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節分騒ぎ

「お前らー!今日は節分だぞー!!」


とある何でもない日の夕方。

珍しく私と、のあの二人が一番乗りで生徒会室に入り、色々整理をしていた頃。


「節分」とかいう訳の分からない単語を、嬉々として叫び、両手に紙袋をぶら下げながらやってきたのは一条先輩と、もう一人。


「……情報量が多すぎて、ツッコミ処理が追いつかないのでどうにかしてください」


歴戦練磨のツッコミ士、のあでさえも放り投げる情報量のその人は――


「ねー、悠里くん。流石に酷いと思うんだ、これ」


峰先輩である。


顔には妙に迫力のある黒い、険しい顔のお面。

そして、両手には……物差し。


この人をこんな扱いできる家柄も、するような性格の人も、貴族社会にはなかなかいないはずなのだ。

その二つの要素を併せ持つような人なんて、もっといないはず……いない、はず、なのに。


「お前らは鬼って知ってるか?」


妙に上機嫌な声で、歌うように問いかけた、一条先輩。


それはともかくとして、稀な気質を併せ持って生まれてきてしまったのが――そう、一条悠里先輩。


国内屈指の名家、一条家の出身でありながら、柄が悪く、人をすぐ締める。そして峰先輩でよく遊ぶ。

人の目は気にするんだか気にしないんだか分からない。

でも、とりあえず恐ろしい。

そして、峰先輩で遊ぶのが好き。


もう、ここまで来ると犬かな?とすら思う相手だが、一応人であり、峰先輩とは、運命の黒い糸で結ばれた相手。


「月乃、今妙なこと考えてなかったか?」

「……!?いやっ、別に、なんでもぉっ!!」


一条先輩は、じとっとこちらを見たかと思えば、紙袋から、峰先輩がつけているようなお面を出すと、ジリジリ詰め寄ってきた。これだから一条先輩は怖い。


そして、このお面も迫力があって、詰め寄られるとすごく怖い。


「やっぱり、なんかくだらないこと考えているような」

「いや、本当に、本当にぃっ!!」


このままでは私の精神が、擦り切れる。

何か一条先輩の気をそらせるようなものはないかと視線で探ると……救世主と目があった。


「……それで一条先輩、鬼って慣用句なんかに出てきたり、怖いものの例えなんかで使われる魔物ですよね?」

「ん?あぁ。そうだな」


のあが先ほどの話題を振ってくれたことで、一条先輩の進行が止まる。

グッジョブのあ!!と心の中で叫びながら一回拝んでおいた。仕方ないなぁとでもいうように、ふわっと微笑んでくれたのあは、本当に救世主である。


「それで……何故、その鬼の話を?」


また、先程の話題がぶり返すことのないよう、私も会話に加わる。


「まぁ待て。最後にちゃんと繋がるからまずは鬼についての補足を入れさせろ」


一条先輩は、そう呟くと、自身の顔に当てていたお面を外して、こちらに見やすいようにした。


「この角が生えて、怖い顔をしたのが、「鬼」という一条の管轄地である北部や、三文の方、更に言うならば海を渡った東の国の方で、語り継がれる魔物だ」

「へぇ〜。鬼は、こんな形の魔物なんですね。

こっちの中央の方では全く見ませんし、僕が見たことのある、図鑑なんかでも見た覚えのない魔物です」


のあが、言ったとおり、確かに私も鬼の姿は見たことがない。学校の授業なんかでも魔物についての基礎知識は習うのだが、鬼という「魔物」についての知識はなく、言葉として知っているのみだ。


「うーん。その辺、実は俺も見たことはねぇんだよ。

昔はいたらしいし、記録もあるんだが、最近の人は誰も見たことがなくて、様子と姿だけ伝承として伝えられているというか……」

「姿はないのに、語り継がれるのには、訳があるんでしょうか……?」


もう、見えなくなって久しいのに、何故語り継ぐ必要があるのか、私は疑問になった。

怖いものなら尚更、思い出したくないものではないだろうか。


「そっちについてもはっきりこれとは言えないが、俺は戒めだったり、繰り返さないようにするためじゃないかと思うな」

「それは大事ですね」


確かに、語り継ぐことで鬼に対しての記録はちゃんと残り、忘れられないままなのだろう。


(記憶とか、繋ぐものって大事だな)


記憶を失った私は、少しだけしんみりしてしまった。

でも、感傷に浸りすぎるのも良くない。


「それで、節分っていうのは何でしょうか?」


私は切り替えて、一条先輩に質問した。


「いい質問だ!さっき話した通り、鬼は怖いもので悪いものとして、こっちの地方は言い伝えられている。だから、そんな怖い鬼と共に、災いを家から追い出そうっつー行事が、あるんだ」

「追い出すのはどうやって……?」

「これだ!」


一条先輩は、紙袋から固そうなお豆の入った袋をたくさん取り出した。


「伝承によると、鬼は豆が苦手らしいってことで、家の中に豆を撒くんだが……このイベントを楽しくする工夫が一つ」


一本指を立てて、悪そうな顔をすると一条先輩は峰先輩を引きずり、こちらまで連れてきた。


「鬼役を用意して、実際に鬼に向かって豆を撒くんだ」


そう、一条先輩が高らかに宣言すると、峰先輩はお面越しでもわかる絶望を滲ませた。


* * *


「すみません、遅れました――」


私、風夜凛は遅れてしまった謝罪をしながら、生徒会室の扉を開けて、絶句する。


「ほら!鬼がそっちに逃げたぞ!!」

「今度こそ当てますよ!!」

「鬼はー外。福はー内」

「痛っ!?ねぇ、これって鬼の反撃はあり!?」


豆をばら撒きながら嬉々として峰副会長(らしき人)を追い詰める一条庶務。

それに乗っかる華道書記。

端っこでほのぼの豆を撒きながら食べている月乃会計。

反撃しようとする峰副会長(らしき人)。


そして、豆が割れて悲惨なことになった床。


『あ』


ようやっと、私が来たことに気づいたのか、床の惨状に気がついたのか、はたまた私の表情をみたのか四人は、ポツリと声を溢すと、我先にと入口へ向かってきた。


「やばいやばいやばいやばい!!」

「言い出しっぺの一条先輩!どうにかしてくださいよ!」

「私自分で撒いたやつは魔力で印つけましたしせいぜい十粒です!!これは他の三人のせいですって!!」

「僕はぶつけられる側だから、ね!?」


みんなは、入り口から外に逃げたかったのだろうか。


「……皆さん、何処に行くんですか?」


しかし、入り口は今私のいる場所である。


「ひえっ………………」


誰かが、小さく悲鳴を漏らす。

そんなに怖がることはないというのに。


「皆さん、仕事を始めましょうと私も言いたかったのですが……。この惨状の説明と片付けが今日一番の仕事になりそうですね?」

『…………はい』


私は知る由もないが、この時全員は同じことを考えていた。


風夜凛(おに)の怖さは後世に語り継ぐべきだ』と。

お豆は回収後、学園に住み着いている鳥さんたちのエサになりました。風夜先輩を除いた四人の当番制で、一ヶ月かけてあげ切ったとか。


でもたまに風夜先輩も幾つかのお豆を持っては、ひっそり鳥さんにあげてました。微笑ましい光景。

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