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花かんむりの眠る場所で 番外編  作者: 綾取 つむぎ
長編番外 人狼ゲーム
15/30

嘘と狂気の宴【2】

「ご遺体が見つかった、というところの説明から続けさせていただきたいと思います」


場を切り替え、風夜さんは説明を続ける。


「…………あまりいい話ではありませんが、ご遺体は発見された当初から損傷が酷く、一度見ただけでは身元の判明すら難しい状況」


重々しい口調で、紡がれる言葉だが私、月乃玲明を含めたこの場にいる村民は、大切な情報を一語一句漏らすまいと、口を閉ざしてただ静かに耳を傾けている。


「しかし、代々この村の戸籍、知識管理を担う一族である峰家の峰叶斗さんにもご助力いただき、いくつかのことが判明致しましたので、この場にて報告、共有させていただきます」


ちらりと目配せをすると、風夜さんは席に着く。

そしてそれと同時に席を立つのは、焦げ茶の髪に琥珀色の瞳を持つ、峰叶斗さん。


「本当なら、こういう公の場はしっかりとした挨拶から始めるべきくと思いますが、本日はその時間すらも惜しい、火急の要件ですので、前置きはこれくらいにして本題に入ります」


いつも笑みを絶やすことなく、砕けた口調のまま話をする峰さんが、今日はきっちりとした敬語。そして、焦るような強張ったような表情が顔には浮かんでいる。


「……まず、ご遺体の身元について。

色々調べた結果、この村の外れにひっそりと住まう、女性であることが判明しました。

その女性はご両親の代からこの地で暮らし始めた方。ご両親を亡くされてからも、ずっとこの地で暮らしており、現在は一人で暮らしていたとのこと」


未だかつてない真剣さに、口を開こうとするものなど誰もいない…………というよりも、空気の重さが、口の重石となって、言葉を発することができないし、空気もうまく吸えない。


しかし、そんな中でも情報共有は進む。


「女性に家族はいない。外部の人との特に目立った繋がりもない。……となりますと、彼女が殺害された理由も、犯人もあまり想像がつかなくなってしまうのです」


その言葉に、私を含めた何人かが、重さに耐えきれないような顔をした。


「しかし、それでは困りますのでご遺体や彼女の置かれた状況、そして新たに別部分から情報を取り入れて、推測をした結果もお話しいたします。

………………信じられないようなこともあるかと思いますが、受け止めていただけますと幸いです」


「信じられないような」という何やら不穏な言葉が出てきたことに、私は身構えて、峰さんの話の続きを聞いた。


「まずは、現実的な状況のお話…………ご遺体の状況についての話をさせていただきます。ご遺体は中央広場にて、獣に食い荒らされたような形で放置されていました。……第一発見者は先ほど風夜さんが言った通り、雷山ミアさん。そして、話を聞いただけだけれど、雷山さんの悲鳴を聞いて駆けつけたのが月乃さん、一条さん、風夜さんの三名」


齟齬はないか、と私を含め名前を上げた三人に目配せをした峰さんに、私はちいさく頷きを返す。


「ショックで耐えきれなかった雷山さんを連れて月乃さんはその場から離脱。残った二人は遺体にシーツをかけて、私を呼びにきた…………と、第一発見者、他三名のこの時の行動は、かなり明確に追うことができますし、この四人の誰かが、その時殺したということはまずないと思っていいでしょう」


一つ一つ行動を確認していく峰さん。しかし、琥珀色の瞳に、ふっと影を落とすと真っ直ぐこちらを見る。


「……そして、それならば、いつ殺害されたのか。それを明確にするために、医学に精通した白杜留紀さんのご助力も得ながら現場を調べさせていただいた結果――」


名前が上がった村民、白杜留紀さんは、その後の言葉を知っているであろうに、表情を強張らせながら峰さんの話の続きをじっと待った。


「血の渇き具合等その他諸々から――昨日から今日にかけての深夜に殺害されたのだろう、との判断に至りました」


昨日から、今日。


その言葉を聞いて、顔色を悪くしたみんなは何を思い浮かべたのだろうか。


昨日、ぐっすりと眠っている間に行われた殺人に対する恐怖か、未だよくわからない状況に対する不安か。


抱く感情は各々違うだろうが、皆が黙りこくった――


「…………いくつか聞きたいことが出てきたのですが、よろしいですかぁ?」


沈黙の合間を切り裂いた言葉は、なんとなく間延びしたような特徴的な話し方。


「どうぞライさん。僕の知っていることであれば、何でも答えます」


峰さんが、名を指したその人は、この村の村民の一人。そして私の友人、ライ。


「それでは二点ほど〜。……まず一点、女性は一人暮らし、かつあまり表に出る方ではなく、この村にひっそりと住んでいる、と言いましたよね?」


ライという少女は、特徴的な話し方で、たまにふざけたようなことを言ったり、突飛な行動をとる、不思議な少女である………………が。


「しかし、そうすると殺された場所の説明がつかなくなってしまうと思いませんかぁ?

物静かな女性が一人、そんな夜に出歩くことなんて、なかなかないと思いますしぃ、たまたま外に出たところを、獣に襲われるだなんて偶然が過ぎますよぅ」


この少女は、時々非常に鋭く、聡明で、一体誰と話をしているのだろう、と思わされるくらいの威圧感を感じる。


「さてぇ…………そんな女性が、外で殺されていた理由を、他のところから取ってくるのなら「わざと」外で殺された。なんて可能性も、なくはないと思うのですがぁ?」


ぱっと威圧感をなくしたかと思えば、ライは一つ目の疑問についてを、そう締めくくる。


「………………そうですね。ライさんは鋭い。

そちらについても今お答えしたいところですが、先にもう一つの話も聞いてから、まとめてお答えさせていただこうと思います。……それで、他の疑問とは?」


峰さんがそう問いかければ、ライはすっと目を細めて、鋭い視線で峰さんを見た。


「…………先ほどから「殺害」「犯人」と、そう言った言葉が出てきていますが……ご遺体は、食い荒らされた状態だったのでしょう?」


その言葉に、私も含めて大多数の村民が目を見開く。そして――


「――普通、獣の仕業だと思うところを、犯人がいると判断した理由。それは、なんなのでしょうか?」


今の言葉で、村民の大多数が抱いたであろう疑問を、ライは問いかけた。


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