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節分の怒りと鳩

「………………はぁ」


いつもならば、生徒会室にて書類を裁いているであろう放課後に私、風夜凛はため息をつきながら校舎を徘徊していた。


(なんで十分やそこら遅れた程度であんな惨状に……)


思いを馳せるのは、先ほどの生徒会室の惨状だ。踏み散らかされ割られてボロボロになった豆の数々、絨毯に絡みつく塵芥。あんな様子ではまともに生徒会室も使えない。


(鬼に豆を投げるだけのイベントの何が楽しいのでしょうか?)


色々と娯楽を制限されてきた立場であるが、学園祭を皆が楽しむ気持ちもわかる。趣味に打ち込む気持ちもわかる。だが豆を撒く何が楽しいのかは、私にとって未知の領域だった。


一条庶務曰く北部の祭事だという「節分」。


今日がその日らしく、少し遅れて生徒会室に行った私を除く四名は祭事の内容に則り豆まきをしていた。

なんでも、北部に伝わる鬼という魔物の苦手な豆を撒き、追い払うらしく、家に溜まる厄を払う目的があるらしい。だから豆まきは「鬼は外、福は内」と言って豆を撒くそうだ。


…………まぁ、と言っても先程の部屋でその祭事の内容をある程度なぞらえてその言葉を唱えていたのは月乃会計くらいなものであり、他三名は峰副会長を鬼役とした合戦に明け暮れていたわけだが。

何を楽しく思うか、その感性にケチをつける気はないが、豆まきの被害についてはもう少し頭を回して欲しかったと思うところである。


そんな経緯があり、現在凄惨な状況となっている生徒会室を復旧すべく四名の生徒会役員は生徒会室の掃除に明け暮れ、私はその待ち時間の間「お詫びの品」と称されこの悪夢の元凶である豆と恵方巻きなるものを渡され、学校を彷徨(うろつ)いている。

これを渡してきた一条庶務のことだから食いもん食って腹の虫を落ち着けろとか、そういうことなのだろう。 


おむすびのよう……と言っても形は円柱状だが、まとめられたお米の中に、野菜を中心とした色々な具が詰まっている恵方巻き。

私の手元にあるその料理も節分の中の一つの慣例でその年のいい方角を向いて無言で食べるらしい。


北部などの料理はユールとかなり違った形状をしているが、完全に異国のものという感じもせず、保存のきく米はユールでも見かけるし、頻度こそ多くはないものの、食べることもたまにある。

後本来、恵方巻きはこのお米の外側に海苔が巻いてあるらしいが、海苔は慣れていない人には消化が難しいようでこの白米のみの方を渡された。


こんな惨劇を起こした大元の節分に喜んであやかるつもりはないが、北部の文化や食べたことのない料理が食べたいかと言われたらそれは否定できなくなる。

ましてや今の時間は家の者達も私が生徒会室にいると思っているため誰にも見られることもなければ止められることもない、思わぬところから降って沸いた自由時間だった。


「……あ」


なんとなく人がいない道を通り、静かなところを求めて歩いていたが、気づけば生徒会室の真下にある裏庭まで降りてきていた。

普段全く立ち入ることのない場所だったが、木が生い茂り、ベンチがぽつんとあるだけのその場所は今まさに私が求めていた条件に当てはまる最高の場所だった。


包みを持ったまま、ふらふらとベンチまで行って腰を下ろしては静かに恵方巻きを頬張る。


(豆をまくよりも私にはこうして静かにしている方が性に合うんでしょう)


元々騒がしいことが好きな方ではないと、自分でも自覚はしている。しかし、生徒会室のあの空気を嫌いとは言わない。もう少し落ち着いてくれてもいいとは思うが、最近ではそれも含めてあの生徒会なのかもしれない、と思うくらいには私もあの空間に適応してきたように感じる。


そんなことを考え、恵方巻きを食べ切ると不意に豆のそばで鳩がこちらを伺っていることに気づいた。


「貴方も食べますか?」


私の言葉などわかりもしないだろうが、鳩はふるふる尾を振っていた。


「…………私一人では食べきれませんからいいですよ。分けましょう」


二、三粒豆を取り、鳩の近くに巻いてやると一目散に駆けていって豆を啄みだした。少しずつひびが入り豆が欠けてはその破片を食べる。ある豆は一気に割って、一気に食べる。


そんな、何げない動作だが鳩の気ままさは、見ていて少し面白いと思った。健気で、なんだか愛着が湧く。

先程まで少し憎いと思った豆だが、こんな風に鳥が食べているのを見ているだけで、豆も節分も、まぁいいかと思えてしまうのが不思議である。


こんなことを思ったり、鳥に話しかけ出してしまったあたり、適応というよりは染まってきてしまったのかもしれないとも少しだけ思う。


きっと、許されはしない。


でも、捨てるのも惜しいと思ってしまったのだ。


相反する二つに、板挟みになりながらも私はまだどうにかなる。現状、なっていると勝手に思っている。


「…………そんなに豆が欲しいなら、またあげます」


だから、まだこのまま。出来ることならずっとこのまま、許されずとも白線ぎりぎりの線上を歩いていたい。


* * *


翌日以降も偶然の自由時間が毎日出来るはずもなく、鳩に豆をあげる約束は豆まきしたものの処分含め、風夜凛以外の四名が当番制で裏庭に撒くことで果たした。


だが、その過程において時々、さもお目付け役かの様に当番の役員と裏庭まで行ったり、幾粒かの豆を持ちわざわざ裏庭付近の通りを使っては、落としたように豆を撒く風夜凛がいた。


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