金髪が眩しい廃畑
大地と川しかない地帯に立ち尽くす一人の金髪の男がいた。
彼は王国に仕えていた若き騎士隊長、シャインだ。
勇者を引き留められなかった役立たずとして、シャインは死刑となったが
自分を慕ってくれていた部下のおかげでシャインは今生きて此処にいた。
服装はボロボロで腕には鎖。その手には持ちにくそうに小さな拳銃が収まっていた。
飾りが多く、見るからに威力の低そうなそれは戦闘用というより装飾品だ。
彼は命かながらその部下と共に、故郷を目指し、逃げてきた。
しかし自分を救ってくれた部下は魔物により重傷を負い、さきほど命つきた。
つまり、コミオンも失ったのだ。
その後かれこれ三時間歩き続けてきたが、故郷までの道のりが
自分の記憶とあまりにも違い、弱りきった心が砕けそうになる。
ここは豊かな森だったはずだ。なのに木のあった気配も名残もない。
コミオンもいず、変わり果てた土地。
助かる希望を見いだせなかった。
彼はふらりとしゃがみ込んだ。
なぜこんな事になったのか。
いや、勇者に恨みはない。
嫌な事を無理やりされそうになったら誰だって抵抗する。
私も此処まで逃げてきたように。
状況は最悪。
しかし彼は真っすぐ、力強く前を見て再び立ち上がる。
拳銃を強く握りながら、よろよろと不安定な足取りで、それでも前に進む。
「おい!あんた大丈夫かよ!」
「!」
ふと隣から突然かかった声に、シャインはそれはもう驚いた。
顔を上げると、城に勇者と共に来た男。
「ボロッボロじゃねえかよ!コミオンはっ?」
状況に追いついていかない頭をとりあえず横に振る。
男は舌打ちをし、何かを唱える。
穏やかな光が体を包むように広がり、それに伴い驚く勢いで体が癒やされていくのを感じた。
それは魔法。この人は僧侶だったのか…。
諦めなくてよかった。諦めちゃ駄目なんだよね?
思わず空に向かって静かに笑う。
「くそっ!ショウ!」
その声に視線を戻す。男の後ろからマイペースに現れた緑頭。
いつか城にきて、城中の扉を壊しまわったあの勇者だ。
無表情にシャインを見て、目に眩しいなと一言感想を漏らした。
あぁ…金髪の事か…な…?
「あんたの方が早いだろ!?急いで国に行ってきてくれ!」
「分かった」
勇者が漏らした感想に男は触れず、のほほんとしている彼に焦り気味に言う。
彼らのこの温度差はなんなんだろう。
勇者はシャインひょいと俵を持つように担ぎ、走り出す。
一瞬、拳銃を落としかかり、慌てて強く握った。
「あ!ちょ待て待て待て!逆だ逆!やっぱ俺も行くわ!おい!待てぇぃっ!アホショウがぁ!」
あれ?……助かる、かな?
余りの速さに意識が遠のいていった。
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「マジかよ…」
「まぁ、予想はしてたがな」
「いらねえよ、そんな予想」
レイスが頭を抱える。
人の影すらない、家々。
広がる畑には雑草一つ生えていない。
「ぅ…」
「…気付いたな」
身じろぎをした金髪を肩から下ろし、家の影に置…寝かせ、街並みを再確認した。
生き物の気配は無いにせよ、生活していた感がまだ残っている。
まだ建物が崩れていないのを見ると、まだ人々がいなくなって早いのだろう。
滅んだ、にしては綺麗すぎる。
引っ越したか、…消えたか、だな。
あぁ…消えるのも滅んでるに入るのか。
「わりぃな…急いで近くの国にはきたんだが…」
「……!」
レイスの言葉に金髪は体を起こし、その景色に息を呑んだ。
「とまあ、人も国もなかった訳だよ…。助けてやりたかったんだけど…。例え後1日余裕があっても近い国はないんだよ」
「………」
ゆっくりと首を降って、自力で立ち上がる。
姿勢をただし俺たちに深く頭を下げた。
よく訓練された兵士の動きだ。
「……ん?あぁ!あんたはあの時の…」
金髪の顔をマジマジと見つめ、ようやく思い出したように納得する。
いつぞやかの赤タイツに仕えていた兵士だろう。
顔はよく覚えてなかったが、感でそんな気がしていた。
「あーうん。聞かないよ?俺は何も聞かない」
金髪の手錠を見たレイスが見なかったことにする。
「ま、兎も角その辺の家におじゃましよう。あんたも疲れてるだろ?あれから三時間位たったけど…。お前さん、コミオンいなくなってから何時間たってたんだ?」
思案するように金髪が首を傾げ、指を三本立てた。
「…三歳?」
「んな訳あるかアホショウ!」
すぱーんと鞘で叩かれる。
反動で後ろの壁に頭を打った。
「…少しふざけただけではないか」
「あんたの本気と冗談の違いが分かんねえんだよっ!」
首を絞められながらガクガク揺らされる。よくある光景。
しかし、呆気にとられてる人物が一名。
レイスが3は三時間だろうよと一人呟き、ピタリと止まる。
「三時間?足して六時間。すでにアウトじゃねえか!」
唐突な大声に今まで呆然としていた金髪がわかりやすくびびる。
何がアウトなんだ…?
あぁ、コミオンか。そういえば時間制限が半日だったな。と思い出す。
「…時間をやたら気にすると思っていたらそういうことか」
「今更かよ!」
「恐らく、だが。レイスの血は半分以上、こちらの世界のものだろう?だから他者のコミオンにもなれるのだろう」
「そうなのか?」
「知らない。俺は世界じゃない」
いいじゃないか。
丸く収まったんだから。
「んなアバウトでいいのかよ?」
「いいだろう?」
「…え」
「金髪君に質問を回すなよ!」
右ストレートを華麗に決め、レイスは気を取り直した。
「まぁ、なんにせよ大丈夫っぽいぜ。良かったな金髪君。尚更今日はゆっくり休もうぜ」
不法侵入して。と続けるレイス。
金髪が苦い表情を浮かべながらも頷くのを確認し、適度に広そうな家に進み始める。
窓を割るのはよして、玄関のカギを壊そう。
こちらに来てから勇者というよりは、泥棒とか原始人に近づいた気がする。
……気のせいか。
「取り合えず、ここに居座らせてもらおうか」
一軒の家を指差したレイスを通り過ぎ、その指差された家のドアノブを捻る。
ばきっと無理やりな音がして簡単に開いた。
「む?開いたな」
「ショウ。それは開けたっていうんだぜ?」
「……」
金髪の何とも言えない目線に気づかないふりをして、家に入った。
冷蔵庫に食料はあるだろうか。
…盗むのではない。貰うのだ。
てーい!という声と鎖が切れた音が外から聞こえた。
レイスが鎖を切ったのかだろう。鞘で。
考えてみれば、鎖を切れる鞘で全力で叩かれて、よくこの頭は無事ですむものだ。
レイスは、俺のことを人外かなにかのように言うがあいつも十分人外だと俺は思う。
あぁ、それも俺のせいか。まぁいい、結果オーライだ。
しぶしぶと入ってきた金髪にちらりと目をやった。
鎖が切られて両手は自由になっているが、鎖自体は腕に付いたままだ。
あれは色々不便だろうなと呑気に思う。鎖とは結構重いものだ。
あいつ、どうするのだろうか?
あの反応をみて、ここは彼が知っている場所なのだろう。
恐らくだが、目的地。仕事も失ったようだな。
まぁ、これは彼が決めることだ。俺が考えてもしょうがない。
ふと金髪を担いできたときに、内ポケットに突っ込んだ存在を思い出す。
「…あぁ、金髪。これを」
「!!」
金髪はそれを両手で受け取ると再び頭を、先ほどより長く下げた。
いつの間にか家に上がっていたレイスがその手の中を見て、首をかしげた。
「…拳銃?」
その疑問には誰も返答せず、俺は窓の外を見る。
それにしても植物が無さ過ぎる。
農国、か。広がっている畑を見る限り、豊かな土地だったのだろうな。
輸出先とかは大丈夫なのだろうか。
いや、これも俺が考えてもしかたのないこと、か。
どうしよもないことが、世の中沢山あるのだから。
The world is wide, and I am small.
Anything cannot be done for myself. I know it.
Therefore, I give up resisting.
植物が、出ませんね…
植物が無いなんて…