嘘と狂気の宴【5】
「…………それでは、今後の行動、そして更に追加の情報をお話しします」
誰かが言葉を発することはないか、とひとしきり待った後、峰さんはそう言って話をつづける。
「まず、人狼は人間たちと同数、それ以下になると自分たちの勝利を確信して、昼間であっても人間を殺そうと動き出します。
だからタイムリミットは、人狼とそれ以外の存在が同数になるまで」
「私たちは一刻も早く人狼を殺せるよう、昼は会議を行うことで人狼を炙り出し、日没には投票によって疑わしきもの一名を処刑する、という行動を繰り返します」
昼は、先ほど確認を取った、会議をして投票をする、ということ以外は何もないそう。
「夜、人狼は一夜につき一人の人間を狩り、仲間内で分け合って、食事をとります。その夜の間、基本的に村民の皆さんは自分の身に気を付けて、自宅にて睡眠をとっていただきたいのですが……例外があります」
峰さんは一つだけ指を立てると夜の行動の例外についての説明を紡いだ。
「その例外は、人間に残された、唯一の希望。
……人狼の呪いが出現すると同時に、決まり決まって出現する「異能力者」の存在です」
「希望」という言葉に対して、皆はまた少し反応したが、今度のその言葉は信じていいものか、悪いものではないだろうかと、疑りながら言葉の続きを待つ。
「基本的に、異能力者は人間の味方です。しかし、他の勢力につく異能力者がいない訳ではない」
そしてやはり、私たち村民が疑った通り「希望」と言っても一筋縄ではいかないらしい。
「その異能力者の数や、どんな異能力を持つかは、その時代によっても変わりますが、これまでの記録によると、村民の数によって、大体は推測できるようです」
現在村ににいるのは月乃玲明、華道のあ、風夜凛、一条悠里、峰叶斗、雷山ミア、ライ、淡海真夏、白杜留紀、如月由良、の十名。
最初の犠牲者を除いた村人が十人の場合、異能力者と人狼の割合は――
人狼、三名。
占い師、一名。
霊媒師、一名。
騎士、一名。
狂人、一名。
狐、一名。
そして、そのままの村人、二名。
この割合の可能性が高く、この様子だと人狼陣営対、人間陣営対、他陣営で四対五対一の割合になるだろう、と峰さんは語った。
「続けて、異能力の概要について――」
まず、占い師。占い師は一夜に一度、村民の一人を占い、その人が人狼か、そうではないかを占うことのできる異能力。
そして、霊媒師も一夜に一度、前日処刑された人が、人狼かそうでないかを見ることが出来る異能力。
「…………ということは人狼か、そうではないか、ということは相手が異能力者かどうかまではわからない?」
「そういうことになりますね。そのせいで判断が難しくなる異能力もあるので、そちらも追ってお話します」
如月さんの問いに、峰さんはそう答えると、異能力についての続きを話し出す。
そして人間陣営最後の異能力者、騎士。この異能力は人狼に対抗することのできる武力を持てることが出来る、という異能力。
毎夜一名、誰かを選べば、その人間を守ることができ、もし、自分が守った人と人狼の襲撃がかみ合った場合は、人狼を撃退することも可能。
しかし、騎士は他人を守ることに特化し、無意識のうちに他人を守ることを考えているため、自分を守ることはなく、人狼からの奇襲を受けたら死んでしまうことがほとんどだという。
「以上が、人間側につく異能力者です。続いて、人狼側につく異能力者」
その名前は、狂人。
正確には、異能力者と呼ぶことが出来るのか出来ないのか、曖昧なものではあるが、人間に仇をなそうとする敵である存在ということに、変わりはない。
狂人は、人狼の呪いが完全になると同時に、人狼の存在に惹かれ、人間を裏切らんとする、普通の人。
人狼の呪いを負った人物が誰であるかを知ることはないが、ただひたすらにその存在に焦がれ、人狼のためになる行動をとろうと、嘘をつき、時には他の異能力者を語って場を乱す。
「……この存在の傍迷惑なところは、人間であること。すなわち、人狼側に付く身でありながら人狼ではないため、占い師や霊媒師から、その存在は他の人間と変わりないように見えるのです」
峰さんは重々しく呟く……が、その後に、少しだけプラスになるようなことも言ってくれた。
「しかし、他と変わらぬ人間に見えるのは、人狼からも同じ。時には誰が自分を信奉する狂人か、気づくことなく狂人を喰らうこともあるでしょう」
つまり、人狼側にとっても気を遣わなくてはいけない存在ということだ。
「そして、最後に一番厄介な異能力者――狐の存在」
狐は、異能力者というよりも、人狼のような存在と言った方が正しい。
狐はただ、人狼と人間の戦いを傍観することを楽しむ、第三勢力であり、戦いが始まる瞬間、人間の体に入り込み、人狼のような潜伏期間を経ず、入り込んだ瞬間に体の主と融合する存在。
人狼との違いは、第三勢力であること、そしてその呪いじみた存在は、潜伏期間も何もなく、芽吹きと同時に開花すること。
一見するとあまり害はなさそうに見えるが――
「しかし、人間と人狼の戦いに決着がついた途端に興味をなくし、生き残った勢力の者も、全員を殺そうとする、気分屋で気紛れで、傍迷惑な存在でもあります」
峰さんは、狐の存在に対してそう評する。