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KOMION  作者: 猫のような兎
15/16

カルシウムを摂れ

お久しぶりです。

見捨てずに読んで下さって、本当に感謝です…!



「かーっ!久しぶりの生きた国だ!」

「生きた国とはどんな国だ?」

「あー…生きた国だよ…」

「そうか」


つまり死んだ国もあるのか。面倒臭そうなレイスに問いただしつつ、

進める足はそのままに、小さく深呼吸をした。


立て看板によると、ここは山の上の国、ターベルマというらい。

…どうせ国名は覚えられないが。覚える気もない。


山の頂上付近にあり、道は上り下りが激しく塗装されていない。

建物や空き地よりも、明らかに森林の部分が多い。真っすぐ進むと木に当たる程度には。

空気がおいしい国だが、非常に交通に不便そうだ。

車どころか、二輪車でも10m進むごとに1回は横転するだろう。

馬…。馬ならいいかもしれない。障害物沢山だが。


「貿易はなさそうだな」

「んー、そう思うだろ?輸入はないけど輸出は結構してるんだぜ」

「そうか」

「えええ…。そこで納得しちまうの?なんか不完全燃焼なんだけど」


まぁ、いいんだけどさ…。と溜め息をつくレイスから目を離す。

旅人は珍しいのか、色々な国人がこちらに興味を持っているようで、通りかかる人全てが振り返る。

…荷台の黒猫のせいかもしれないが。

そういった目線に慣れていないのか、ルミネが気まずそうに肩を縮ませているのが哀れだ。



「じゃ、猫さんの毛皮売っぱらってくるわ。高く売れるだろうし、借金返済しきれるかなーっと」

「良かったな」

「ちょ、なんであんた他人事なんだよ!」


他人事のつもりはない。


「ルミネ、どうするんだ?」

「うえ?」

「ショウ…、主語を入れろ。主語入れろや」


何が主語で何が述語か区別が付かないのは俺だけなのか。

助動詞やらなんやら多すぎだ。日本語は難しいと思う。

…今話してるのは日本語なのだろうか?


まぁなんでもいいか。


思えば、妹にも何が言いたいか分からない、と一日三回朝昼晩言われたのだ。

ならば主語が無いのは相当、昔からということだ。仕方ない。諦めが肝心だ。


とはいえルミネが姿勢良く話の続きを待つ態度に思わず目をそらした。

言葉に表すなら居た堪れないというやつか。俺にだって人並みの常識感覚はあるつもりだ。


「はぁっ!?嘘つけ!」

「…声に出てたか?」

「顔に出てたわ!無表情なくせに、思ってる事ダダ漏れなんだよ!」

「丁度いい。主語が無くとも伝わるではないか」

「いやいやいや、伝わってねーよ。伝わってたまるか」

「何故だ」

「お前さ、基本何も考えずに口に出してるだろ。考えてることは口に出さずによ」

「そうか?…ふむ、そうだな。以後気をつける」

「はははー素直だなーもう。おにーさん嬉しくて涙チョチョ切れるわー」

「そうか」


会話をぶった切るように終わらせる。

それに既に慣れたレイスは何も言わないが、ルミネは苦笑いを浮かべた。


「んで、ショウの代わりに聞くけどさ、ルミネ青年。目的地はあんのか?これからどうするんだ?」


その上さらっと話題を戻したレイスに面喰いながらも、少し考えて声を紡ぎだす。


「あー…うあーえああー。ばあ」

「……ばあ?」

「む」


必死に伝えようとするルミネの様子に思わず神妙に頷き、レイスと目を合わせた。


「なんと言っているかさっぱり分からないな」

「もういいじゃん。しばらく一緒に行こうぜ」

「あえ!?」

「そうだな」

「びゃっ!?」


方針が決まった。

どこかルミネの居場所が決まったらそこに置いてけばいいか。みたいな

同時にレイスが足を止め、それに倣ってルミネも俺も停止する。


「おーあったあった、ギルド。ちょっと行ってく……ショウ、あんたは来るなよ。話が捩じれ曲がるから」

「分かった。此処で待とう」


そう言うとレイスは真っすぐ俺の目を見ながら腕を組んで数秒考え、何故か噴き出した。


「はっはっは!あー変なの。…ルミネ。このバカがいなくならないように見張りよろしく」

「う!」


意味が分からない。失敬な。俺を何だと思っているんだ。




------------------------------------------------------------





 黒猫は高値で売れたという。

借金返済に足りたらしい。


「借金とは簡単に返せるものなのだな」

「違う違う。俺らがおかしいの。主にあんたがおかしいの。変なんだよ」

「そうか」


俺らの『ら』にルミネも含まれているのだろうか?

ぼーっと何処かを見ているルミネの視線を追うと、木材を崖に投げ飛ばしている男達がいた。

…あれが輸出、か? 下の国に投げ飛ばしているのか。

ずいぶんと男らしい輸出方だが、代金はどう受け取るのだろうか。


「あー、後、ギルドに依頼してなかったから直売してきた」

「武器屋にか?」

「いんや。宝石店の店長に」


…宝石店で使う要素が分からない。


「勇者ってマジ儲かるな。真面目に働いてる人が可哀そうだぜ全く」

「そうだな」

「借金作ったのもその勇者だけどな」

「…不可抗力だ」


何故借金が出来たのだったかは忘れたが、

借金が出来たから、レイスに地面にぶつけると爆発する肉を貰ったことを思い出した。

あれは珍妙だった。


「…でさ、中にジャージ借金取りさんがいたのよ」

「ほぅ」

「あ、待ってたっすよ!貰ってきますねーって、ぱーっと金を引ったくってランランと飛んでった」

「それは…強烈だな」

「…まぁ確かに強烈だけどな。あんたに言われたらすっげぇ不憫。あー可哀そうに…」

「ん!」


レイスの言葉に全力で首を頷かせるルミネに内心ささやかなショックを受けた。

さっきから…俺をなんだと思っているんだ。

まぁ、いいか。


「さて。ちょっと余ったから宿にでも泊まるか?」

「…宿か。…始めてだったか?」

「二回目だっての!!一回目はあんたが破壊したんじゃねえかよ!」

「は…、はびゃ!?」


ルミネが破壊という単語に反応した。

…確かにルミネが働いていた屋敷も少し壊したが、そこまで反応する程ではない。


「あぁ、借金はそれだったな」

「…お蔭で俺ら借金マンだったんじゃねーか」

「なんだそれは」

「正義のヒーロー」

「…そうか」


確かに勇者という正義のヒーローのような肩書きは所持しているが、

実際こちらでの生活の殆どは野生で盗人で追い剥ぎだ。

わずかにある正義と数えても良さそうな出来事より、明らかに犯罪的な出来事が多くを占める。

器物破損とか、空き巣とか。


「しっかぁし!これで晴れて自由の身!ルミネに剣買ってやれるぜ!」

「うあー」

「安心しな。ちゃんと中身があるやつ買うからな。靴べらでも無いぜ?」

「………」

「はっはっはー」


楽しそうに笑うレイスの後ろに、いつぞやかに見た人物。

殺意が溢れるその姿に、気付いたルミネが後ずさりする。

どうでもいいが、ルミネの髪の色は目に優しくない。光が反射する。




「…ようやく見つけました」


前と同じ赤タイツがすぐ目に付く。

相変わらずのセンスだ。


「あなたがたのせいで我が国は滅びました」

「俺、何かしたか?」

「あー、したな。ていうか基本あんた何かしてるだろ。器物破損とか」

「…扉や窓位の器物損害で滅ぶ国とは大変だな」


ちらりとみたらレイスが逃げる体制に入っていた。

視線を戻し、女性をマジマジ観察する。

手に握られる剣は重いのか、プルプルと小刻みに震えていた。


「命をもってして、償いなさい…!」


紫な髪の彼女はリアナタ。こちらの世界で始めて行った国、ハカリ国の姫。

誘拐犯だ。


「なぁ、話がややこしくなる前に逃げようぜ。二人とも」


すでにややこしいと思うのだが。

気のせいか?気のせいか。


「逃がしませんわ!私は俊足を持ってして、どこまでも追いかけます!」

「そうか。…頑張れ」

「おま…なんで応援すんだよ」


昔の人は狩りの時、何日も眠らずに獲物を追い続けたそうだ。

似たようなものだろう。大変そうだ。

それしか浮かばなかった。きっと大変だ。


「いざ勝負!…国民達の敵、取らせていただきます!」

「…はい?」








数秒の無駄な沈黙。

ルミネが目を大きく見開いたのを見て、ルミネの故郷の事が頭によぎった。


「あー待て。国民達の敵ってどう言った意味だ?意味が分からねぇ」

「そのままの意味ですわっ」

「そうか。悪かったな」


素直に謝ったショウに視線を向けた。

無表情だった。

悪かったと言うなら頭を下げるなり、すまなそうな表情をすべきだと思う。

と無駄な思い。

あんまり無表情だと顔面表情筋がなくなるぞアンタ。


「謝って済む問題ではありませんっ」

「では謝らない」

「違います!謝罪を込めて償いなさいっ!」

「どうしろと?」

「今すぐ死んで下さい」

「それは出来ない。他にないのか」

「ありませんっ!」

「ならば諦めて帰ってくれ」

「帰る場所などありませんっ」

「そうだったな。大変だな」

「あなた方のせいですっ!」

「何故ここにいるのだ」

「あなた達を追ってきたに決まっているでしょう!」

「そうか」

「そうです!……あ、あなた…!?」


言葉のキャッチボールというか、

気合いを込めて投げた鋭い言葉の槍が、スリッパとかハエ叩きとかで変な方向に回転を掛けて叩き返されているような。

それを諦めずに取ってまた投げ、そして最後には流される。


報われないぞ、それ。

人のこと言えないけどさ。


基本的にショウと言い合うのは俺だけで、客観的に見ると、こうも…なんというか…漫才っぽいのかと思うとげんなりした。

なんで言い合ってもないのに、こんなに疲れなきゃいけないんだよ。

ショウと聞いてる側をも疲れさせる言い合いをした姫様はルミネと目が合って一時停止した。

そして思い出したように声をあげる。


「何故ここにいるのですか!?滅んだのはあなたのせいでもあるのに…っ!」


剣を突きつけれている光景が繰り広げられていても、気にしなかった通りがかる国人がその大声で一斉に振り返る。

次回公演の演劇『恐怖、姫のタイツ』の練習中でーす。

皆さん公演を楽しみにお待ち下さいねー。と適当に言い訳をかました。


「絶対今日中に殺します。ええ今日中に」

「……っ」


なんで今すぐじゃなくて今日中なのか分からない。

剣を構えなおした姫。

丁度、さんさんと元気に輝く太陽光の反射が目に直撃する角度だった。

ぎゃっ!と目を押さえた。

 目の前に剣を構えてる危険人物がいるのに、我ながら危機感0だ。


姫とルミネの間にショウが割って入り、何を思ったか向けられていた剣の切っ先を手で上に押し上げる。


「人を指差すなと親に教わらなかったか?」

「いやそれ指じゃねえだろ!」

「人を指して示すなと教わらなかったか?」

「言い直しても意味の中身変わってねぇから!」

「大体あんたの話には主語がない。言いたいことが伝わらない」


突っ込みをものともせず姫を指差すショウに吹いた。

ちょ!お前がいうなよ!お前がっ!色んな意味で!


「と、レイスなら言う」

「えええ、ソレ俺に回すんか!?」


びっ!と効果音が付きそうな勢いで親指で指差された。

人を指さすなと言ってた癖に二回も連続で指しやがった。

意味が分からない。

わざとか?わざとなのか?人を指さすなこの野郎!


ショウの親指を叩き下ろした音で若干停止状態にあった姫様がようやく起動をする。


「あなたがたが、私の国を、滅ぼしたので、今日中に、死んで下さい。…これで良いですね?」

「断る」

「なっ!意味が分かりません!」

「俺にもあんたの言う意味が理解出来ない」

「いやショウ、あんたも充分すぎるほど意味分からんから」

「む、どこがだ?」

「全部。全部が意味分かんないんだよ」

「失礼な。ちゃんと言語を話している。ルミネとは違う」

「びゃうあああっ!」

「痛ぁっ!え、なんで俺ぇっ!?」


ルミネが俺のスネを蹴り飛ばした。

ひでぇ。絶対青あざになる。なんて理不尽なんだ。

気持ちのやり場のないのは分かるが、俺にぶつけるのはまじ勘弁して欲しい。

俺はショウの保護者じゃないし、責任者でもない。

とはいえ、これ以上話が足が青あざだらけになるのも困る。というか痛い。


「あー姫様。俺らはなぜ俺たちのせいであんたの国が滅んだのか分からないんだ。ちょっと前に誰もいない国見た。それと関係あるのか教えてくれないか?」


今頃、尊敬語も謙譲語も使うのも気が引けるので、変わりに少しだけ丁寧に聞いた。

剣を押し上げられた変な状態のままなリアナタ姫様は表情を改める。


「近年、勇者の血族がいない国が滅びていっているのです」

「はぁ…。それはなぜ?」


普通なら聞いて当然な疑問。

その質問のどこに怒りの要素があったのか分からなかったが、姫様が怒りを込めて力強く剣をアスファルトに包まれていない、土の地面に差す。

剣は1cmほど埋まった。超微妙だ。


「知りませんっ!ある日突然民が消えた恐怖…!分かりますかっ?いつの間にか、誰も誰しもが居ないのです!」

「それは大変だな」


毎度ながら空気の読めないショウの発言を聞き流しながら、考える。

一瞬で国が滅びる。聞いたことはない。

まぁそんな大層な話、噂になったら大混乱だろうし、内密なのかもしれない。

だとすればルミネの故郷が蛻の殻だったのは間違いなくそれが理由だろう。


「あー、なんで姫さんは生き残ったんだ?」

「私はあなた方を追って、家来のコミオンと共に国外部に出ていました。そのためでしょう」

「強運だな」

「ショウ、あんた少し黙っててくれ」

「……」


超素直なショウが沈黙に移ったのを確認し、ルミネの横にまわった。


「さぁ、死なねばならない理由は分かりましたね、勇者よ!いざ勝負ですわ!」

「……」

「無視とはいい度胸ですわね…!」

「……」

「くっ!なめないで下さいましっ!」

「……」


「…よし。ルミネ、行こう」

「ん」


二人が遊んでるうちに、そっとルミネと共にその場を離れる。

離れすぎると俺が不味いが、ショウの話だとは2㎞?3㎞?4㎞?なんだっけ?

まぁそれ位は離れても大丈夫らしいし。


「さて…変なのと会っちまったし、宿はまた今度にして今日は必要なの揃えて国出るか?」

「うああー」

「あ、まず必要なのがねぇな」


いや旅に必要なものが無いわけがないよな。


思わず視線を彷徨わせるとショーケースに飾られている半分しかない黒猫と目があってビビった。

右下に宝石泥棒すると、あのダークライオネスだって指一本で一捻りな定員が捻りに行きます。と達筆に書かれている。

あの、宝石屋さんか。あー驚いた…。

指一本じゃ捻れないと思うんだけど。


「ふぶぁるるるー」

「お、そうそうルミネの剣買わないと。あー、あっちかなぁ100均」

「ひ、ひあばぅっ!?」

「ん?100均知らないのか?売ってるもの全部105円なんだぜ」

「ちゃー!ぐっががぁっ!」

「そうなんだよ…。あそこって、たまに315円とかあるらしいな。怖ぇ」

「うぅぅぅ…ぁぁぁあ…」


国が滅びる、か。


あの様子だと、マジな話だろう。

まぁ姫様ってんじゃ演技力もあるだろうが。


…大丈夫かなー。俺ん国。

自らの鞘だけとなった剣を右手で握りしめた。






           I did not throw away the country.

                   I was not deserted to the country.

   I do not have the thing that cannot return to the country.

彼ら借金返すの早かったですねー。…あれ?

ちなみにカルシウムが減ったために短気になる、イライラするというのは、通常は起こらないらしいです。

重度の骨粗鬆でもない限り…。

なのでタイトルは間違ってます(え

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