嘘と狂気の宴【6】
気紛れ、気分屋で、傍迷惑な存在。
峰さんは、狐という異能力者をそう評した。
「……狐は、決着を見たら興味をなくすんだよな?」
狐についての説明を聞いた一条さんは、峰さんにそう問いかける。
「はい。「決着を見届けたら」興味を失います」
「…………それなら、狐が決着を見届ける前に、狐も処刑をする他ないんじゃないか?」
厄介な狐という存在の対処法について、一条先輩が提案をすると、峰さんは頷く。
「そうですね。それも一つの方法です」
「……一つということは他の方法もありますの?」
峰さんの、何かを含んだような言葉に、淡海さんが切り込んで尋ねる。
「えぇ、その通り狐には他にない――呪殺という殺害方法があります」
おどろおどろしいその言葉に、私は内容の想像がつかず、首を傾げる。
「しかし、呪殺と言っても、何か特別な行動をするわけではありません。占い師の「占い」は狐にとって悪影響であり、占い師に占われた狐は力を失い、衰弱死する。これが呪殺です」
その後、峰さんが追加で話した内容によると、狐はその存在を暴かれるのを嫌い、存在を暴く「占い」は狐の力を削ぎ、殺すのに最適な方法なのだという。
「………………質問なのですが、狐の占い結果は占い師にどう映るのでしょうか?そして先ほどから言及されていませんが、人狼が狐を食べようとした場合、どうなるのでしょうか?」
狐についての説明がひと段落ついたと思った直後、風夜さんが峰さんに質問を投げかけた。
「一つ目の質問、占い師に映る結果ですが、これは特に変わりなく「人狼」か「人狼ではない」かなので、占い師には「人狼ではない」という結果が映ります。
そして二つ目、人狼が狐を襲撃した場合ですが――」
峰さんは重々しい口調で、結論を言った。
「――それでは狐を殺すことが出来ません」
「人狼では、殺せない…………」
となると、狐は処刑か占いで殺さなくてはいけなくなるわけだが、全十名のうち、多ければ昼に一人、夜に一人と一日に二名減ってしまうことを考えると、通常通りの計算ならタイムリミットまでの日数は五日。
狐と人狼を処刑で殺すのなら四日分必要になるし、そうでなく、占いで殺さなくてはならないとなったとしても、人狼を探せるチャンスを一回失うことになるわけだから、なかなかに大きな損失。
「…………何から何まで、本当にはた迷惑な存在ですこと」
淡海さんも丁寧な口調ながら悪態をついた。
「本当、人間はなかなか不利な話だよね。最悪、二日連続で人狼を外して、その夜二回とも普通に人狼の襲撃を受けてしまえば、もう同数だし、そんななか狐も殺さないといけない、なんて。
そもそもなんでこんなことに…………」
如月さんも、仮定の話をしながら、人間側の不平等さに不満を漏らす。
「でも……それでも会議を開かなくては、ただ殺されるだけであることに変わりはないわ」
白杜さんが、前を向こうと、必死に言葉を紡ぐ。
「……その通りだな」
「えぇ、……やらなくては殺される、というのであれば、仕方のない話です。覚悟を決めましょう」
そしてそれに答えて、一条さんと風夜さんが、肯定の意を示す。
「れい、大丈夫?」
皆が話し出したのにもかかわらず、ずっと黙ったままだった私に、隣に座るのあが気遣うように尋ねた。
「……大丈夫です。覚悟は、決まったはずです」
本当は、怖い。
でも生きるために、選ばなくてはいけないから――
「…………各々、思うところはあると思いますが、そろそろ、正午になります。
人狼の目覚めと同じく、異能力者の目覚めも正午。鐘がなったらもうここは戦場だと思ってください。
…………やり残したことがあるのなら、今のうちに」
悲しそうに告げる峰さんに、みんながなんとも言えないような表情を返す。
そんなこと言ってしまったら、皆もっと平和に暮らしたいというだろうし、出来ることなら今まで通りに暮らしたかったというだろう。
だから、皆、やり残したことなんて、何も言わなかった。
何も、言わないまま、鐘がなった。
* * *
(頭が………………)
重く、体の底の方まで響くような鐘の音。
初めは鐘のせいだと思った。しかし考えてみればそれだけではなくて……………………。
『うっ…………』
ちらりと、皆の方を見てみれば、全員が頭を抱えてうめき声をあげていた。
どうやらこの現象は人狼の呪いや、異能力の有無にかかわらないらしい。
けれど、私の頭の中に渦巻き、体の全体に伝わるこの感覚は――――
「頭、いた…………」
「ズーンってくる」
そうして数分みんながみんな、自分の頭痛と戦い、いくらか収まってきたところで、風夜さんが声をかけた。
「全員に、変化もあったようですし、これより初日の会議を始めようと思いますが、異論はありますか?」
「いいや」
「始めて大丈夫だよ」
「どうぞ始めてくださいませ」
数名が返事を返し、その他返事を返さなかった人たちも、その数名の言葉に頷いて、肯定を示す。
そんな村民たちを、風夜さんは一度、ぐるりと見渡すと、小さくうなずいて、言葉を発する。
「それでは、賛成多数ということで――――初日の会議を始めましょう」