嘘と狂気の宴【8】
突如として会議場に現れた、この村で今生きている村民の中で最後の雷山ミア。
その人の登場に、私、月乃玲明は何となくほっとしたような感情を抱いたが、他の人が向けたのは疑念の視線だ。
「…………今まで聞いていた、っつてもな。悪いが雷山。この状況でみんな色々ピリピリしてんだ。
今の俺の目から、お前は何か怪しいようにしか見えない」
「それはそうでしょう。私も承知の上でここに来ました」
厳しい言葉を紡いだ一条さんに対しても、ミアはまっすぐ答える――どころか、こんなことまで言い出す。
「というより私は、処刑されに来たのですから、怪しまれようが何だろうがどうでもいいのです」
『…………!?』
その言葉に、全員が言葉を失う。
「…………雷山さん、何言ってるか、自分でわかってる?」
中でも一番に声を取り戻し、言葉を紡いだのは、意外なことに如月さんだった。
「勿論。私は、死ぬといっているわ」
「わかっているならなおさらなんで急に!!」
感受性の強い如月さんが、真っ先に冷静になったことに私は驚いていたが、そうではなく、如月さんは呆然とするよりも先に怒りが湧いてきたのだと、今のやり取りを聞いて感じ取った。
しかし、ミアはそんな如月さんの怒りに充てられることなく、冷静に答えを返す。
「私は、諦めて命を投げ出そうとしているわけではない。この命を、有効活用できる方法を見つけたからよ」
そう言って今度は席から立って、如月さんの方だけでなく、全体を見渡したかと思うと、自身の胸に手を当ててミアは言った。
「今日、占い師のどちらかを処刑するのはリスクが高い。だからと言ってその辺の誰かを処刑したとして、異能力者にあたる可能性。または議論の過程で、異能力者がバレることもないとは言い切れない。
それならば――――」
「――――完全に異能力者ではないと分かっている私を処刑するのも、一つの手ではありませんか?」
「……………………」
皆、口をつぐんだ。しかし、どこかから、つぶやきが漏れる。
「………………なくはない手、だよな」
「プラスにはなれませんが、確率で引くかもしれない最悪の場合を考えたら、安全では、ありますね」
徐々に、そういったつぶやきは増える。
「雷山くんが、その覚悟をしてくれているのなら……………………」
「どっちにしろ、誰か死ななくてはいけないんですからぁ、それなら覚悟が決まっている人に任せるほうが、いい気もしますねー…………」
そして。
「もう、いつの間にか日も傾いていますわ。そろそろ投票をしなくては」
時間を指摘した真夏さんのつぶやきで、その場の会議も、打ち切られた。
「…………それでは、投票を」
風夜さんの声で、各々投票箱の前へ、動き出す。
「ミア…………」
やっと、動いた口。私の口は、投票箱に向かう人の流れの中で、一人、立ったまま投票箱に向かおうとはしない、友人に声をかける。
「ミア、なんで…………」
ミアも、生き残れる道があるのではないかと、そんな希望に縋りたくなる私。しかし、ミアは首を横に振ると、言葉を紡ぐ。
「ごめんなさい。怖くなったの。友人たちの死を、もしかしたら私が見送らなきゃならなくなるかもしれないことに。
………………今朝の、死体のように、村の誰かが食い荒らされているのを見るのは、怖い」
「あ――――」
この選択は、今朝あの死体の第一発見者になってしまったミアだからこそなのかもしれない。そう気づくと、私は無性にやるせない気持ちになった。
「私だって死ぬのが怖くないわけではないけれど、でも、人の死を見ないで済むのは安心するし、この命が意味を成すのなら、それでいいとも、思うの」
そう言って、ミアは一度私を抱きしめて、言った。
「…………生きてね、玲明。きっと、生き残って」
「い、いや…………待って、待ってミア」
迷子になった幼子のように、零れる、時間稼ぎの言葉も、何をつかむことも出来ずただ彷徨った手も、そのすべてを潜り抜けて、ミアは私から離れた。
「それでは、今日の投票結果をお知らせします。
雷山ミア、六票。白票、四票。よって、今日の処刑は雷山ミアさんに、決まりました」
その言葉を聞くと同時に、ミアは会議場のさらに奥にある扉、そしてその部屋へと、ミアは歩き出した。
その背を黙って見送ることなんてできず、私は何度も何度もミアの名前を呼んだ。
けれど、もう、私のかける言葉はミアには届いていないようだった。
思わずミアの元へ動き出そうとした私。
しかし、私のもう反対側の席に座っていた幼馴染に、肩をつかまれる。
「……れい。ミアの覚悟を無駄にしちゃいけない。僕らに、それを……止められる権利はない。
れいに出来るのは、その命をつないで、人狼を滅し、生き残ることだけだ」
「のあっ…………」
私と同じくらいに泣きそうで、苦しそうなのあの声を受けて、私はもう、動くことも声をかけることも、出来なくなってしまった。
そして、私の嗚咽が響くとともに、扉の開く音がした。
あぁ、本当に言行ってしまう。
やり場のないそんな思いを抱えたまま、ミアの方を向けば――
「またね」
声には出さず、口だけを動かして、そう笑ったミアが、扉の奥に消えていった。




