辛いってより痛い
お久しぶりですレイスです。
覚えてますかこちらギルドで成金してきたばかりの勇者一行です。
隣にいる緑頭が花オタどアホ勇者で俺の契約者なショウ。
で、下に転がってる人を見てる二人が俺たちとは別の勇者一行、
チビ勇者ハンリュウと彼の契約者ヴェリア姫さんだ。
財布も厚くなったしいい気分。
まぁ、借金返済ですぐ消えるけど。
ていうかよく財布に入りきったなー。この財布すげーなぁ、なんて現実逃避をしてみる今日この頃。
「あんたのさ、その場にある植物使う癖どうかと思うな」
「何を言う。その場にあるから使いやすいのだ」
俺たちはダジューを後にし、次の国に向かっている。
何度も同じギルドで荒稼ぎしたらギルドが潰れちまうだろうし、何より国の中での野宿はなんかヤダ。
行く当ても無いのでチビ勇者一行が向かうという国、バイギヲアに取り敢えず着いていくことにした。
今いるのは山岳地帯で、周りには誰が植えたのか…
通常、野生では考えられないある植物が生えていた。
とても辛い結構有名なアレだ。
「勘違いしがちだが、ハバネロとは一般的な唐辛子と少し違う。」
「マジ?ハバネロって唐辛子じゃねえの?」
気まずい空気を気にせずに口を開くは手に緑の実を付けた枝付きのその植物を持
ったショウ。
聞き返してやると無表情の中の瞳が嬉しそうにキラリと光った。
普段は聞き返さす足はらってるからこそ興味を持ってくれたのが嬉しかったよう
だ。
…花オタスイッチを入れてしまったらしい。
「トウガラシとはCapsicum annuum L.でトウガラシは勿論、ピーマンやパプリカ等も含まれる。ハバネロはCapsicum chinense Jacq.Heser & Smith、つまりシネンセ種。ちなみにタバスコペッパーはCapsicum frutescens L.キダチトウガラシだ。」
「英字やめてくれ。訳分かんねぇ」
そのまだ青いトウガラシ、では無くハバネロを投げ捨てた。
流石にこれは花オタでも食えないようだ。
むしろ、食ったらドン引きだけど。
「まぁ、全てトウガラシ属だからトウガラシでいい…のか?ならばピーマンもトウガラシでいいのではないか?」
「聞くなって」
げんなりと答えてやった。
正直、どうでもいい。
「周知かもしれないが、ハバネロよりSBカプマックス、更にそれよりブートジョロキアの方が辛い。」
あぁ、どっかで聞いたことはある。へー、と思ったくらいだが。
ヴェリアとハンリュウが顔を上げた。
「そうなんですか?私、知りませんでした…」
「僕も…」
でも、それより私、目の前の悶え咳込んでる人が気になるんです。とヴェリアが
再び視線を向け、ハンリュウも続く。
「まぁ、辛そう…だね」
「だな」
自分で食わせたくせに人事のように頷いたショウ。
すぐにハンリュウはサッと視線を逸らし、何か求めている目で俺を見る。
俺に何を期待してんだよ。
コイツのこういった行動にいちいちツッコミいれてたら、年が明けるから。
「青い実のほうが赤い実より辛いからな。それと小さく刻んだ方が辛くなる。」
「へぇ!翔お兄さんは物知りだね!」
投げやりになったハンリュウ。
ショウがさっき自分で投げ捨てたハバネロから実だけを千切り拾う。
小さいピーマンのような実だ。
「唐辛子類の辛み成分はスコヴィル値で表されるのだが、ハバネロは30万~50万スコヴィル。その中でもレッドサビナという品種は57.7万スコヴィルだそうだ。比べてタバスコは4万。ピーマンは0。」
なお辛みとは味覚ではなく痛みである。
彼はヴェリアにすっと青い実を差し出した。
「食ってみるか?」
「入りません!」
全力で拒否した。
「ブート・ジョロキアは100万スコヴィルだ。すごいだろう?手榴弾や兵器になるわけだ。」
「あー確か…トウガラシの辛みは、アルカロイドのカプサイシンってのでアドレナリンの分泌を活発化、発汗、強心作用があったな。医薬品としてはアゴニストが…」
「放置するなあああっ!」
悶絶していた男がようやく立ち上がった。
せっかく花オタの植物講座に便乗したのに。
顔が赤い。唇が腫れてる。
ビバ、トウガラシ効果。
熱いですかー?
痛いですかー?
それとも怒ってますかー?
全部ですかそりゃそうだよな悪かったな。
男がショウに指をびしっと指し示した。
「借金返せや!畜生がぁ!」
「あはは。言ってることが借金取りみたいだね」
「その通り借金取りっすよ!」
和やかに笑うハンリュウに真っ赤な男がいきり立った。
その様子にヴェリアがまぁ、と口を押さえる。
って借金取りぃ…?
「まぁ!借金取り!」
「借金取りって本当にいるんだ!」
「え?何すかこの希少動物を見る目は」
少し狼狽える借金取り。
それを観察するようにみるチビ勇者一行。
うーん。上下ジャージ…。
…まぁ、身軽そうだな。いいんじゃないか?
どっかのさ、靴で戦う花オタに比べてはよ。
隣のその花オタを見る。無表情な彼に思わずため息が口からこぼれた。
なんだろう、この脱力感。
ショウが俺の心情に気づくはずもなく、男の顔を見つめしれっと呟く。
「最近の借金取りは顔が赤いのだな」
それはお前のせいだよアホショウ。
「顔が赤いのが借金取りなんですね」
ヴェリアが手を叩くジェスチャー付きで納得した。
コラ!ショウ!間違った借金取りのイメージ付くから止めなさい。
話が流されかかっているのにようやく気付いた借金取りがあたふたと叫ぶ。
「と、ともかく!突然口の中に入れやがって!オイラ死ぬかと思ったんすよ!」
「大丈夫だ」
「何が大丈夫か意味分かんねえし!ともかく借金返せ!毎月借金ってのは増えるんす!早めの返済をオススメします!」
勢いに思わず退く。
元気だなぁ、若いなぁ…。
しかしまさかこんな場所まで出張借金取りに来るとは。
一人で…来たのだろうか?コミオン無しで?嫌まさか。
なんて頭の片隅に思いながらも、これ以上問題児の相手をさせるのは流石に可哀相なので、財布を取り出した。
「あー悪いな。じゃあ取りあえ…」
「利子は?」
花オタに遮られた。
テメ…空気読めないのも対外にしろよ…。
「月5%!」
「ならば毎月1,490,000円払えば増えない」
…あーうん、なるほど。確かに増えては無いな。
その計算の速さに使っている脳細胞を一般常識に使用してくれよ。
「確かにそうっすね…って何すかその考え方!?現状維持じゃなくて減らせよ!」
おおお、と感嘆。
突っ込み体質だ!
凄く突っ込み体質だ!
あんたみたいなタイプ、ショウといたら絶対に絶ーっ対凄く苦労するぜ!
いなくて良かったな!と言う言葉は飲み込む。
「ほんと悪いな。ほら取り敢えず半分。」
ショウをど突きつつ札束を渡した。
目を輝かせる借金取り。
「おぉ!結構集まってたっすね」
「こんなでもコレ、勇者だからな。荒稼ぎは得意としてんだ。」
花オタ兼アホ勇者の背中をばんばん叩く。
え。と借金取りはショウを見た。
震え、膝をつき、猛烈に落ち込んだ。
「勇者!?嘘だ…!」
「俺もそう思う」
「私も思いました」
「だよなー」
ヴェリアと頷き合う。
それにショウが眉を寄せた。
「俺は至って普通だ」
「はいはい」
ショウをあしらう。
あんたが普通だったら普通って何だろうだよ。
普通ってなんなんだ!
ハンリュウが輝く笑顔でぽんと手を叩いた。
「そっかぁ!翔さんが勇者っぽくないからコミオンのレイスさんも女の人じゃないんだね!」
「「え」」
借金取りとハモった。
なる程、そうか。そうなのか!
「まぁ…毎度ありっす。なんか疲れたから帰ります…」
ばびゅーんと爽やかに彼は飛び去った。
…なる程、僧侶だったのか。
借金取りの、ジャージ僧侶か…。
ヴェリアが空を見上げた。
「世界には色んな人がいますね。」
嵐のように過ぎ去って行った彼。
あー。
普通って何なんだろう。
ブチブチブチという音に空から目を離し、ショウを振り返り見る。
根付きでハバネロを引っこ抜いてるソイツを見て、疲れが更に押し寄せる。
「レイス。ハバネロを持っていく」
「あー…お好きにどうぞ」
「唐辛子手榴弾を作ろうと思う」
「……どうぞお好きに」
…取り合えずショウみたいなのじゃないな。
It doesn't usually exist.
It is not usually usual.
友人が青い唐辛子を食べて悶え苦しんでいるのを見て書きました。
ありがとう!友人よ!