俺、雑草愛してる
やたらと揺れる馬車の上、保存食の干し肉をかじる。
保存性を高める為に塩を多めに使うのは仕方ないとは分かるが、あまり塩辛さに思わずレイスは顔をしかめた。
見渡す限り草原が広がっているここはハカリの北部にあたり、魔物も少ないので平和で静か。
気候も安定しており旅にはうってつけである。
まぁ、旅人なんて殆どいないが。
「隣にいいかい?」
「どうぞ。」
どっこらせと隣に商人のおっさんが座る。
前で馬を走らせている馬車の御者も含め彼らは、隣国ガナハに行くまでの短期のコミオンだ。
それにしてもコミオンがすぐに見つかって良かった。
レイスは僅かでも存在していた自分の運に感謝した。
本来コミオンというのは簡単には見つからない。
普通、危険を呈してまで国外に出ようとは思わないからだ。
しかし、国を渡って商品を仕入れ商売をする商人はそうもいかない。
一歩間違えれば消えてしまうというハイリスクの為、商人は多くなく、そのぶん仕入れ品は非常に高い。
「あんちゃん一人旅か?珍しいねぇ」
「あはは。一緒に旅してくれる人、いなくて…」
「そりゃあそうだろよ。むしろあんちゃんみたいなのがいた方にオラぁビックリだ。」
商人も御者と常に行動を共にする位だ。
旅人も、いなくはないが皆大体決まったコミオンがいる。
それも二~三人はぐれても大丈夫なように多人数の。
レイスも別に好きで一人旅してる訳じゃない。
一人に優越感とか仲間なんて邪魔なだけだとかいうキャラじゃねえし。
決まったコミオンが出来る程、仲がいい奴がいないだけだ。
…考えてみれば俺って寂しいなー、なんて黄昏てみたりした。
あーあーあ。平っ和だなぁっ!!
「ひ…」
短い悲鳴と共にふいにがくんと馬車が止まる。
「どうし……っ!?」
御者にどうした?と聞こうとしたのだろう。
しかし、見てしまった光景に商人の顔が真っ青になる。
…神は平和にはさせないてくれないようだ。
てか俺にはささやかな幸運すらないらしい。
そもそも、魔物がなかなか出ないここで魔物に遭遇したのも相当な不運なのに。
平原に立ちふさがる黒は…ダークライオネス。
危険度はSSランク。ギルドに討伐依頼が出ても誰も受けないランクだ。
しかもフラクビーストを五匹従えている。
フラクビーストは雑魚だが群れで行動し、面倒な相手。
フラクビーストのみならまだしも、ダークライオネスは腕利きの兵士が10人でかかっても帰らぬ人にされる位のだ。
勝てる訳がない。
ゆっくり向かってくる黒。
(死)という文字がすとんと胸に落ちる。
《ガアアアアッっ!》
ダークライオネスの雄叫び。
フラクビーストがそれに従い、猛スピードで向かってくる。
取りあえず剣を抜いた。
震える足を剣を杖に立たせる。
なんで1日で二回も命の危機にあわなきゃいけないんだよ。
俺、Bランクのオークにも勝てなかったってのに。
どうしよもない。
…でも、簡単にやられるとは思うなよ。
最後まで逆らってやる。
腕の1、2本位は…
馬車を飛び降り、フラクビーストを切り裂く。
首を落とす、一匹。
胴を割る、二匹。
御者が悲鳴をあげた。
指が二本無くなっている。
御者の元に向かい、指をくわえたままのそれを切る。
三匹。
背後に一線。
四匹。
商人の足が降ってきた。
くそっ…
向かおうとするが視界に現れた黒。
横から危険を感じ体を捻るが右腕に激痛。
避けきれなかったようだ。
ダークライオネスは爪についた俺の血をなめ、周りをゆっくりと歩く。
うわぁ…。俺、今超狙われてる。
いい感じに壊れてきた危機感に苦笑いを浮かべつつ振るわれた爪を剣で防ぐ。
それでも三メートルほどぶっ飛ばされ、血を吐く。
ダークライオネスは俺は後回しに、近くにいた御者に食らいついた。
血液が飛び散り、御者は息絶えたのが一目で理解出来る無残な姿となった。
見ると商人は馬車の上でフラクビーストに既にやられてしまっている。
次はお前だ、とばかりにダークライオネスが顔をあげる。
全身の痛みをこらえてよろりと立ち上がった。
同時に足音もたてずダークライオネスが飛びかかってくる。
まがまがしい黒爪を避け、首を狙い剣を振るう。
ひらりと後ろに跳んで避けられた。
ダークライオネスが視界から消える。
ガアッ!と後ろから聞こえる声。
振り向いて剣で防ぐと、ダークライオネスはそれにそのまま噛みついた。
ギリギリと音をたてている剣を押されつつも必死に落とさないように押し返す。
だが鋭い牙が剣に食い込み、ぱきりと音を立てて剣が砕け散った。
ヤバい…!
重い引っ掻きを食らい、再び吹っ飛ぶ。
地面に叩きつけられ、転がる。
近づいてくる黒の気配。
起き上がろうにも、あちこちの骨がやられてしまったらしい。
あぁ…。ダメだ。
あの剣、折れちまったし…。
勢いをつけて黒が飛びかかってくる。
牙が届く寸前、ダークライオネスが何かによって倒された。
倒したのは息絶えているフラクビースト。
恐らく死骸を誰かが投げつけたのだろう。
出血で薄れる意識の中、知り合ったばかりの緑の髪が見えた。
テメェは俺のヒーローかよ…。
彼がダークライオネスをげしげし踏みつけているのをラストムービーに意識をゆっくり落とした。
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巨大な黒猫(※ライオン)を地に沈め、急いでまだ息のある男の元に向かう。
自分の服を破き、腕の出血を止める為に縛った。応急手当てはこれ位しか出来ない。
馬車を引きずって影を作り、他に出血してないかを見る。
あとの二人は駄目そうだ。
かといって彼も助かるかはわからないが。
そういやどっかで見たなこの男。
悩み、顔をマジマジと見て、あぁあいつか。とやっと理解した。
血だらけで分からなかった。
「あんたとはやたらと縁があるな。」
聞こえてないだろうが。
国からでた後、鳥をひっつまえて此処にきたはいいものの
草原には目印になるようなものが全くなかった。
ふらふらとさ迷い、やっと馬車を見つけて道を問おうとしたらこれだ。
そういえばこの男、初めて会った時も絶賛魔物襲撃中だったな。
魔物に好かれてるのか?
まぁ、レイスのおかげでここについて色々知れたし、な。
見捨てるわけにはいかないか。
馬車に入っていた毛布で安易な担架を作り、馬車の中に移動させてみる、
が重傷患者を動かす事は本来非常に危険だ。
…今の衝撃で骨が内臓に刺さってないといいが。
まぁ仕方ないか。
よい子は真似しないで下さい。
仕方なくありません。
飛び降りて、辺りを物色。
使えるものが生えてるといいが。
目に付いたのは オオヨモギ。止血効果もあったはずだ。
艾葉にしてないが、無いよりマシか。
それにしても季節がバラバラだな。葉っぱを摘みながら周りの野草を見て思う。
9月が旬なオゼヌマアザミと11月のアキノノゲシが同居している。
オオヌマアザミにも止血効果があるが根だ。掘り起こすのがめんどくさい。
ほかにも使えそうなのを摘んでくか。馬車にひっつけて干そう。
雑草、こんなにも素晴らしいのに。何故みんな馬鹿にするんだ?
これは、薬草入れが欲しいな
Wonderful kept secret it is not possible to see.
And, it is good.
きっと彼はレイスをほうっといて、
しばらく雑草摘みに夢中になってたでしょう。