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女子(たちのお茶を語る)会【1】

『…………あ』


なんとなしに歩いていた廊下の曲がり角で、ばったり鉢合わせたその人物に、私、白杜留紀は思わず声を漏らす。


「……え、えぇっと、お久しぶりです。風夜さん」

「こちらこそ、お久しぶりです…………?」


目の前で、ひそかながら深緑色の目を丸くして、私を見るのは風夜凛さん。


上級王宮官の娘にして、この学校の生徒会会長も務めている。


そしてその経歴から人々が抱く「優秀な人なのだろう」という期待を裏切らない、本当に優秀な人でもある。


毎年のテストの成績も、晩年上位。

そして言わずもがな生徒会の業務もそつなくこなす完璧超人。


ただ、それ以上に数値では測れない性格といった面からも、その秀才さは見て取れる。


人と話せば、口数こそ多くはないものの、簡潔かつ的確な意見を出すが、かといってそれが相手の立場や意見を害さないようにする会話スキル。


細やかな動作一つ、口調一つから垣間見える品の良さも、秀才というイメージの一端を担っているだろう。


私も、そんなに付き合いは多くない顔見知り程度の関係だけれど、何かを行動するのを見かければ見かけるたびに「優秀な人だなぁ」と思ったり、後は凛さんという名前の通り、無駄がなく洗練された美しさのある人だな、と思う。


私が、風夜さんに抱くのはそんなイメージだろうか。


「あ……今日もこれから生徒会に行かれるところですか?」


さて、それはそれとして今の状況。


目の前にいるのは前述したとおりの完璧超人な風夜凛さん。


性格に難があるわけでもなく、それどころか、どちらかというといい人の部類に入る気がする人。

……なのだが、こうして対面してしまうと、私と風夜さんの関係性ゆえに、ちょっと気まずいことになる。


体育の部のお試しの時に対面し、一緒にリレーをしたり、ちょっとだけ会話をする機会もあったため、赤の他人というわけではない。


しかし、友人と呼べるほどの関係でもないのだ。


顔見知り以上、友人未満。


この妙な関係だと、普段関わることはないのだが、こうしてばったり会った時なんかにどう対応するかで迷うものなのだ。


何も知らないように立ち去るのはなんか憚れるし、急ぎの用事でもなければ会釈だけして去るのも何だか感じが悪い。


…………というわけで適当に会話ができるよう、無難な話題を振ってみるのだが。


「いえ、今日は生徒会もお休みの日です」

「そうなんですね」

「はい」

「…………」

「…………」


会話が苦手な私側のせいで、上手く続かない。


「…………今日は、いい天気ですね」

「はい。もう少しで雨が降りそうな感じの涼しい、いい天気ですね」

「…………その通りですね」


挙句の果てには、雲っているのにいい天気とか口走っちゃうし。


完璧超人の風夜さんすら困らせる壊滅的な会話スキル。


この気まずい状況どうにかならないかな…………とか考えながら、周りに目をむけてみたり、話題を探したり…………。


(………………うん?あれは…………)


少し遠くからこちら側に、たったった、と何やら小さな缶を抱えて小走り気味に走る少女に私は、見覚えがあった。


黒い髪に、遠目からではわかりにくいが恐らく赤色だと思われる瞳。

そして、私たちより一つ下の学年を表す青色のローブ。


「……あれ、月乃ちゃんに見えるのですが…………」


思わず呟くと、風夜さんも私の視線の方へ眼を向ける。


「…………あぁ、本当に月乃会計ですね」


月乃ちゃんは一応普通に話ができるくらいの知人であり後輩、という認識の人物。


月乃ちゃんと呼んでいるのは後輩への接し方がわからなかった故なのだが、月乃ちゃん本人からしたら記憶にない目新しい呼び方だったのだろう。


初めてそう呼んだ時、ちょっと驚いた末にちょっぴりはにかんでいたのが可愛かったので、それ以降はこの呼び方が定着してしまっている。


…………まぁ、実のところこの月乃ちゃんも生徒会の一員であり、そもそも入学した自体、圧倒的な魔力の才があったため国からの推薦を受けたとかいう超次元的な人なのだが。


「月乃ちゃん。どこか行くところ?」


まだ、ここからではそれなりに距離があったが周りにいる人もほぼほぼいなかったため、少しだけ大きい声で、月乃ちゃんに声を掛けた。


まだ距離があったのに声をかけたわけ、そして言葉の内容。


出来るだけ早くこの気まずい空間を終わらせたいのと、どこかいくところ?すなわち用事はあるか、ないなら巻き込もう、という姑息な思考が半分を占めつつ放った言葉なのだが、そんなことに気がつかない月乃ちゃんは嬉々として答える。


「はい。今日は生徒会もお休みなので、ミア…………あ、友人とお茶をする予定をちょっと前から立てていて…………」


用事入ってたかー、という先ほどの思惑に対する残念な結果を受け止めつつ、それよりも月乃ちゃんの言葉の内容の方に意識が向いてしまった。


「へぇー、楽しそうね。…………あれ、そういえば今日華道くんは?」


お茶会の話をしているうちに、ふといつも月乃ちゃんの隣にいる華道くんが、今日はいないことに気づく。


いつも、四六時中月乃ちゃんの近くにいるイメージがあったから、月乃ちゃんの単独行動は、今になって気づけばだいぶ珍しいことであり、不思議なことである。


「えっと、今日は友人曰く「女子会」とやららしいので、のあは参加できないらしいです」

「あぁ……そういう?」


先程ミア、と月乃ちゃんが口走ったその人名にも私は、覚えがある。


何だか芯が強そうなあの金髪の女の子だろう。


その子とも、体育の部のリレーの時に知り合ったため、一応面識がないこともない。


(お洒落で、すごく女子らしい人だったような)


こちらもあまり関わる機会はないため第一印象しか語ることはできないが、あの時のイメージからして女子会とかをやりそうなイメージはある。


それに、月乃ちゃんといつも一緒にいる華道くんであれ、女子会となったら容赦なく追い出しそうだな、と思ったり。

…………割と失礼だから言葉には出さないが。


「お茶会……というならその抱えている缶は茶葉ですか?」


今まで聞き役に徹していた風夜さんが月乃ちゃんに問いかける。


「あ!そうです。茶葉の瓶と、あとはクッキーとか、いろ色々お茶会で食べたら美味しそうなものを詰め込みました」


大事そうに缶を抱えていたのはそのためか、と私は一人納得した。


「茶葉はなんの品種を?」

「えーっと、待ってくださいね…………なんだったっけ……ア、アール……なんちゃら」

「……アールグレイではないですか?」


私が、ひとりでに納得しているうちにこちらでは紅茶の話が始まっていた。


「確かこれ、メリト国とか、シュガーレツ帝国とかそっちの方からの輸入品とからしくて、なんかすごい茶葉らしいんですよね。

のあがもらったものを分けてもらっただけなので、私もあまり詳しくはないんですけど…………」


そう、月乃ちゃんが紅茶についての説明をしていると、風夜さんの眼が一瞬きらっと光ったように見えた。

…………いや、もしかすると、気のせいじゃなかったかもしれない。


「メリト国のお茶ならよく飲みますが、シュガーレツ帝国のお茶ならあまり飲む機会はありませんね…………。

ただ、噂によると……同じアールグレイで、ベースの茶葉も、香りづけのベルガモットも、同じ品種を使っていようとも、産地によって味は明確に違うとか」


ほぼほぼ独り言のような形でお茶についてを呟きだした。


「そもそも、何の茶葉をベースに香り付けをするかでも変わってくるのですが茶葉とベルガモットの組み合わせで、味も香りもだいぶ違ってくるんですよね。

酸味を感じるものもあれば、少々の苦みを感じ、逆にそれが深みを演出するものもある」


「ただ、全体的にメリト国の方が少々渋め、シュガーレツ帝国の方が、甘いと聞きますね。迷信かもしれませんが、是非とも死ぬまでには飲み比べをしてみたいものです。

ただもし本当に違いがあるとするのなら、それはどこからくるのか…………………………あ」


風夜さんの話に集中し、私たちもいつからか黙っていたため、風夜さんも、自分一人で話していたと思ったのだろう。

一言「……すみません」と呟くと口を閉ざした。…………だが、今度は逆に私が、気になってしまった。


「紅茶の話、面白いですね……。産地によって何が違うのか、気候かそれともその地に伝わる育て方か…………」

「…………!」


風夜さんは、ちょっと驚いたような顔をする。


「風夜さんの語りには……ええっと、その…………愛があふれていて聞いているこちらも楽しいというか。

…………お茶、好きなんですか?」


何だか緊張してしまったが、ちょっとでも風夜さんのことを知るチャンスなのではないかと思った私は問いかけた。


「………………まぁ、そう……ですね。多分、趣味、と呼べるものです」


ちょっとぶっきらぼうにも思えるその言葉だが、私はなんだか無性に嬉しかった。


「そうなんですね!他にお茶の話は…………」

「あ、あの!」


風夜さんが答えてくれたことに喜び、頑張って会話をつなげようとした私だが、思わぬ人に遮られる。


「……今日、本当は私と友人と、もう一人。三人でお茶をする予定だったんですけど、急遽その子はこれなくなちゃって…………。

ちょっと大きめな部屋を取ってあるので、よければ先輩方も来ませんか……?」

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