嘘と狂気の宴【7】
会議の開始を告げた――その口のまま、風夜さんは私、月乃玲明や他の村民に向けて自分の意見を伝える。
「誰が人狼か、それを探るための一手として、まずは異能力者に名乗りを上げていただくのが一番ではないでしょうか?まだ手探り状態で進めなくてはいけない初日の会議も、それがわかるだけで幾つか心持ちは違うかと」
風夜さん以外は口を開かない沈黙の中、その声はよく響いた。
「…………私は、反対します」
しかし、一拍置いて反論の声が上がる。
「それだと、狼は異能力者を狙って食べに行ってしまうのではないでしょうか?この段階で名乗りを上げさせるのはまだ早いと思います」
反論の声を挙げたのは、白杜留紀さん。
異能力者を挙げさせることは、道標にもなり得るが、同時に危険性も多いと反論をした。
「えぇ。それは承知の上です。流石に全ての異能力者を挙げてしまい、その身の内を明かして仕舞えば人間側が不利になることは火を見るより明らか。
……ですので私は占い師か、霊媒師のどちらかに名乗りを上げていただくのがいいかと」
だが、反論の声を受けても風夜さんは主張を変えない。
「……なぜ、そんなに異能力者を明らかにした方がいいと思うのでしょうか?」
風夜さんは、どういう思惑なのだろうか、と少し疑念を抱きながら、私は尋ねてみる。
「すみません、こんなに強引に言っても怪しまれてしまうだけですね。
ただ、占い師か霊媒師が名乗りを上げれば、騎士の人が守りやすいですし、知らない間に異能力者を失ってしまうという恐ろしい状況は潰せるかと思いまして」
「確かに、それはそうかもしれませんね…………」
初め、この主張を強く押し出し始めた風夜さんの思惑は何なのだろう、と疑ってかかってしまったが、ちゃんとその内容を聞いてみると、その主張は本当にその通りだった。
「そういうことでしたら、一つの異能力者には名乗りを上げていただいた方がいいように思いますね」
先ほどまで反対という意見だったが、この話を聞いて考えが変わったようであった。
「他の皆さんはどうでしょうか?」
今まで議論をしていた私たちは賛成側についたが、他のみんなはどうだ、と風夜さんが問いかける。
「僕も、それでいいと思うよ」
「あぁ、俺も」
真っ先に反応を示したのは峰さん、そして一条さん。
「僕も賛成」
「私もそれでいいと思いますぅ。そっちの方が安心ですしね~」
「……僕もそれで」
「わたくしも」
続けてのあ、ライ、如月さん、淡海さん、と賛同の声が続き、この場にいる全員が賛同を示したところで、風夜さんが話を進めた。
「それならば、占い師の方に名乗りを上げていただきましょう。
正直、占い師と霊媒師、どちらを指名してもいいとは思うのですがとりあえず……」
どなたか、占い師の方は名乗りを上げてください。という風夜さんの声に合わせて、すっと小さく手を挙げたのは淡海さん。
「わたくしが占い師ですわ」
そして静かに自分が占い師である、と名乗りを上げた。
「先ほど、鐘の音と同時にわたくしの体にほとばしる力に気が付きましたの。
誰かの正体を見ることが出来るような、見透かせるようなそんな力……これは、占い師の力だ、直感で感じ取りましたわ」
ひとしきり、話しきったところで、会議場は沈黙に包まれる。
皆、淡海さんが占い師か、と安心するような視線。しかし――――
「…………それは、おかしいと思います」
「……何を言いますの?月乃さん」
ぽつりと否定の言葉を発した私に、淡海さん他、村民の大半が訝しげな顔をして、私を見た。
しかし、そんな視線を受けながら、私は言う。
「どんなに淡海さんが占い師と言おうが、私はそれをおかしいというほかないんです。…………占い師が、この村に一人しか現れない限り」
まさか、と皆の顔が、驚きに染まる。
「私も名乗りを上げさせていただきましょう。――私こそが、占い師です」
私からの突然の告白に、皆が驚き、如月さんがぽつりとつぶやきを零した。
「なんで占い師が二人もいることに……?」
「……十中八九どちらかが狂人なんだと思う」
その声に反応を返したのはのあ。
「なんだっけ、あの人間でありながら、人狼に味方して僕らを欺こうとしている…………」
「そう、それが狂人。まず人間側の他の異能力者や、普通の村民が占い師を騙る理由はないし、人狼や狐は、目立つ行動をすると相手方の占い師から占われる可能性が高くなり、狐に限っては死ぬリスクもある。
……となると、こうして大胆に占い師を騙れるのは狂人くらいになると思う」
偽占い師の正体についてを考えてみると確かにその可能性が一番高い気がする。
「…………となるとどうしましょうか。私が淡海さんを占っても得られるものは何もありませんよね」
「こちらから見ても同じことですわ、月乃さん」
私から見たら偽の占い師は淡海さんという他ないのだが、この存在をどうかたずければいいのかの判断は難しい。
「…………どちらが怪しいかを議論して、今日の処刑を決める?」
少し言いづらそうにしていたが、白杜さんがそうつぶやく。
「処刑」その言葉に、みんな現実に引き戻されたような、はっとした痛そうな顔をした。
かくいう私もその一人だろう。
「……いや、今日そこについての議論をするのはやめた方がいいと思う。
間違えて本物を処刑してしまった時のリスクがあまりに大きい」
「なら、だれにするんだよ。この二人を除いてこの七人の中で、処刑をするにしても、間違えて異能力者を処刑することになる可能性だってなくはない」
一条さんと峰さんで、今日の処刑対象に関しての議論を始めだす。
勿論、そちらの内容についても、重要なことではあるし、気になることには気になるのだが――――
「そういえば、ミアを呼ばないまま、議論を始めて………………」
私はどうしても、この場にかけている一人のことが気になった。
「待てよ。もしや雷山が本当の占い師である可能性もなくはない……?」
「さすがにそんなことは…………」
まさかまさかの可能性に戦慄しだす一条さんとのあ。しかし――――
「大丈夫です。私は、ただの村民。
何の異能力にも目覚めなかったただの一市民ですから」
それは杞憂だ、と声の主は主張をしながら、会議場に足を踏み入れる。
「申し訳ありません。、だいぶ前から聞いてはおり、今回の件がどういうものなのかも把握もしてはいましたが、入るタイミングを見失っていました」
一礼して、それを伝えると、その人は、空いていた私の隣の席に座った。
「ミア…………」
「玲明、ごめんなさい。朝は取り乱したわ。そして、家まで送ってくれてありがとう。もう大丈夫よ」
私にだけ聞こえるような小声で微笑みつつそうお礼をつたえると、私の隣に座ったその人――雷山ミアは、妙に覚悟を決めたような顔をして前を向いた。
…………それが、私にとっては妙に引っかかったのだが、その答えは、私が聞かずとも直ぐにもたらされることとなる。




