月夜の下で照る乙女
あなたからのささやかなお返事を、今日も目一杯にブルーライトを浴びながら待っています。
すぐにお返事ができるように、電子版の漫画でも読んで待っています。
ずっとスマートフォンと顔を合わせていては良くないと、そういうことは分かっています。
だから何度か、机の上に広げられたワークブックにちゃんと集中してみることにしました。課題もやらないといけないですし。
だけれど、体内時計の数分後、もうじきお返事が届いているころだろうと、また懲りずに冷たい光を浴びてしまうのです。
話している時の、あの心が通じ合っているような感覚が、まさにやみつきスパイスなのです。
思い出しては、そのあたたかさにうっとりとしてしまいますし、それといっしょに胸が躍り騒ぐのが耐えられません。なのにその感覚が恋しくなるのです。不思議なスパイスですね。
先ほど、心が通じ合っているような感覚と言いましたが、ほんとうに糸電話みたいに一直線につながっていれば本望です。
けれど、たとえよれよれの糸でできた糸電話でも、相手側の紙コップがない糸電話でも構いません。わたしは一方通行でもその人とのささやかな時間が過ごせればいいのです。
この気持ちは何なのでしょうか。良くも悪くも体の中のヒーターがもうもうと働き出します。
わたしの顔は今笑ってしまっているでしょうね。がんばってもとの顔に戻そうそしていますが、かえって酷い顔になっていることと思います。この顔が画面の向こうにいる貴方に見えないことに何より安堵しています。
ですがそれと同じぐらい思うのです。
いっそのことばれてしまえと。
ピコンと画面上にメッセージが届いたおしらせが響きました。わたしは少しためらってからそのメッセージをおずおずと開きます。ずっと待っていたのに可笑しいですね。
待っていた訳じゃないの
わたしは貴方と軽い気持ちでメッセージのやりとりをしているのよ。
こんなふうに心の表面をセロハンでベタベタ取り繕うのです。
わたしってひねくれてるのでしょうか。
わたしのなかのヒーターはずっと働き続けています。残業でもする勢いです。
とびうおのように跳ね上がる心臓と、あつく騒ぐ血液と一緒に、ぎこちない笑みを漏らして、わたしは震える手でキーボードを操作し始めました。
月が綺麗ですね、なんて言葉が簡単に言える世の中だったらすてきなのになあ。
わたしはメッセージを送った後、逃げるように画面を閉じました。
それでもまたわたしは画面を開いて、貴方からのささやかなお返事を待っていることでしょう。
どうかはやくわたしからの糸を掬ってください。
今夜は月がきれいですから。