ビタミンミネラル
お久しぶりです。
彼らもまた何週間か経過していたようです。
荒れ地を抜け、数日。
お前が先頭歩くと、気付かないうちに徒歩で海渡っちまう気がするんだよ。
とレイスに言われ、廃パナニフ国を出てからは最後尾をガラガラと付いていっている。
…そういえば俺は何故いつも荷物持ちなのだろう?
ふと、廃国からパチった二輪車を引きずる足を止めた。
乗っている荷物はでかい黒猫。
半分は食したから既にないが。…こう、縦に。
「お、山だ山」
「あー」
10m程前には鞘をくるくると回しながら先を行くレイスとそのすぐ後を付いていくルミネ。
ルミネは手ぶらだ。
武器すらない。いや、あの拳銃は武器に入るのか?
…考えてみれば俺も武器は持っていなかったな。
まぁいいか。
考えても仕方ない。
いつものごとく考える事を放棄し、再び足を進める。
レイスが離れてきたのに気付いたのか、振りかえる。
それにつられルミネも振り返った。
「え、遠!ショウ、あんま離れんなよ。あんたが迷ったら困るのは俺なんだよ」
「大丈夫だ」
「何がだよ何が」
軽口を叩き、追いつく。
ルミネが疲れたように苦笑いしているのを見てレイスが荷台を親指で指した。
「あ、ルミネ、疲れたら荷台に乗せてもらいな。俺たちと違って普通の一般ピーポーなんだから」
「はむあうー」
「大丈夫大丈夫。コイツ体力馬鹿だから」
「あううー」
「はっはっは」
「…がー」
……恐らく会話は成り立っていない。
足元には荒れ地の時は全く無かった緑。囲まれているだけで疲れが飛ぶような気がする。
疲れてはいるわけではないが。
やはり植物はいい。
「ってオイ!アホショウ何食ってんだよ!」
「スベリヒユだ」
程よい酸味が癖になる。独特の粘り気がまた良い。
ビタミンCとミネラルを含む野草だ。
「お前はまた拾い食いを…花オタめ」
「拾ってない。摘んだ」
「同じだ花オタ」
「…そうか?」
「そうだ」
そうか。
納得しつつ、ルミネにスベリヒユを差し出す。
「…ぇ」
「スベリヒユはミネラルの補給になる。ビタミンCも含んでいる」
「ちょ、おまっ!人の話を聞いてなかったなっ!?」
「…失敬な。聞いていた」
「…うがぁー!あー!面倒臭せぇっ!大体あんたビタミンCとミネラルの効能知らねぇくせに!」
体にいいとは聞いたことがあるが、そういえばイマイチ知らない。
レイスは人の事を花オタだなんだ言う割にだいぶ栄養オタクだと思う。
「…美容?」
「よーし来たいいだろう久しぶりに授業開いてやるぜ。フライム」
「なっ!?なんてことをするっ!?」
草花を一面焼き払うという暴挙を繰り出した。
全身の力が抜け、がくりと膝をつく。あぁ、なんたる暴挙!
「いいか。ビタミンCは水溶性ビタミンの一種で、アスコルビン酸のL体のみを…」
「………あぁ…野草が…」
「…あールミネ、変わりに聞いてくれ」
「ん」
ガリガリと鞘で、地面に文字を書く音を聞きながら、逝ってしまった草花を嘆いた。
「多くの動物はそのアスコルビン酸を体内で合成できるけど、人間と霊長類の一部、モルモットとかのごく僅かな生き物のみ体内合成が出来ないんだよ。だから1日当たり100mgを推奨。取らないと欠乏症としては壊血病、歯茎から出血、傷の治りが悪い、骨が脆くなる、免疫力低下、肌のはりが失われるとかだな。ストレスや風邪、喫煙などでビタミンCは減少するから注意だな。
余分に取りすぎても基本的には大丈夫だけど、空腹時とかにビタミン剤とかであんま過剰に取ると下痢とか、胃を痛めたり…。他にも色々言われてるけど、取らないほうがやばいんじゃねえかな」
「うあー」
「で、効能は…そうだな、ビタミンEの抗酸化作用活性を取り戻す力がある。酸化作用を防ぐことで細胞の老化、心筋梗塞、動脈硬化、狭心症、ガン、白内障の予防になるんだ。アルコールの分解酵素、アセドアルデヒドの手助けの効果もあるんだぜ。ビタミンC単独でも免疫力を高めたり、発ガンを防いだり、動脈硬化を予防したり、
鉄分や、さっきスベリヒユに含まれてるって言ってたミネラルの吸収促進。…美容的にはシミ、そばかすを防ぐ効果もある。一度出来ちまったシミそばかすを目立たなくする事も出来るんだぜ。
ストレスや治癒にはアスコルビン酸要求量が増えるらしいから、そういう時は多めに摂取しないとな」
「あぐぅぐ…」
ちらりと見るとルミネがずらずらと書かれる謎の図式と用語の多さに顔を青くしていた。
がんばれ。
「では質問。ビタミンCを多く含む食べ物と言えば?」
「だー」
「はいルミネ君」
「うぶるるる」
「…あー。…そうだなー。レモンと思いがちだよな。でもぶっちゃけおんなじ柑橘類のグレープフルーツやユズよりは少ないんだぜ。ない訳じゃあないけどな」
「うあー」
「ビタミンCは柑橘類の他、柿、アセロラ、イチゴ、キウイフルーツ、マスクメロン、グァバ、ブルーベリー、ブラックベリー、パパイアとかのフルーツの他、トマト、ブロッコリー、芽キャベツ、カリフラワー、ほうれん草、パセリなんかにあるぜ。あと酸っぱいものにビタミンCは多いっと思われがちだが、サツマイモやジャガイモなんかにも豊富に含まれてるんだ。…まぁ、確かにビタミンCは酸っぱいもんが多いけどな。…んでミネラルは…」
「びゃっ!?」
やっと終わったかと思ったらミネラルの第二段に続けられる説明にルミネが悲鳴を上げる。
不憫なので仕方なく立ち上がった。
「レイス、話が長い」
「止めてくれんなよ!…あれ?ショウ復活したのか?」
「燃えてしまったものはしょうがない」
レイスが絶句するように息をのんだ。
でもしょうがないじゃないか。
「…お前、さっぱりしてんのな」
「何がだ?」
「…いんや、いいよ…もう」
「そうか」
また短い沈黙が起こり、ルミネが服についている土を払う音が
静かな謎の暗号がつらづらと書かれている燃え地に響く。
レイスが気を取り直して切り出した。
「……で、ミネラルってのは12成分の亜鉛、カリウム、カルシウム、クロム、セレン、鉄、銅、ナトリウム、マグネシウム、マンガン、ヨウ素、リンのことをい」
「…ルミネ、遠慮なく止めてくれ」
「ん」
呪文のような言葉の羅列が口からこぼれているレイスからルミネが離れていくのを黙って見守った。
拳を握り、金髪を太陽に輝かせながら助走をつけて走り出した。
「ぎっぎゃあっ!」
「ふぶぉうっ!」
ジャンピングパンチが顔面に綺麗なフォームで決まった。
顔を反った、レイスの様子に感嘆する。
ルミネも流石は剣士。結構な力だ。
額を押さえてレイスがきっと見下ろした。
「ちょ!ルミネ少年何すんの!?」
「…し!?」
「少年!人の顔殴ったら背ぇ伸びないよ!?」
「……!?」
「…それはいいが、先には行かないのか?」
「会話が急展開だなオイ!?…行きますっ!行きますよ!行けばいいんだろ!?アホ勇者め!ルミネ、行こう!」
…相変わらず変な奴だ。
固まっているルミネの手を引っ張り、前を進み出したレイスを無表情に眺めながら、二輪車を再び引く。
「ところでルミネ」
「?」
ルミネが顔だけこちらに向けた。
だから俺は手に持っているそれを差し出す。
「スベリヒユは食わないか?」
「ショウ!だまらっしゃいっ!」
「……」
「…うあー」
Even if every day thinks it is usual now
It is likely to become a special day in recalling some time.
自分で書いておいてあれですが、
長い説明見ると思わず、ぱっと飛ばしたくなります。