は一度の人生じゃ堪能しきれないほど広く美しい。冒険者はまだ見ぬ生物や景色を求め探求するものである>
<この世界には英雄がいる。恐怖に怯える人々を等しく救い出す>
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おい!さっさと歩けこのノロマが!誰のおかげで生きていけてると思ってるんだ!」
怒号が響く。だがこんなのは日常茶飯事だ。僕達みたいな奴隷なんかに価値なんて無い。
最近はいつも同じ夢を見る。
「大丈夫。大丈夫だからね。きっといつか英雄様が現れて助けて下さるのよ・・・」
5年前。泣きながら毎晩僕にそう言った母は、程なくして死んだ。過労じゃない。ご主人様であるダストに痛ぶられる僕を庇い、打ちどころ悪くそのまま死んでいった。
齢10歳にして生きていくためには、ダストに従順に生きていくしか僕たちには道がない、英雄なんかいないと知る。
(バンっ!)
「おい!いつまで寝てんだ!さっさと森から薪取ってこい!」
いつもの様に勢いよく扉を開ける音とこの声で起きる。20秒以内に準備をしこのボロい倉庫を出ないと、ギリギリ歩ける程度に殴り蹴られる。何度も何度もやられた。今では10秒あれば準備できる。
「す、すみません。準備できたので行きます・・・。」
「ああ。あと逃げたらどうなるか。わかってんだろうな?」
大きな体に獣のような鋭い目。背筋がゾッとするような威圧。僕が一人で外に行くときは必ずこの言葉を放つ。
僕には2つ下の妹がいる。だが妹は生まれつき体が弱く、家事などの方面で働かされている。なので奴は遠回しに「逃げたら妹を殺す」と言っているのだろう。
僕はコクリと首を縦に振り、今日も森に行く。そうだ。こうしていれば僕らは生きていられる。クソみたいな人生だって死んだら可能性はそこで終わる。
「はあ、それにしてもなんで最近お母の夢ばっか見るんだ。僕は死なない。絶対マイの為に生き続けて。いつかあいつのところから逃げ出して!いっぱしの冒険者になって!この世界を探求するんだ!」
森では誰にも聞かれない。ここでぐらい本音を漏らしたっていいじゃないかと言わんばかりに、叫ぶ。しかしすぐにあの言葉と威圧が僕に恐怖を思い出させる。
「夢見るのは、僕の自由だし。」
先ほどとは打って変わって、弱々しい声で呟く。そうして薪をいつもの様に集めていた。すると右側で物陰から音がした。そこには大きな生き物の影があった。
(もしかして魔獣!?ここら辺には生息しないって言ってたのに!まずいまずい!早く逃げないと)
薪を投げ捨て、どこに向かうかも決めず走り出す。その魔獣は何とも奇妙に二足歩行で雄叫びを上げながら、しかもとんでも無いスピードで追いかけてきた。
僕はすぐに捕まり、死を覚悟し目を瞑った。・・・しかしなかなかそのときは来ない。その代わり、大きな笑い声が聞こえてきた。
「はっはっはっは!ごめんごめん!俺のこと見て魔獣だと勘違いして逃げる少年が面白くて!つい脅かしちゃったよ!」
恐る恐る目を開けると、そこには大柄の獣人がいた。覆いかぶさった体を起こし、手を差し伸べる。
「俺はギョウだ。少年の名前は?」
初めてみる獣人に戸惑いながらも、僕はこの人は悪い人じゃないと根拠もないけどそう感じた。この出会いが、僕の人生の分岐点となる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「僕の名前は・・・ユウです。」
自分の名前なんて久々に聞かれたのと、獣の顔で話すギョウに困惑し返事が遅れる。震えながらゆっくり差し出した手を、ギョウは勢いよく掴むと、ヒョイっと僕の体を持ち上げる。
「そうか!少年の名前はユウというのだな!して、どこからきたんだ?」
「オルト村から・・・。薪をとりに」
ギョウは一瞬険しい表情になり、重たそうに口を開く
「ユウは、もしかして奴隷か?」
ああ、そうだよな。奴隷なんかと関わったらろくなことにならない。僕は他の村、いや世界を見たことはないが、きっとどこでも同じなんだろう。
そう勝手に考え込み僕は俯く。すると横からギョウさんはあたふたしながら話した。
「い、いや!すまない!別に奴隷だから何かしようだとか!そういうのじぁ!ああ!舌を噛んでしまったぁあ!」
大きな体に見合わない、そのあたふたした仕草と表情と声に笑みが溢れる。
笑みが出た自分に僕は驚く。こんなふうに笑ったのなんていつぶりだろう。
笑いと共に涙が溢れる。そんな僕をギョウは抱きしめた。
ーーーー
「・・・ごめんなさい。もう大丈夫です。そろそろ薪を持って帰らないと」
泣き止んだ僕は、先ほど落としてしまった薪を拾い直す。
「ユウ、今は辛いだろうが諦めたらそこで可能性は終わる。何をしても無駄かもしれない。何かをしたことによって最悪の結末になる事もあるだろう。だが何もせず一生奴隷のままでいいのか?人生は勝手には変わらない。変えようとした者しか変えられないんだ。」
ギョウは、険しいながらも優しい表情で僕にそう語った。
「そう・・・かもしれませんね。」
きっとそうなんだろうとわかっていても。僕は怖い。妹のマイを失うのが。僕は怖い。何かをする事によって母の様に何も成せず終わってしまうのが。英雄なんていないとわかっていても、心のどこかで、いつか誰かが・・・なんて考えてしまう。
そんな感情をギョウさんに見せないため、偽の笑顔を最大限作りギョウに向ける
「ありがとうギョウさん!久々に笑えましたし、泣きました。これでまた明日からの日々を生き抜いていけそうです!ギョウさんもどうかご無事で!」
ギョウさんが何者なのか、何をしている「人」なのか分からないが今ギョウさんの顔を見たら縋って助けを求めてしまう気がした。僕は走ってその場を離れた。ギョウさんは追っては来なかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
程なくして村に着いた。いつもより帰りが遅れてしまったため今のうちに殴られる準備をしだす。家にたどり着き一息ついてからノックし扉を開ける。
そこには何度か殴られたマイと怒るダストがいた。
「何してるんですか・・・!」
僕は薪を丁寧に置きマイの元へ駆け寄る。
「大丈夫か!僕のせいでごめん・・・。」
「大丈夫です。兄様。私は平気ですから」
妹には安心したのか、眠りについた。そしてダストに視線を向ける
「まずは遅れてしまったこと、申し訳ございません。ですが、マイには手を出さない約束ですよね。僕はいくらでも殴っていただいて結構です。」
「奴隷ごときが口答えしてんじゃねえ!」
そういうとダストは僕を気が済むまで痛めつけた。
「次、遅くなったりしたらお前ら二人とも終わりだと思えよ」
捨て台詞を吐き外に出ていったダスト。僕はマイを連れてあのボロい倉庫に戻る。
薄暗い部屋で、寝転びながら今日の出来事を何度も思い出していた。すると横からか弱い声が聞こえる。
「兄様。今日何があったんですか?」
「起きたのか・・・少し迷子になっただけだよ。」
そう答えると、何も言わずじっと僕を見つめるマイ。
・・・・・
「はあ、奇妙な出会いをしたんだ・・・」
今日あったことを、マイに全ては話した。思いのほか僕はノリノリで話していたらしくそれに気づいたのは横からマイの笑い声が聞こえたときだった。
「兄様のこんな生き生き話す姿、マイ久々に見ました。」
マイが笑っている。僕だってマイの笑う姿を久々に見て困惑した。少し静寂が続いたが僕の口は勝手にマイに語りかけていた。
「なあ、マイ。僕たちずっとこんな生活なのかな。今までは、いつかこんなとこから逃げ出して。冒険者になりたいって夢だけ持って・・・。でも夢は夢。現実はそんな優しくないって。でもギョウさんにあって気付かされた。いつでも逃げれたのに、自分が何かをしてマイを失うのが怖くて、誰かの助けをただ待ってる僕に」
マイの顔を見ると、涙を流し僕のことを見つめていた。きっとこの言葉をマイはずっと待っていたのかもしれないしそんなことないかもしれないが、マイのその反応が僕の背中を押す。
「マイ、ここから逃げ出そう」
「・・・はい!」
ギョウ。好き。