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KOMION  作者: 猫のような兎
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物騒な名前だよな

朝…?ここ何処だ?


あー…そういや馬車か。


なんか痛いなぁ…。


……ぅ?


痛い、痛い痛痛っ痛ぁいぃっ!いったあぃい!


「めっちゃ痛ぇえええっっ!」

「起きたか。」


起きたかて!





------------------------------------




「お前、がっつり骨折してるな。」

「がっつりってなんだよ。」


草原にいたはずなのに何故か森の中。

あの草原の近くには森なんて無かったはず。

 少なくとも近くの森にたどり着くまでに国が3つはある。


コイツ、方向音痴にもほどがあるだろ。

 しかも極度な。


緑色で見事に森と偽色になっている彼をジト目で思わず見る。

いや、感謝はしてるけどよ。命の恩人だし。

でも、国についてりゃさぁ…。今頃、なぁ?


ちょ痛ぁいっ!


「痛い痛っい!」

「………。」


ギシギシと包帯を巻きつけられながら悲鳴を上げた。

 ヨモギエキスが止血として使われてるらしいけど、それだけ強く巻かれたら血も止まるわ。


救急箱の場所を教えた結果、こんな感じに男の治療を受けている。

コイツ、自分の力分かってんのか?

と、口の中に大量の葉っぱを突っ込まれた。


「ぐぼぅ!?」

「食え」


噛んだと同時に、土の香りが口いっぱいに広がった。

にがぁ!枯れ草の味!

吐き出そうとする。と顎を上にあげられ、思わず飲み込んだ。


「飲め」

「もう飲んじまったわ!」

弟切草オトギリソウだ」


は?あぁ、今食わされたやつか。

 聞いたことはある。薬草茶によく使われる薬草だ。

有効成分にポリフェノール、ヒペリン、ヘペロサイド、タンニンとかがあって、効果は

 肝炎、肝硬変、肝臓障害、ガン、白血病、収斂、抗鬱、鎮静、神経系の回復、筋弛緩、治癒促進、軽い鬱、更年期障害、生理前緊張症、坐骨神経痛、各種の痛み、おねしょ、帯状疱疹、不安症、不眠症、季節性情緒障害、火傷、打撲、怪我、ただれ、坐骨神経痛、神経痛、筋肉痙攣、捻挫、テニス肘……


「傷に効く。鎮痛効果もあったはずだ。炎症も抑える。」

「ん?そりゃクエルチトリンとクエルセチンだったかな?ポリフェノールの一種だぜ。」

「……紫外線。」

「ああ~ピペリシンな。気を付けなきゃなぁ」


幸いなのかなんなのか、ここは森の中で紫外線は弱そうだけど。


「傷には生で食うものじゃないが。」

「おい」


なんてことしてくれるんだ。体中の毛が抜けたらどうしてくれる。


「あれから五時間たった」

「は?あ、あぁ。」


しかもショウは相変わらず突拍子ねえし。

会話には流れっつーもんがだな…


ぶつくさ言ってみるがショウは気にせず続けた。


「ここから近い国は?」

「まずここが何処かわかんねえし。」

「…そうか。」


相変わらずの無表情。

 そういや表情っつう表情は、前に城前で残念そうな顔したとこしか見てないな。

じっと目を見られる。

そういうとき、なんだかそらしたくなるのは俺だけか?


「ヤバいな、お前。」

「…なんでだ?」

「コミオン、五時間いない。つまり後一時間。」

「いや、あんたがいるだろ?」

「俺は駄目だ。」


…何がだよ。

話の意図を掴ませてくれよオイ。


「あーショウさん?何がどうして、駄目なのでしょう?」


包帯を縛り終え、立ち上がった彼は、ひらりと外に降り馬車を引く。

こちらを見ずにいつも感情の無いトーンで淡々と呟いた。


「恐らくだが、俺は契約とやらをしなくては近くにいるだけではコミオンになれない。」

「は?」

「いや、契約も正確にはコミオンになるのではなく血を交える事で多世界の者とし、その者をこの世界に消滅させる権限を無くすのだろう。」


呆然と話を聞く。たまに頭の回転速くなりやがって。

取りあえず返す言葉を探す。が見つからなかった


「…気鬱だといいが。」


ほんとだよ。


俺、消えるのか?

でもほらショウも気鬱かもしんねぇって。

まぁそうだったとしてもどうせ今日死ぬ運命だったんだよきっと。

ショウのおかげで地味に長生きできたんだよ多分。


一気にブルーな気分になった心を微妙に…というか貶してるに近いが励ましつつ、空を見上げた。


 …木が茂っていて見えなかった。


「あぁそうだ」


馬車が止まった。


「屋根つけとく。紫外線よけに」

「お、おぉ。よろしく」



あいつ、マイペースだなぁ。



-----------------------



異常なほど揺れる馬車。当たり前だ、木の根とか乗り上げてるんだから。

よくこんな悪路を馬車で走れるなぁなんて思う。

 馬車の中は、ショウが陰干しだ~なんだのと言って、

俺には何かわからない様々な葉っぱがわんさかと干されている。

 この葉っぱのために屋根作ったんじゃ…あの花オタ。

薬草臭い香りが馬車に充満していて、それだけで健康になれる気がした。

 ふと自分の手を見て固まった。


「おおぅ…」


手が、透けてる。包帯で見えなくなってない部分だけ透けてるのが

少し透明人間になった気分だ。

 アイツの推測は当たってしまったらしい。


未だに森の中。

人に会う気配なし。


あー…。絶望的。


「ショウさーん。ちょっと止まってくれやー」


イノシシも驚く猛スピードで森をかけていた馬車…というか人力車が止まる。

 少し前に、お前が引いてたのかよと突っ込まずにはいられなかったいい思い出がある。


「なんだ?」

「間に合わねえわ。そんな急がなくて良いぜ?」


顔を潜めるショウに手を見せた。

粒子が分解されていくように徐々に消えていく。


「あーあ。してぇことあったのにな。」


それを聞いてショウは眉をしかめながら呟く。


「消えたいのか?」

「は?んな馬鹿な。」


今の言葉でどうしてそうなるんだ。


「お前ひでえなぁ。」

「消えたくない、か。」


真面目な顔、つーかいつもの無表情に、彼はふむ。と顎に手を当てた。


「なら契約でもするか?」







ぅ?






「は?」

「名案だろう?」


ばっ!と消えてないほう、折れてる方の手を挙げた。

痛い!痛っい!


「…!…!」

「………。」


冷めた目で見られながらも、息を整えた。

ふと見るといつの間にか肩まで消えている。早っ!


「あんた、契約したくない的な事言っときながら…。大体契約出来るのは王族の女性だけだ。」


その子孫だって何故か女性しかいないから僧侶以外の魔法使いは女性だけ。

 なんでか?知らん。そういうもんなんだよ!



「やってみなくては分からない。駄目だったら諦めよう。」


しょうがないよな、とうなずく彼。

すぱっと諦められちまうらしい俺の命。


「契約詠唱は…」

「聞いたことがある。」


詠唱を始めるショウ。

ったく、どうせ無理だよ。

まぁ、一人で孤独に消えずにすんで良かった。


親父たちに、悪いことしちまったなぁ。

 鞘だけとなった剣に手をかける。


少しずつ、眠るように、目を瞑った。






 We do not understand the mind about the person other than me.

 However, I think that making the effort to understand saves the person.

 It is believed that the mind is transmitted without fail some time.



怒った兄が弟を切った時に血潮が飛び散り、その跡が葉に残っていてオトギリソウの名がついたと言われてます。

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