非常食に黒猫さん
12/12(日)---- 誤字修正しました。
金髪青年の体力回復の事もあり、ゴーストタウンとなっているこの国で
彼らは3日間、勝手に人のベッドを借り、勝手に服を拝借し、勝手に人の家の冷蔵庫をあさった。
何が原因で滅んだかも分からないのに、なんの警戒心もなくのんびり過ごした3日間
本気に特に何もない。
レイスはまだ寝てる二人に変わって、愛鞘(?)を片手にカーテンを開ける。
見事な曇天。なんて湿気に溢れたいい天気なんだ。
これなら固焼き煎餅も五分で濡れ煎餅のような食感になるだろう。
…久しぶりに雨が降りそうだ。
今日出発しようと思っていたのに、なんと間が悪い。
まぁ、いいや。明日にしよ。勇者がアレだから、決定権は俺にあるし。
最近増加傾向のあるため息を落としながらレイスは食事の準備をしようときびすを返した。
「おぉぅ!おはよう。起きてたのか」
「…よ」
背後にいた金髪青年に内心はひぎゃあと悲鳴をあげ、表面的には笑顔であいさつ。
あいさつは大切です。
「さ、飯にしようか。確か冷蔵庫の中にマイタケが入ってたはずだぜ。マイタケ好きか?」
金髪が頷く。
本当に静かな奴だな、と思う。
いや、ショウも賑やかではないが、植物が関わると突然原稿用紙5枚分にはなる力説が始まる。
あれは長い。ひたすら長い。
「よしじゃあ金髪君…あーそういや、自己紹介してなかったよな?俺はレイス。であのお寝坊バカがショウ。あんたは?」
どう考えても3日間共に過ごしたものがいうセリフではない。
ショウは度が過ぎてるが、その辺の適当さはレイスも十分なものだった。
「…イ…」
「…胃?」
「んなぁ訳あるかアホショウ!」
起きたと思ったら、まず一番にとぼけたこと言いやがって!
鞘が綺麗な放射線を描き、ショウの頭にぶち当たる。
恐らく避けようと思えば避けれるはずだが、ショウはレイスの攻撃は避けない。
何故だと聞いても、特に理由はないと答えるだろうなとレイスは思う。
あいつの思考は空っぽだ。
金髪青年が突然レイスの腕を掴んだ。
怯んだレイスの目をしっかりと見つめて金髪君は言う。
「うああー」
「…え。金髪君、君まさか喋れない系な?」
「ん」
それも3日間共に過ごしたものがいうセリフではない。
「昔、話てるのを見た。その後何かあったのだな」
「あー、うん。何があったか俺は聞かない、うん。」
「あああ」
じゃあ、なんて呼ぼう。
レイスは金髪青年をマジマジと見る。
あの時は鎧を着ていたし、遠目だったから分からなかったが、意外にも身長が低い。
というより若いようだ。まだ、未成年だろう。
「よし。仮名を付けよう。いつまでも金髪君はどうかと思うし」
「ルミネはどうだ?」
「お、意外にまともな答…」
「ちなみに胃という意味だ」
「…アホショウめ」
じゃあ、お前は何かあるのかというショウの目線。
彼らの中に筆話で聞くという手段はなかった。
レイスはしばらく考える。
「…チビ太?」
「えあっ!?」
「…レイス、ネーミングセンスがないとよく言われるだろう?」
「だまらっしゃい」
ちなみに彼にはシャインという立派な名がある。
まぁ、お尋ね者だし偽名で通した方がいいかもしれない。
名前を付けられるのには意義しないが、チビ太は止めてくれと切実に思った。
「…うん、じゃあルミネでいこうか」
「ルミネだな」
「う。…い…」
だからといって胃もどうなんだろうとは思う。
二択しかないのか。
「!」
「ぬおうっ!」
いつかと同じ地面の揺れ。
震度も前と同じ位だろう。
「また地震か」
「びびった…。あー心臓に悪い…」
心臓を抑えるレイスをルミネがつつく。
表情は暗く、顔をうつむけながらルミネは指を向けた。
「どし…おぉう」
示した先には窓の外、曇りの下を進むいくつかの影。
「俺の記憶では国には結界みたいなのが張ってあったような気がするぜ?だから、魔物が入れないとか何とか…」
「ほぉ。初耳だな」
巨大な猫型のそれにレイスは軽くめまいがした。
俺、アレ、なんかトラウマっぽいんすけど。
「まっさかアイツ等に滅ぼされたとか?」
「…!」
「いや、それはない。魔物の形跡はなかったからな」
で、アレ、どうするよ?
焼き払えばどうだ?
一瞬でアイコンタクトを交わす。
それに答えるようにレイスは魔力を高めた。
「フレイ…ってやるかよっ!確実に俺らが国を滅ぼした犯人だと思われるわ!」
「よく気付いたな」
「わかってんなら提案すんじゃねえ!」
レイスは気分的にやつれた。
どうしてこう、こいつは危機感というのがないのか。
まったくもう。あーやんなっちゃうわ。
…とか思うレイスにも危機感があるかは正直怪しいが。
「中にいりゃバレないかな?」
「今日出るのではなかったか?」
「雨降りそうだし。今日は止めよって思ってさ」
「そうか」
ルミネが窓に張り付いて、影-ダークライオネスを観察する。
見つめる表情が固い。
そう、それが普通の反応。だが、その表情には恨みも読み取れた。
その様子にショウも気が付く。
非常に空気は読めないショウだが、意外にも気配りは出来たりする。
矛盾しているようで実は同存できる二つの単語だ。レイスも最近初めて知った。
「夜、安心して寝れはしなさそうだな」
「あー、じゃよろしく」
勇者に契約者は丸投げした。
「あんたは?」
「俺、どっちかっつーと魔法タイプだもん」
「鞘は?」
「流石に無理」
「何故だ?」
「あの黒猫さんは強いから」
「…そうか」
納得し、玄関に向かう彼をルミネが眺める。
恐らく心境はマジ?行くの?といった感じだろう。
壁に立てかけられた鉄製の靴べらを持ち、扉に手をかけて振り返るショウ。
「じゃ」
「行ってら」
かちゃんと静かに閉まる音。
レイスがショウの消えた扉を遠い目で見た。
「うあー」
「今回は靴べら、かぁ…」
「うあああー」
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四匹か。
靴べらを振り回しながら数える。
ふむ、悪くない重さだ。
黒猫が唸る声をBGMに武器を逆手に持つ。
冷静に無表情に敵と対峙している姿は、はたから見て恰好良かっただろう。
武器が靴べらでなければ。
今日は鮮度の高い肉がたらふく食えそうだな。
襲いかかってきた一匹目の牙を避けながら、翔はそう思う。
さて、やるか。
一歩踏み込む。たんっと静かな音を始まりの合図に、残りの三匹も動き出す。
翔を囲む形に別れて走り出し、初めに避けた一匹が後ろから再び牙をむける。
身を翻して避け、カウンターをしかけようとした翔に別の一匹が飛びかかる。
思わず蹴り飛ばし、それが勢いよく塀を破壊したのを見て、あぁきっとレイスが今頃喚いてるな。と思う。
黒猫が威力を見て怯んだ。ある程度の知恵はあるらしい。
その隙に左の黒猫との間合いを詰め、切る。
靴べらとは思えない切れ味で深く首を切りさかれたその黒猫は血しぶきがあげ、倒れた。
《ガァァアアアアッ!》
残りの二匹がやけくそ気味に向かってくる。
飛びかかってきた一匹に備え、靴べらに力を込めた。
「必殺、ハエたたき」
黒い弾丸のごとく突っ込んできたソレを、逆手のまま全力ではたき落とす。
靴べらの反発力を最大限に生かした攻撃で、地面に軽くクレーターを作った。本当に無駄な馬鹿力だ。
…蝿の割にでかいか。
残りの一匹に靴べらを弾き飛ばす。
かこーんといい音がして、黒猫が気絶したのかそのまま倒れた。
当たり所が、たまたま悪かったようだ。跳ね返ってきた靴べらをキャッチする。
狙ってやっていたら凄いかもしれないが、行き当たりばったりな偶然だ。
翔はゆっくり近づいて気絶している最後の黒猫の息の根を止めた。靴べらで。
どういう原理かは不明だ。
靴べらに付いた血を振り払い、血みどろの中で翔は珍しく少し後悔する。
「この量は、干し肉だな。馬車を捨てるべきではなかった」
馬車があれば、干しながら進めたのに。
…そういえば此処は農国だったな。ならば一輪車があるか。貰おう。
火事場泥棒という言葉を彼は知らなかった事にした。
靴べらを持った手で、家の中の二人に手を振る。
「非常食、確保」
いや食わねーよ!
レイスの叫びが聞こえた気がした。
Because it is a life, it is not possible to throw it away coarsely.
The life to power. And, I live in today.
今の時期に肉や植物を日干しをしても
湿気が多いので、難しいと思います。