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IF② 第2話 好意

「一回だけ、俺とデートしてくれませんか? それで駄目なら諦めます。その場合でもやっぱり同島(どうじま)がいいなんてことは言いません」


「私がしっかりしてればいいだけよね。桜場(さくらば)くん、分かったわ。デートしましょう」


 先名(さきな)さんがOKしてくれた。考えてみれば俺、先名さんの好きなものとか聞いたことがないな。


 ここで同島と加後さんがケーキ選びから戻ってきた。


「お待たせしましたぁー! すっごいですよ! ケーキがたくさんありました!」


「加後ちゃん、そんなに食べられるの?」


「大丈夫ですってー! いざとなったら桜場さんに食べてもらいますから!」


「俺だって好きな種類を食べたいけどね!」


 二人が戻って来たので、今度は俺と先名さんがケーキ選びへと席を立つ。定番のものに加えてフルーツ多めのものなど、見た目でも食欲をそそるように、いろいろ考えられているんだなと思わされる。できるなら全部食べたい。


 そして隣にはウェーブがかかった黒のセミロングの髪の毛に長いまつ毛、スッキリとした鼻筋、バランスのいい厚さの唇に加え、モデルのようなスタイルの良さをした、美人お姉さんがいる。もうそれだけで鼓動が少しはやくなる。


「先名さんはよくスイーツ食べに行ったりするんですか?」


「うーん、お店に行ったりは少ないけど、コンビニとかに美味しそうなものがあれば、つい買っちゃうことはよくあるわね」


「先名さんもコンビニ行ったりするんですね」


「君は私をなんだと思ってるのかな?」


「なんというか俺の先名さんのイメージは、優雅に暮らす美人お姉さんといった感じです」


「そう思ってくれるのは嬉しいけど、全然そんなことないのよ。コンビニだって行くし、ご飯だって毎食作るわけじゃないし、休日は家から出ないことだってあるのよ。あとね、さりげなく美人とか言ったらダメよ。桜場くんが軽く見られちゃうから」


「えー、思ったことを言っただけで、本音だから軽くはないですよ。それに花見の時やさっき伝えたこと、今も変わってません。俺の好きなタイプは先名さんです」


「もう! ほんとに困った子なんだから……」


『子』なんて何年ぶりに言われたんだろう。意外にもドキッとしてしまった。



 四人でスイーツを堪能した後、三人を家まで送ることに。加後(かご)さんは同島の家に泊まるらしく、先に二人を同島が住むマンションに送った。


 あとは先名さんだけど、家知らないんだよな。とりあえず近くまで案内してもらって、あとは先名さんがここまででいいと言った場所までにしよう。


 助手席には先名さんが座っている。まるで夢のような空間だ。このまま夜の高速道路を走って流れる夜景を見ながら、二人だけの時間を過ごして、そのまま旅行にでも行きたくなる。


「先名さんはどうやって過ごすのが好きなんですか?」


「私は静かに過ごすほうが落ち着くかな。部屋で映画を見たり、読書をしたり。あんまり騒がしいのは嫌いじゃないけどちょっと苦手かも。だから今日みたいに、多くても四人くらいで過ごすのがちょうどいいわね。それに二人きりでまったり過ごすことも好きよ」


 最後に付け加えた言葉。それは俺に向けているようにも聞こえる。


「桜場くん、そこのマンションの駐車場に入ってくれる?」


 先名さんに言われて、高層マンションの来客用駐車場へ車を停めた。


「もしかしてここって……」


「私が住むマンションよ」


「俺に家の場所を教えていいんですか?」


「もちろんよ。どうしてそう思うの?」


「えっ……と、俺も一応男なんですけど」


 自分でも何を言っているんだと思う。先名さんから案内してくれたんだから、そんな質問なんて無意味だ。今日来てくれたお礼を言って、ただ帰ればよかったのに。


「フフッ、やっぱり桜場くんは桜場くんね」


「喜んでいいのか分かりませんよ」


「褒めてるつもりよ。やっぱり初めて会った時の印象通りね」


 確かその時は同島との飲み会で、泥酔した加後さんを先名さんが迎えに来たんだったかな。「良くも悪くも正直すぎる」って言われたっけ。でその後、加後さんと先名さんがけしからんことになった、と。


「私はね、これでも桜場くんに好意を持っているのよ。好印象って意味ね。それで桜場くん、私の部屋に入りたい?」


 そう言われた途端、先名さんの唇が(つや)っぽく見えてきた。女性が男を部屋に入れる。それってやっぱり……。いや、まさか先名さんがそんな軽々しくは言わない。


「部屋に入るのは、もう少し仲良くなってからでお願いします」


 これはきっとまた、俺のリアクションを見て楽しもうとしているに違いない。だったら冷静に返すだけだ。


「フフッ、よかった。ごめんね、変なこと聞いて。それにしても、私の部屋に入りたいとは思ってくれてるんだ。お姉さん、嬉しいな」


 先名さんは『お姉さん』というワードを混ぜた。それはあえて先名さんが、みんなのお姉さんという立場を強調しているかのように俺には思えた。



 そして今日は約束の日。俺は車で先名さんが住むマンションへと迎えに来た。


 行き先は二人で相談して、スーパー銭湯ということになった。意外なことに先名さんもインドア派なため、まったりできる場所がいいとのことだった。


 それにしても銭湯か。俺は先名さんの風呂上がりの姿を想像してしまって、慌ててかき消した。

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